第18話「コンちゃんの家出」
わたしの「プリン」をコンちゃんが食べて…
コンちゃんの「いなり」をわたしが食べて…
コンちゃん家出しちゃいまっした…
ふん、ライバル失踪で大喜びです…
う、どこに行っちゃったの、コンちゃん…
村のパン屋さんの午後。
今日はわたし一人です。
店長さんは村長さんに呼ばれて外出。
ミコちゃんはスーパーにお買い物。
コンちゃんはお散歩。
「退屈……」
お客さんでもいればいいんだけど……
「そうだ!」
いつもコンちゃんが座っているテーブル席。
今はコンちゃんいないから、座ってみます。
テレビがいい感じで見える場所ですよ。
「……」
でも、なんだかやっぱり退屈です。
たまおちゃんとか、シロちゃんが来たらいいのにな。
「ただいま~」
思ったらミコちゃんが帰って来ました。
「ミコちゃんよかった~」
「??」
「すごく退屈で、死にそうでした」
「ふふ、そう……」
ミコちゃんお店を見回して、
「コンちゃんは?」
「お散歩に行きました」
「そう……ポンちゃん一人に店番させてモウ」
ミコちゃん言いながら、レジ袋を覗き込みます。
そして手を入れると「いなり寿し」と「プリン」を一度出して、
「お願いされてた『いなり寿し』と『プリン』買ってきたわよ」
「きゃーん、プリンプリン!」
「ポンちゃん女の子ね、甘いの好き?」
「プリンはプルンとしていて好き~」
わたし、プリンを手についつい笑みがこぼれます。
三つパックになったプリン。
ひっくり返して、底の出っ張りを折ると出てくるんです。
スプーンでつつくとフルフルするプリン。
甘くておいしい、食後のデザートなの。
ミコちゃん、そんなプリンをわたしから取り上げて、
「デザートだから、冷蔵庫に入れておくわね」
「はーい」
「コンちゃんが帰ってきたら、渡しておいて」
「うん……」
ミコちゃん、わたしにいなり寿しのパックを渡して引っ込んじゃいます。
今からきっと、夕ごはんの支度。
「むー!」
いなり寿し……三個パックになってるヤツです。
これ、コンちゃんの晩酌の時のおつまみなの。
コンちゃんお酒を飲みながら、これを美味しそうに食べるんだ。
お値段はプリンとかわらないくらい。
でも、大きさはいなり寿しの方が小さいかな。
「むー!」
匂いをかいでみます……おいしそうな匂いです。
いなり寿しはミコちゃんお手製を食べた事がありますよ。
あれとはまた、全然違う感じがします。
ちょっと食べてみたくなりました。
わたし、周囲を見回して……三つあるから、一つくらい食べてもいいよね。
そんなわけで、一つ食べました。
む……おいしいです。
パックを閉めるけど……なんだかスカスカ。
これでは食べたのがばれてしまいますね。
ではでは証拠隠滅するしか。
二つめ……むう、ミコちゃんお手製と全然違います。
最後の一個……こうも味が違うと別物ですね。
さて、全部食べちゃいました。
ゴミはゴミ箱……なんかだと、コンちゃんに見つかってしまいますから、焼却炉の中に捨ててきます。
コンちゃんはゴミ捨てなんかしないから、焼却炉に近付く事はないんですね。
ちょっと指に匂いが残っているから、しっかり洗ってしまいます。
匂いは本当にほんのちょっとだけど……コンちゃんもキツネだから用心に用心。
今日は新しい発見がありました。
同じいなり寿しでも、味は全然違う事があるんですねぇ。
「ポンちゃんありがとう」
「どういたしまして、店長さんのためなら火の中水の中です」
今日はお店が終ってから、ちょっとパン工房で店長さんのお手伝いをしました。
生地を作るの、お手伝い。
力仕事だったけど、店長さんから上手っていわれました。
これからはわたしも店長さんと一緒のお仕事、増えるかもしれません。
店長さんと一緒なら、どこまでだってついていきます。
「おつかれさま、ポンちゃんお風呂に入って」
「は~い、わたし一人で? ミコちゃんは?」
「そうね、コンちゃんは先に入っちゃったみたいだし、ガスがもったいないから……」
そんなわたし達の前に、湯上りのコンちゃんが通ります。
湯気をたてながら、裸で、台所に向かいます。
「むー、お先にお風呂、いただいた~」
そんなコンちゃんが足を止めます。
「うん?」
コンちゃん、わたしの方をじっと見ます。
「ポン……」
「わたし、今まで店長さんのお手伝い」
