第17話「犬のおまわりさん」
交番の犬にアンパンあげたら「婦警さん」になっちゃいました。名前はシロちゃん。
「雌犬のニオイがすると思えば……この警察の犬め」
「その通りであります」
「店長からするニオイはおぬしのニオイであったか」
って、シロちゃんコンちゃんと西部の決闘です。どっちが勝つのかな?
「店長さんの浮気者っ!」
「むー、どうしてそうなるかな」
「今からどこに行くんです!」
「だ~か~ら~」
お店の準備も終ったところで、店長さんが昨日の残りのパンを持って出かけようとしています。
「あの白い犬の所に行くつもりですね!」
「世話しろって村長から言われたから……」
「浮気者~」
「えさやりに行くだけじゃん、なんでポンちゃんそこまで怒るかな」
もう、店長さんの腕をゆすっちゃえ。
「嫌なものは嫌なんです」
「なんで?」
「コンちゃんやミコちゃんのニオイはいいんです」
「?」
「犬のニオイは苦手なんです」
「なんで?」
「タヌキの頃、追っかけられた事があるから……」
あ、店長さん笑ってます。
真剣なのに~
「もうポンちゃんも人間なんだから、しっかりしないと」
「犬は噛むんですよ」
「そうだ、俺は昼の仕込みがあるから、犬のえさやりポンちゃんが行ってよ」
「えー!」
「命令だから」
「そんなー!」
「俺が行ったら……浮気するかも」
「むー!」
なんだかんだ言って店長さん奥に引っ込んじゃいました。
わたしが行かないと……また夜はお外になっちゃいそう。
「ワンワン!」
うう……吼えてますよ。
鎖があるから、近付かなければ大丈夫な……はず。
「ほーら、アンパンですよー、感謝してくださーい」
アンパン投げちゃいます。
お、ナイスキャッチ、美味しそうに食べてますよ。
ちょっと楽しくなっちゃいました。
投げるとわんちゃん飛びついて食べちゃいます。
すごいすごい。
パンはあっという間になくなっちゃいました。
わんちゃん、えさをもらったんだから、少しはわたしに懐いてほしい。
「!!」
わんちゃん煙につつまれます。
この間、タマちゃんが人間になった時と一緒です。
って事は、今回も人間になっちゃうんでしょうか?
煙が晴れると、そこには婦警さんが立ってました。
それもミニスカポリス。
嫌な予感……見ればやっぱり、白いしっぽがあります。
「やっぱりわんちゃん……なの?」
「そうでありますっ!」
「ななななんで人間になっちゃうの?」
「パンをもらったので恩返しで……あと……」
「あと?」
「先日猫の面倒を見てもらいました」
「タマちゃんの事?」
「あの捨て猫、本官にまとわりついて、うっとおしかったのであります」
そういえば、あの時わんちゃんの鳴き声は悲鳴っぽかったもん。
「本官はシロともうします」
「シロ……そのまんまだね」
「あなたは?」
「わたし、ポンちゃん」
「お世話になったので、恩返しの一つもします」
「別に……いいんだけど」
「それと、パン職人の方にも挨拶がしたいであります」
あ、やっぱりそう来ましたか……
シロちゃんを店長さんに会わせたら、また怒られるのかなぁ。
お外で寝るのは嫌なんだけどなぁ~
「そんなわけで、交番のわんちゃんです」
お店に帰ったら、やっぱり店長さんへの字口。
腕を組んでわたしとシロちゃん交互に見ています。
「またポンちゃんがやったんだ」
「わ、わたしのせいになっちゃうんです?」
「だっていつもそうじゃん」
「店長さんが行けって命令したんです」
「ポンちゃんが俺が浮気って疑うからだ」
「むー!」
わたし、シロちゃんを楯にして、
「シロちゃんは警察の犬なんですよ、こわいんですよ」
「警察の犬……」
店長さん、なんだかあきれ顔。
じっとシロちゃんを見ながら、
「交番の犬なんだ……シロちゃん?」
「そうであります!」
「なんでここに来たの?」
「捨て猫とパンのお礼に来ました」
「本当? 居候じゃないよね?」
「本当であります、店長さんのパンに命を救われました」
「……」
「恩返しをしたいと思います」
シロちゃん言います。
でも、店長さん相変わらず嫌そうな顔。
でも、シロちゃん全然気にしていないみたい。
お店を見渡して、そしてわたしを見てから、
「店長さん」
「なに? シロちゃん?」
「店長さんはタヌキに憑かれています?」
「ま、まぁ……そうだね」
「では、タヌキ退治します!」
え……それってわたしを退治するって事?
あ……シロちゃんわたしの方を見て笑ってます。
う……腰から拳銃抜きましたよ。
い……嫌だな……まさか撃たないよ……ね?
お……恩返しってわたしの恩返しは怨返しとか!
「タイホだーっ!」
シロちゃんの容赦ない発砲!
わたしの眉間とか制服、赤く染まります。
や、やられた~!
頭抱えてしゃがんでも、まだ撃ってきます。
「やめて~!」
「死ぬまでやめません、タイホだーっ!」
シロちゃんの撃っているのは銀弾鉄砲です。
「あ、ありがとう、止めやめ!」
店長さんが止めてくれました。
でも、わたし血まみれですよ。
もう、死んじゃうのかな?
