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第19話「ミニどらやき」

 わたしの胸はどらやき級で、コンちゃんの胸はメロンパン(大)級なんです。

 そんなわたしの胸の象徴どらやきが! どらやきが!

 ち、ちっちゃくなっちゃいましたっ!

 なんでっ! どーしてっ! ほわーいっ!

 ま、まさか、製作者ミコちゃんのわたしに対するイジメでしょうか?


 開店準備。

 わたしは焼きたてのパンをお店に並べます。

 パン工房には店長さんとミコちゃん。

 前までは店長さんだけだったんだけど、最近はミコちゃんが和菓子を作っていたりします。

 今まではお饅頭なんかで気にならなかったんだけど……

 今日、ミコちゃんが作っていたのはどら焼きだったんです!

 わたし、そのどら焼きを見てショックを受けました。

「ちょ、ちょっとミコちゃんっ!」

「な、なに、ポンちゃん?」

「これこれ!」

「なに?」

「これこれ!」

「?」

 わたし、本当はダメって思ったけど、問題のどら焼きを一つ手にしてミコちゃんの目の前に出します。

「このどら焼きはっ!」

「うん……どら焼きだけど……どうかした?」

 ミコちゃんびっくりしてるみたい。

 わたしが声を大きくしてるからだろうけど……声だって大きくなるってもんです。

「ミコちゃんっ!」

「ポンちゃん、なにを怒ってるの?」

「このどら焼きは不良品です」

「え……」

 ミコちゃん首を傾げています。

 店長さんやコンちゃんもやってきました。

「店長さん、このどら焼き、ダメですよね!」

「え……俺、どこが悪いんだか……」

「コンちゃん、コンちゃんなら、わかるよね!」

「別段変わったところはないようじゃが……」

「ミコちゃん、ミコちゃん、これはダメだよ」

「ポンちゃん……どこが悪いの?」

 ミコちゃん困った顔して、どら焼きを一つ食べてます。

 でも、わからないみたい。

 店長さんやコンちゃんも試食しました。

 全員が不思議そうな目でわたしを見ます。

「そんな……なんでみんな、不良品ってわからないんです!」

「……」

「試食しないでも、見ただけでわかるじゃないですか!」

「……」

 三人とも、どら焼きを見て考え込んでいます。

 考えなくても、見ただけでこのどら焼きは「ダメ」なのわかりますよ。

「どーしてこれがわからないんですかっ!」

 ミコちゃんが困った顔をしながら、

「ポンちゃん、どうしてこのどら焼きが不良品なんです?」

「なんでって……」

「味も変じゃないし、大丈夫だと思うんだけど」

「ミコちゃん、大きさ全然違うよ!」

「え……大きさなの」

「そう、どら焼き小さくなったよね」

「うん……小さくしたけど」

「なんで小さくしたんです!」

「……」

「どら焼きは、前と同じ大きさじゃないとダメなんです!」

「あの……ポンちゃん……」

「小さくしたら、ダメなんです!」

「な、なんで……」

「だ、だって、どら焼きはわたしの胸と同じ大きさなんだから!」

 凍りつくミコちゃん。

 店長さんとコンちゃんは、その場にしゃがみこんでしまいました。

 ああ、店長さんは床を拳で叩いています。

 コンちゃんは笑いを堪えて、丸めた背中震えまくり。

「て、店長さん……」

「ぽ、ポンちゃんさ、変な事言うね」

「だ、だってわたしの胸はどら焼きの大きさで現されるんですよ!」

「そ、そうだったの?」

「わたしの胸はどら焼き級なんです!」

「だから?」

「だから! どら焼きが小さくなったら、わたしの胸まで小さくなったように思われます!」

 また店長さん、うずくまっちゃいました。

 コンちゃん笑いすぎて、息も絶え絶えです。

 ああ、ミコちゃんまで笑いを堪えています。

「真剣なのにっ!」

 わたしの声に、ミコちゃんが微笑みながら、

「別に……気にしないでいいわよ」

「気にするんです」

 わたし、どら焼きを食べます。

 むう、今まで店長さんが作っていたのとは別物。

 ミコちゃんなんでも作るの上手だなぁ。

「でも、このどら焼きはダメなんです」

「ポンちゃん……」

「ミコちゃんなんで小さくしちゃうんですか」

「前のどら焼きは大きすぎたんですって」

「えー!」

 ミコちゃんの言葉に店長さんが前のを持ってきます。

 そうそう、この大きさと重さがいいんですよ。

「どら焼き、大きい方がいいに決まってるじゃないですか」

「……」

「メロンパンだって、無印と『大』なら大の方がいいでしょ」

「……」

「値段だって高いんだし」

「……」

「なんでどら焼き、小さくしちゃうんです!」

 もうミコちゃん笑ってません。

 出来上がったどら焼きをバスケットに詰め込んでから、