「いや……ポン……いいにおいがする……」
「ああ、パン生地練ってたから、そのにおいかも」
ちょっと甘い感じのにおいですよ。
コンちゃんそんなわたしの体を真剣な顔でにおっています。
「パン生地……」
「ですです」
「いや、そんなんじゃなくて……なんだろ……」
コンちゃん、結局首を傾げたまま行っちゃいました。
「コンちゃんどうしたんだろ?」
ミコちゃんに聞いてみましたが、ミコちゃんにもわからないみたい。
お風呂が終ったら夕ごはん、そして待ちに待ったデザート・プリンの登場です。
「プリン、プリン!」
わたし、冷蔵庫を開けて定位置を確認。
でも、プリンありません。
よーく奥まで見てみます。
「ねー、ミコちゃん、プリンはー?」
「冷蔵庫のいつもの所に入ってますよ」
「ないよー」
「そんなはずは……」
ミコちゃんもやってきて覗き込みます。
「本当だ」
すぐにミコちゃん、台所のゴミ箱をチェックして、
「ポンちゃん食べた?」
「ううん」
ミコちゃん、ゴミ箱からプリンの容器を出して見せます。
「えー! わたし食べてない!」
「でも、三つとも容器が……」
「!!」
わたし、ソファーに座ってテレビを見ているコンちゃんをにらみます。
でも、わたしの思いの、恨みのこもった視線にもコンちゃん不動。
「コンちゃんっ!」
頭に来ました!
楽しみにしてたのに!
絶対許さないんだから!
思わずビール飲んでいるコンちゃんにチョップ。
あ、コンちゃんも怒ってます。
「なにをするのじゃっ!」
「わたしのプリン食ったー!」
「なにを証拠に……」
すぐにわたし、コンちゃんをにおいます。
む、やはり微かにプリンの匂いがしますよ。
「やっぱりコンちゃんがプリン食ったーっ!」
「むう……冷蔵庫に美味しそうに置いてあったから……」
「あったからなにっ!」
「一つくらいよかろうと……」
「……」
「そしたら、二つ残って……わらわが食べたのがばれてしまうと思い……」
「……」
「残り二つも食べてしまったのじゃ」
「コンちゃんのバカー!」
もう、髪を引っ張ったり、引っ掻いたりの大ケンカです。
「コラっ! 二人ともなにやってるのっ!」
ミコちゃんが大きな声。
その迫力にケンカ終了です。
「そこに正座」
「はーい」
「なんでコンちゃんプリンなんか食べたの」
「それは冷蔵庫に入っておったからじゃ」
「晩酌はいつもいなり寿しでしょ」
「今日、いなりを忘れたのはミコではないか!」
「え……」
「いなり寿し、昼に貰ってないし、冷蔵庫にも入っておらん」
コンちゃんとミコちゃんのやりとり。
わたしの背中、汗でびっしょり。
「私、ポンちゃんに渡すように言ったけど……」
二人の視線がわたしに集中します。
ああ、コンちゃんはもう、わたしが食べたってわかってるみたい。
髪のうねりが大きくなるのがわかるもん。
「ポン……」
「……」
「おぬし、わらわのいなり寿しを食ったのか?」
「……」
「食ったのであろう!」
「う……おいしそうだから、食べちゃった」
「くっ!」
「ご、ごめん……なさい……」
顔、上げられません。
でも、ちらっとコンちゃんの方を見ます。
コンちゃんの拳が震えているよ。
わたし、コンちゃんがダンプを吹き飛ばしたりしたの、思い出します。
こ、殺されるかもしれません。
「ふんっ!」
もう一度顔を上げると、コンちゃんはもういませんでした。
さっさと寝床に行っちゃった。
残されたわたしにミコちゃんが、
「ポンちゃん……」
「ミコちゃん……」
「明日、コンちゃんに謝らないとだめよ~」
「今日じゃなくていいかな……」
「今日じゃ、火に油だから、明日ね」
「うん……でも……」
「でも?」
「謝るだけで、許してくれるかなぁ」
「そ、それは……」
ミコちゃん苦笑い。
「私もなにか、手がないか考えておくから」
ミコちゃん……ミコさま……お願いします。
このままコンちゃんと仲が悪いままだと、なんだか気まずいから、早く仲直りできるといいな。
でも、コンちゃん、寝床に行ったわけじゃなかったんです。
「ミコちゃん、コンちゃんいないよ!」
そう、コンちゃんの布団は空っぽ。
さっき怒って、出て行ったみたいです。
「ミコちゃん、どうしよう!」
「むー、本当に怒ってたのね」
「店長さん、どうしたらいい?」
「……」
二人から返事はないです。
わたしのせいで、コンちゃん家出しちゃったの?
