第21話「エロ本じゃないもん」
「『浮気してるんでしょ』なんて聞いて『はい、そうです』なんて言う人はいないでしょ」
「む……そうですね」
じゃ、どうしたらいいんでしょう?
「証拠を押さえて……からがいいんじゃないかしら」
またまた店長さんの浮気疑惑浮上、今回は「証拠品」付きなんですっ!
ドアに「きょうはおわりました」の札を下げます。
観光バスが来てくれたから、今日は完売で嬉しいな。
「毎日全部売れたらいいのになぁ」
コンちゃんはうんざりした顔で、
「客が多いと面倒じゃ」
「コンちゃん、お稲荷さまがそれじゃダメだよ」
「えー!」
コンちゃん面倒くさがりです。
ミコちゃんが奥から出てきて、
「制服洗濯するわよ~」
「はーい」
わたしは返事をするけど、コンちゃんは指を鳴らして着替えちゃいます。
「わらわは術でいいから洗濯などいらん」
「コンちゃん便利~」
「神じゃからのう」
「メイド服着たの、最初だけじゃない?」
「そうじゃのう、それからは術じゃ」
わたし、着替えてメイド服をミコちゃんに渡します。
新しい制服を受け取りますよ。
メイド服でも、ちょっと色違い。
ミコちゃんは服を渡しながら首を傾げて、
「ポンちゃん……」
「なに、ミコちゃん」
「ポンちゃんはずっと制服を着てる……のよね」
「ですね」
「ポンちゃんがお店に来た時から、このメイド服はあるの?」
「です……ね」
わたしの言葉にミコちゃん視線を泳がせながら、
「私の着ている服も、今は店長さんから借りてるんです」
「そうだ、ミコちゃんも神さまだから、術があるもんね」
「術でコスチュームチェンジできるけど、これは借りてます」
今日のミコちゃんの服はスカートですね。
こう、特に変わったところはないですよ。
「店長さん、なんで女物の服を持ってるんでしょう?」
「!!」
そう言えば、わたしも最初のワンピ以外は店長さんが出してくれたヤツです。
今まで気付きませんでした。
「て、店長さんに聞かないと!」
わたしの肩にミコちゃんの手。
「ミコちゃん、止めないでっ!」
「ポンちゃんポンちゃん、店長さんにそんな事聞いてもだめよ」
「え……」
「『浮気してるんでしょ』なんて聞いて『はい、そうです』なんて言う人はいないでしょ」
「む……そうですね」
じゃ、どうしたらいいんでしょう?
「証拠を押さえて……からがいいんじゃないかしら」
では、ガサ入れするとしましょう。
店長さんの過去、よく考えたら全然知りませんよ。
ミコちゃんは家の事でいっぱいみたい。
コンちゃんに手伝ってもらう事にしましょう。
店長さんの浮気捜査なら面白がってやるような気がします。
「ふむ……家捜しをするのか……」
「ですです、店長さんの浮気の証拠をあげるんです」
「店長の浮気かの……あの男がそんな事をするものかのう」
「コンちゃんは店長さんを信じているんですか?」
「まぁ……のう……というか、ポンはなにを疑っておるのじゃ」
「わたしやミコちゃんの女物の服ですよ」
「女物の服……それが?」
「店長さん男一人のはずなのに、なんでポンポン出てくるんですか!」
わたしの言葉にコンちゃん押し入れを開けて、
「それは押し入れに入っておるのじゃ」
収納の箱の中には女物の服がたくさん入ってます。
もう、浮気の証拠に当っちゃいました。
「店長さん……こんなに女物の服をたくさん!」
わたし、特に女物とわかるのを手にします。
う……なんでしょう、このでっかいブラジャー。
コンちゃん級ですよ。
「店長さーんっ!」
「なに、ポンちゃん」
「店長さん、これはっ!」
「?」
「これ、ブラジャー」
「ブラがどうかしたの?」
「押し入れの中に入ってました」
「うん、入れてたけど」
「浮気者ーっ!」
「え?」
「わたしという者がありながら、なんで女物の下着とか服とかたくさん持ってるんですかっ!」
「そ、それ、母親とか妹のだと思うんだけど……」
「え……」
「今、家には俺しかいないけど、昔は親父も母親も、妹もいたんだよ」
「そ、そうだったんだ……」
「コンちゃんやミコちゃんには母親のを、ポンちゃんには妹の服とか出してたんだけどね」
「そ、それで制服もあったんですか」
「まぁ、以前は家族で店をやってたからね、うん」
「そうなんだ……」
なんでも店長さん一家、昔は一緒にいたんだって。
どうしてお父さんお母さん、妹さんがいなくなったかは、ちょっと聞けませんでした。
聞こうかと思ったんだけど、
「ポンちゃん俺を浮気者よばわり? お外で寝る?」
この言葉には弱いです。
それに、わたしが店長さんを疑ったのも事実です。
夜、お布団に入ってから、隣で寝ているコンちゃんに、
「ねぇねぇ、コンちゃん」
「なんじゃ?」
「わたし、今日、初めて店長さんにお父さんやお母さんがいるの、知りました」
「ふむ、そうか」
「わたしの服は妹さんのなんだって」
「そうなのか」
「わたし、店長さんの事、あんまり知りませんでした」
もう、コンちゃんからは寝息しかしません。
もっと話を聞いてほしかったし、これからの作戦にコンちゃんには協力してほしかったけど……これはもう、一人で作戦実行するしかないです。