「配達はポンちゃんにお願いしますね」

「え……なんで!」

 わたし、しっぽが丸見えなのに。

 店長さんを見たら頷いています。

「そうだね……コンちゃんと一緒に老人ホームまで行ってきてよ」

 わたし、コンちゃんと一緒に行く事になりました。


 老人ホームまで歩いて結構あります。

 村は広いんですよ。

「ポンもおかしな事を言う」

 隣を歩いているコンちゃんは、メロンパンを食べながら歩いています。

「コンちゃんは、メロンパンが小さくなったら怒りませんか?」

「なんでじゃ?」

「そのメロンパンは、コンちゃんの胸の大きさです」

「これがか?」

「ですよ、コンちゃんの胸、大きいもん」

「だからどうなのじゃ?」

「どら焼きはわたしの胸の大きさだったのに……」

 そう、バスケットの中には店長さんのお手製も入ってます。

 わたしの胸と同じ大きさのどら焼き。

 新作とどれくらい違うかというと、二回りくらい違いますね。

「これじゃビスケット級です」

「よいではないか」

「え?」

「この、店長のどら焼きとポンを比べると、ちょうど同じ」

 コンちゃん、店長さんのどら焼きをわたしの胸に近づけて言います。

 そして今度はミコちゃんのどら焼きを胸に近づけてから、

「このどら焼きだと、二つ分くらいかの?」

「二つ分……」

「前のだと、どら焼き一個級……どら焼き一級」

「……」

「ミコのなら、どら焼き二級になるではないか」

「そ、そうですね、なんだか二倍になった気分!」

 わたし、一瞬だけ、嬉しくなりました。

 でも、一瞬です。

「やっぱり嫌です、そーゆーのは価値が下がっただけです」

「おぬしもなかなか、うるさいのう」


 老人ホームの職員さんに案内されて、おじいちゃんやおばあちゃんに配る事になりました。

 寝たきりになった人や車椅子の人がたくさんいました。

 こんななら、大きなどら焼きの方がたくさん食べれていいのに。

 でも、どのおじいちゃんやおばあちゃんも、嬉しそうに小さいのを食べてます。

 最後のおばあちゃんにどら焼きを渡しながら、

「あの~」

「なんだい、お嬢ちゃん」

「そのどら焼きじゃなくて、こっちはどうです?」

 わたし、店長さんお手製の方を見せます。

 おばあちゃん、にっこり微笑んで、

「大きいのは食べきれんのじゃよ」

「!!」

「これくらいが、ちょうどいいのじゃよ」

「でも……ちっちゃくないです?」

「お嬢ちゃんは若いから、わからないかもね」

「むー、だってわたしの胸、前のどら焼きと同じ大きさ」

「……」

「どら焼き小さくなったら、わたしの胸も小さくなった気分」

 おばあちゃん笑ってます。

 わたしの後ろを歩いているコンちゃんとわたしを見比べながら、手招きしています。

 なにかな?

 顔を近づけると、おばあちゃんわたしをつかまえ、引き寄せてから、

「お嬢ちゃん……お姉ちゃんと比べているんだね」

「そーですよ」

「バカだね、小さい胸は小さい胸でいいんじゃよ」

「!!」

「私だって結婚できたんじゃよ」

 おばあちゃん、胸に手をやって自慢気に言います。

 もう、帰ったら店長さんに猛烈アピールしちゃうんだから。


 夕ごはんの後、わたしとミコちゃんで洗い物をしながら、

「どう、ポンちゃん、わかった?」

「えへへ、よくわかりました」

「おじいちゃん達、あのどら焼きじゃ大き過ぎだったのよ」

「わたし、おばあちゃんから習ったんですよ」

「なにを?」

「ふふふ……おばあちゃん、胸が小さくても結婚できたって」

「そう……」

「わたし、今夜店長さんにアタックです」

「……」

「小さくたって、結婚できるんです」

「……」

「よく考えたら、漫画でもそんな事ありました」

「……」

「それに、全然無いって訳じゃないんです」

「……」

「店長さん、わたしの胸の谷間にぞっこん間違いなし」

「……」

 ミコちゃん、黙っちゃいました。

 もしかしたら、ミコちゃんもなんだかんだ言って店長さんが好きだったのかもしれません。

 でも……なんだか様子が変。

「ミコちゃん?」

 固まっているミコちゃん。

 その視線の先には……店長さんがっ!

「襲われたら困るから、ポンちゃん今夜、お外でお休みね」

 ガーン!

 こーゆー事は、秘密にしていないとだめみたいですね。

 でも、次こそは……ふふふ。


「おぬしがさばけんから、いかんのじゃ」

「ごめ~ん」

「まったくこのタヌキ娘はモウ」

「だって今日はお客さんが多くて……」

 い、いや、コンちゃんが手伝ってくれたらいいんですよ、イジメですか!


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