こんな事になるなら、いなり寿しを食べなきゃよかった。
わたしがいなり寿しを食べなかったら、コンちゃんもプリンを食べなかったはずです。
全部悪いの、わたしなんです。
もう、涙がぽろぽろあふれちゃう。
そんなわたしの背中を、ミコちゃんがトントンしてくれます。
「ポンちゃん、もういいから」
「わわわわたしのせいなんだ……」
「そんな事ないから」
「わたしがいなり寿しを食べなかったらよかったんだ」
「それはそうだけど」
「コンちゃん、今ごろ野犬に食べられてます」
「コンちゃんそんなに弱くないわよ」
「いいや、いなり寿しを食べられないで落ち込んで弱っているから、野犬に負けちゃいます」
「まぁ、落ち込んでいるかもしれないけど、そこまで弱くないわよ」
「わーん、わたしのせいだー!」
本当、コンちゃんどこに行っちゃったんでしょう。
朝です。
結局コンちゃん帰ってきませんでした。
祠の掃除をしていたら、豆腐屋さんのおばあちゃんが通ります。
「なんだね、まるでタヌキみたいだよ」
「おはよう、おばあちゃん」
眠れなかったから、目の回り隈ができて黒いんです。
「あんたのところのお姉さん、家にいるんだけど」
「え!」
「お姉さん、家にいるよ」
「コンちゃん、おばあちゃんの家にいるんですか!」
「ああ、夜にいきなり来て、うちの子になるなんて言うんだよ、バカだねぇ」
「おばあちゃん、すぐにわたしを連れてって!」
コンちゃんは豆腐屋さんの店先でニコニコしています。
あぶらあげを山のように積んだ皿を箸でつついているよ。
「コンちゃん!」
「なんじゃ、ポンではないか」
「家に帰ろう」
「嫌じゃ」
「なんで!」
「あそこには、人のものを勝手に食べてしまうヤツがおる」
「むー!」
コンちゃんだって、わたしのプリン食べてるのに!
「もう、謝るから、帰ろうよ」
「嫌じゃ、ここには好物のあぶらあげも沢山あるしの」
「もう、どうしたら帰ってくれるの~」
「帰らんと言うておるのじゃ」
「もう、ごめんってばー!」
「わらわはポンなんか好かんのじゃ」
コンちゃんツンってして、あぶらあげ食べてます。
こっちを見てもくれないよ。
また涙が込み上げてきました。
そこにおばあちゃんが出てきて、コンちゃんにチョップ。
「こりゃ!」
「なにをするのじゃ」
「妹さんがあんなに言っているのに、聞き分けのない」
「あやつは人のものを勝手に食うのじゃ」
おばあちゃん、コンちゃんをじっと見ています。
コンちゃんはあぶらあげを食べるのに一生懸命。
あ……おばあちゃん、コンちゃんのしっぽ、さわってます。
でも、コンちゃん食べるのに必死で気付いてないみたい。
「こりゃ」
「なんじゃ」
「あんたが家に帰ったら、毎日あぶらあげ、配達するよ」
「きゃーん、本当! おばあちゃん!」
おばあちゃん、今度はわたしの横に来て、わたしのしっぽをさわりながら、
「だから家に帰って、妹さんと仲良くするんじゃよ」
夕ごはんを済ませてからお風呂。
今日は仲直りしたばっかりのコンちゃんと一緒だったよ。
お風呂から出てきてみると、ミコちゃんが手招きしてます。
なにかな?
「はい、ポンちゃんにはプリン」
ミコちゃんが手にしているのはティーカップ。
でも、中は確かにプリンです。
もしかしたら、ミコちゃんお手製とか!
「やったー!」
わたし、大喜び。
そしてミコちゃんは一緒に湯上りがコンちゃんにも、
「はい、おばあちゃんがあぶらあげ持ってきてくれたから、いなり寿し」
ミコちゃんお手製いなり寿し。
コンちゃん恋する乙女の瞳ですよ。
「きゃーん!」
わたしとコンちゃん、ミコちゃんのお手製で大満足でした。
わたしの胸はどらやき級~
お店に売ってるどらやき級~
弾力あるのどらやき級~
いつかはきっとあんぱん級に…
って、ちょっと! どらやき小さくなっちゃいますよ! どうしてっ!