わたし、店長さんの事をもっと調べる決心しました。
「俺の両親の事?」
「そうです、わたしが結婚するにあたって、知っておきたいんです」
「結婚……」
「そうです、わたしがタヌキなのを知ったら、店長さんのご両親、びっくりするかも」
「びっくりするよ普通、多分」
「し、心臓発作起こすかも」
わたしが言うのに店長さん苦笑い。
それからなにか言いそうになって、でも、言葉が出てきません。
ちょっと開いた店長さんの唇、それから全然動かなかったんだけど、ようやく言葉になって、
「親父達なんだけど……ここって山の中で、道が曲がりくねってるよね」
「はい……」
「事故で車が道路を飛び出して……」
「え……」
「俺以外は、みんな死んじゃったんだ……俺は車に乗ってなかったんだ」
いきなりなドラマ展開。
店長さんはそれから、ずっと一人で暮らしてきたんです。
そこにわたしがやってきたのは、やっぱり運命のはず。
「店長さんっ!」
「うわっ!」
わたし、店長さんを「ひしっ」と抱きしめます。
「わ、わたしがずっと、家族やりますから、さみしくないです」
「そ、そう……ありがとう」
「明日にでも結婚式を!」
「妹でいいかな?」
「結婚なの~!」
でも、わたしの探偵家業は続きます。
店長さん、家族がみんな死んじゃったって言ってました。
わたしもお母さん死んじゃったから、その気持ちはわかるんです。
でも……
ミコちゃん言ってました。
店長さんわたしにウソをついているかもしれません。
聞かれたからって、本当の事を言うとは限らないんですよ。
それに店長さんの事、もっと知りたいしね。
まずは押し入れを調査です。
押し入れ……ダンボールからゲーム機なんかがぞろぞろ出てきます。
この間コンちゃんが遊んでいたのも入ってます。
他にも女物の着物なんかが沢山ありました。
押し入れや、家の中の収納には新しい発見はないみたい。
では、あまり行かないところをチェックしましょう。
パン工房……ここをわたしがうろちょろすると、店長さんに見つかっちゃいます。
裏の小屋……ここにはパン焼き釜もあるんです。
薪を焚いてオーブンを温めたりするんです。
普段は熱いし、危ないから近寄りません。
ここは男の職場なんだって。
薪がたくさん積んである……わたしの探偵嗅覚反応です。
においます、においますよ!
新聞紙があります。
探っていると、出ました、雑誌です。
一冊どころか、ぞろぞろ出てきますよ。
「!!」
この雑誌は見覚えあり。
表紙は漫画なんだけど、内容は「どエッチ」なんです。
店長さん、こんなところでこんな雑誌を!
わたしというものがありながら、不潔です!
早速抗議に行きましょう!
「店長さんっ!」
パン工房で仕込みをやっている店長さんを直撃です。
いいタイミングでコンちゃん・ミコちゃんもいますよ。
「な、なに、ポンちゃん?」
「これ!」
「?」
わたし、例の雑誌を店長さんの鼻先に出します。
「店長さん、こんな雑誌読んで、エッチです!」
コンちゃん達も寄ってきて、その雑誌を見つめます。
「わたし、店長さん信じていたのに!」
「……」
「この雑誌、人妻が強いんです、こっちは近親相姦」
「のう、ポン」
「なに、コンちゃん」
「おぬし、詳しいのう」
「それは、わたし、野良の時、不法投棄を見てたから」
「そうか……」
「店長さんエッチです、不潔です」
「店長はこれを読んでおらんと思うぞ」
「コンちゃん、これだけ証拠があるのに、店長さんの味方するんですか!」
「いや、ほら、ここにシールで封がしてある」
「!!」
「これでは中を見る事は出来ん」
「……」
「おぬしはよく知っておるようじゃのう」
コンちゃんシールの封を外してパラパラめくります。
店長さんとミコちゃんも覗き込んでから、目を丸くして、
「俺、これ、運送会社の人が焚き付けにくれただけで見た事なかったんだけど、すごい本だったんだね」
「私もびっくりです」
そしてコンちゃんが頷きながら、
「ポンは野良の時にこれを読んでおった……と」
みんなが一斉にわたしの方を見ます。
「俺、ポンちゃん尊敬するよ、大人だ」
「私も、ポンちゃん大人……」
店長さんもミコちゃんも……一応は褒めてくれてるのかな?
でも、コンちゃんは、
「ポンは清純そうな顔して、こんな本を読んでおったのか」
「ふ、不法投棄なんですっ!」
「これからはポンの事は『エロポン』と呼ぶことにしょう」
ああ、店長さんとミコちゃん、しゃがみこんで笑ってます。
「エロポン」
「え、エロポンはやめてーっ!」
星空がとっても綺麗。
わたしはあの後、暴れて、そして今日もダンボールでお休み。
「ふふ、一人寝は寂しかろう」
コンちゃんの台詞が思い出されます。
ダンボールの中には例の大人向け雑誌がたくさん。
今日はこれで寒くないです。
でも、心の中は寒いです。
もう、「エロポン」って呼ばないでほしい……です。
て、店長さんに言われて、村の学校に配達です。
わたし、不法投棄の雑誌で勉強してるんです。
学校にはイジメとかあるんですよ。
「わたしをトイレなんかに監禁して、肉奴隷に!」
ああ、もう、エロポン思考無限ループですよっ!