でもでも、体じゅう血まみれなのに、平気なの。
「?」
店長さんもわたしの体をチェック。
特に額の血の痕を指でさわって、匂いを嗅いでいます。
首を傾げながら店長さんはシロちゃんに、
「これ、血じゃないね?」
「銀弾鉄砲で殺せたりしません」
「まぁ……そうだけど」
「それはペイント弾であります」
「ペイント弾……」
「口に入っても安全な成分であります」
わたしも制服についた赤いの、舐めてみます。
ちょっと甘いかな……血じゃないですね。
死なないですんで、よかったです。
「タヌキは退治しました」
「死んでないよ」
「実弾で本当に殺されたくなかったら、山へ帰ってください」
「銀弾鉄砲、人に向けて撃ったらいけないんだ~」
シロちゃん、今の言葉に反応しました。
正論なので、反論できないみたいですよ。
でも、シロちゃんツンとして、
「タヌキだからいいんです」
「むー!」
「やられたタヌキはさっさと退場!」
「シロちゃん、さっきわたしにも恩返しするって言ってたのに」
「命を見逃してやってるんです」
「見逃してやってる……そうきますか……」
なんだかくやしいですね。
なにか手は……お店を見回すとコンちゃんがいます。
「ほら、あそこに女狐がいますよ」
「!!」
「あれも退治しなくていいんですか?」
「タイホ……」
シロちゃんの言葉にテレビを見ていたコンちゃんも振り向きます。
二人の視線が火花を散らしているの。
「タイホ……」
シロちゃんの言葉には、さっきの勢いがないです。
やっぱりコンちゃんのこわさがわかるみたい。
銀弾鉄砲を構えても、発射できないでいますよ。
「雌犬のニオイがすると思えば……この警察の犬め」
「その通りであります」
「店長からするニオイはおぬしのニオイであったか」
「その通りであります」
「雌犬の分際で、このわらわに銃口を向けるのじゃな」
「その通りであります」
「その仔タヌキを退治したからというて、わらわも簡単に退治できると思うなよ」
「銃の腕には自信があるであります」
銀弾鉄砲を構えるシロちゃんの目が鋭くなりました。
さっさと撃てばいいのに、なんでコンちゃんの時は撃つのをためらうのかなぁ。
「よし、そなたと勝負してやろう」
あ! コンちゃんの手に銀弾鉄砲が現れました。
コンちゃんが持っているのは、六連発の回転式のヤツです。
シロちゃんのはワルサーの銀弾鉄砲で丸い弾が出るヤツ。
二人がにらみ合います。
コンちゃんがわたしに、
「ポン、レジのお金を一枚放るのじゃ」
「え? お金を放る……いくらでもいいの?」
「小銭じゃ小銭」
「十円でいいかな?」
コンちゃんシロちゃんを見て言います。
「小銭が落ちた瞬間に抜く……いいかの?」
「了解であります」
村のパン屋の店内なのに、どことなく西部劇な雰囲気。
コンちゃんとシロちゃんがわたしを見ています。
一応店長さんに目をやると、頷いてくれました。
この決闘、公認ですよ。
コンちゃんは銀弾鉄砲をテーブルに置きました。
シロちゃんは腰に銀弾鉄砲を戻したけど、手を離したりしません。
余裕のコンちゃんに、シロちゃんがヒクヒクしながら、
「余裕……バカにしているのでありますか!」
「わらわの方が、何枚も上手という事じゃ」
コンちゃん挑発してます。
シロちゃんムッとしているの、なんとなく伝わってきます。
余裕のコンちゃん。
引金に掛かった指が震えるシロちゃん。
わたし、店長さんに改めて視線。
頷いてくれたから、コイン・トス。
十円玉はくるくる回りながら山なりになって落ちていきます。
そんな十円玉が床で音を立てて弾けました。
「!」
コンちゃんとシロちゃんの動きはほぼ同時。
シロちゃんのワルサーから連射音。
コンちゃんの銀弾鉄砲は一度弾けて終了。
「うっ!」
でも、額が赤く染まったのはシロちゃんだけ。
膝をついて、うなだれてしまうシロちゃん。
勝負あり、コンちゃんの勝ち。
なぜか座り込んだシロちゃんの回りにワルサーの弾が散らばっています。
コンちゃん、シロちゃんを見下ろして、
「おぬしのワルサー、下に向けたら弾がこぼれるのじゃ」
「!!」
「おぬしには、わらわの銀弾鉄砲を授けよう」
コンちゃんがしゃがんで、シロちゃんの前に銀弾鉄砲を置きます。
シロちゃんはその銃を手にしながら、
「参りました!」
パン屋の決闘は幕です、ジ・エンド。
空にはたくさんの星。
そこかしこから、虫の声だってします。
今、わたしは夜を楽しんでいるの。
ダンボールに入ってお外でお休みしてるんだけど。
今回は制服を汚しちゃったりしたからです。
隣にはシロちゃんもいますよ。
なんでもお店で決闘したから、なんだって。
「シロちゃんなんでここにいるの~」
「店長さんに言われたからであります」
「まさか、居候したりしないよね」
「交番勤務ですので、そこは大丈夫であります」
わたし、怒った感じで、
「ねー、わたしに恩返ししてくれるんじゃなかったの~」
「殺さなかったであります」
「そ、それで恩返しなの~」
わたし、ムッとした顔。
シロちゃん全然気にしていないでニコニコしてます。
でも、二人揃ってブルッときました。
身を寄せ合って寒さをしのぎます。
「仲良くしないとね」
「了解であります」
クイズです。
ヒントその1・スーパーなんかで3つパックになってたりします
ヒントその2・カップの底のでっぱりを折って、お皿に出していただきます
ヒントその3・甘くて「ふるるん」ってしてます
おまけヒント・ケンカの火種です