表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/14

第16話「捨て猫タマちゃん」

 店長さんに浮気疑惑浮上です。

 でもでも、ニオイの原因は交番の白い犬と捨て猫タマちゃんのニオイでした。

 タマちゃん、捨てられてかわいそう……アンパンあげたら変身しちゃいました!

「アンパンの恩返しするにゃん」

 って、タマちゃん言うばっかです。


「ポンちゃ~ん!」

 朝霧の中、祠の掃除をしていたら店長さんの声。

 もしかしたら、愛の告白かもしれません。

 なんたって店長さんと二人きりなわけですから。

「ポンちゃ~ん!」

「はーい、店長さ~ん!」

 人の影。

 あー、でも、店長さんだけじゃないです。

 ミコちゃんも一緒ですよ。

「どうしたんです、二人で?」

 そうです、ミコちゃん普通なら朝ごはんの準備です。

 店長さんだって昼に焼くパンの仕込みのはず。

 ま、まさか店長さんとミコちゃんの婚約発表とか!

「ポンちゃん、悪いけど留守番頼むから」

「て、店長さん、まさかミコちゃんと駆け落ちとか!」

「ポンちゃん、最近なんかおかしいよ」

「だ、だって店長さんミコちゃんと一緒な事が多いし!」

「そうかなぁ……俺とミコちゃん出かけるから、留守番頼むね」

「やっぱり、二人でホテルとか行くんでしょ!」

「俺は村長さんの家で、ミコちゃんは老人ホーム」

 さっきから話しているのはわたしと店長さんだけです。

 ミコちゃんはバスケット持って、とっとと行っちゃいました。

「本当でしょうね!」

「どうしろと……」

「キスしてくれたら、信じてあげます!」

 わたし、目を閉じてキス待ちモード。

 二人きりだから、恥ずかしくないよね。

 って、なかなかキス、来ませんよ。

「?」

 目、開けたら、店長さんもういません。

 あう~、逃げられちゃいました!


「ただいま~」

 カウベルが鳴って店長さんが帰ってきました。

 ミコちゃんはずっと先に戻ってきましたよ。

 二人は深い仲ではないみたいです。

 でも、店長さんを責めずにはいられません。

 さっきキスしてくれたら、全然問題なかったのに、モウ。

「店長さん、さっきはキスしないで行っちゃった……」

 わたし、店長さんに近付いたら臭いました。

「ててて店長さんっ!」

「な、なにっ!」

「店長さん、ちょっとー!」

「な、なんだよっ!」

 わたし、店長さんの服をクンクンします。

 なんたってタヌキをやってたわけですから、鼻は利きますよ。

「浮気者ーっ!」

「え!」

「めめめ雌のニオイがします、雌の、女の!」

「えー!」

「なにが『えー!』です、なにが!」

「いや、そんなはずは!」

 わたしという者がありながら、別の雌に走るなんて!

 コンちゃんミコちゃんはまぁ、ガマンします。

 でも、この雌のニオイはほかの雌・女のニオイ。

「俺、別に……」

「わーん、この浮気者ーっ!」

 もう、そこら辺のパン、投げちゃえ。

 あ、でも、全然効いてないみたい。

 こんな時は援軍を呼ぶにかぎります。

「コンちゃん、ミコちゃん、店長さんが浮気しましたー!」

 音量MAXで叫びます。

 ドタバタしながらコンちゃん登場。

「ほ、本当か、店長っ!」

 ミコちゃんはエプロン姿でやって来ました。

「朝からにぎやかですね~」

「店長さんから女のニオイがしますーっ!」

 わたしは店長さんを羽交い絞め。

 コンちゃんとミコちゃんがクンクンします。

 ミコちゃんは首を傾げて、行っちゃいました。

 元々人間だから、嗅覚は弱いのかも。

 コンちゃんは見る見る鬼の顔にミューテーション。

「確かに雌のニオイがする……店長、覚悟は出来ておろうな」

「い、いや、俺、本当にそんな事してない」

「正直に言うのじゃ」

「俺、村長さんに言われて、駐在さんの置いていった犬を見てきたんだ」

 途端にコンちゃん、いつもの顔に戻っちゃいます。

「なんだ犬か、しょーのない」

 コンちゃんも退場です。

「ウソーっ!」

「ぽ、ポンちゃんいいかげんにしなよ」

「犬だけじゃないもん、ほかのニオイもするもん」

「むー!」

 店長さん、わたしの手をしっかり握りました。

「じゃ、一緒に行こうか」


「嫌ーっ!」

「嫌じゃないだろ、嫌じゃ!」

「わわわわたし、犬は苦手なんですっ!」

「もう、浮気じゃないの証明するから」

 店長さん手を引っ張ります。

 そしてわたしをお姫さまだっこ。

「嫌ーっ!」

 お姫さまだっこは嬉しいけど、犬はやっぱり嫌です。

 わたしが野良だった頃、よく追っかけられたんだから。

 噛まれたら、痛いんですよ。

「ほら、この犬」

 交番の前には一匹の白い犬。

 でも、なんだかさっきから悲鳴みたいな鳴き声ばっかり。

 様子が変です。

「俺、この犬の面倒見るように頼まれたんだ」

「な、なんで?」

「駐在さんいなくなっちゃったんだ……統廃合」

「犬、置いていっちゃったんですか?」

「うん」

 話している間も、白い犬はキャンキャン言ってます。

 わたし、犬語はわからないけど、なんとなく……悲鳴と思った。

「残り物でいいから、えさやって世話しろって」

「そ、そうなんですか……」

 わたし、お姫さまだっこでゼロ距離だから、店長さんのニオイを改めて確認。

「でも、店長さんから、猫のニオイもしますよ」

「猫は本当に覚えがないんだけど……」

 わたし、店長さんの腕から逃れると犬の周りを見ます。

 猫のニオイはここからただよってくるんだけど……

 犬と猫も仲はよくないですよね……

 あ、犬小屋の裏に黒猫発見!

「店長さん、猫です猫!」

「ああ、本当だ、さすがポンちゃん」

「店長さん、これこれ!」

 交番の建物の影にはダンボール。

 マジックで文字「ひろってください」「名前はタマです」だって。

「捨て猫さんですね」

「で、俺の浮気は晴れた?」

「本当でした、犬と猫」

 店長さんがアンパンを一つくれました。

 見れば店長さんは犬にアンパンをあげてます。

 わたしは黒猫・タマちゃんにあげましょう。

「捨てられて、かわいそうです」

 タマちゃん、アンパンにかぶりつき。

 気持ちはよくわかります。

 わたしもこのアンパンに助けられたもん。

「!!」

 いきなりタマちゃんからモクモクと煙!

 わたしと店長さん、びっくりして見てたら黒いワンピの女の子登場です。

「だだだ誰っ!」

「タマにゃん!」

「タマにゃんって……まさか黒猫タマちゃん?」

「そうにゃん、アンパンを貰ったから、恩返しするにゃん」

 黒猫が人間の女の子になっちゃいました。

 むー、最近こんな事があったような、なかったような。

 わたしの記憶の中で、ミコちゃんが微笑んでいます。

「ててて店長さん」

「な、なに、ポンちゃん」

「また、ミコちゃんの時みたいに、わたしのせいになっちゃうんでしょうか?」

 途端にびっくりしていた店長さんの顔が冷静さを取り戻しました。

 クールな視線をわたしに向けて、

「そうしたほうが、丸く収まるのかなぁ」

「えー! またお外で寝るのー!」


 お昼ごはんにはタマちゃんも一緒です。

 おなか空いてたのか、パクパク食べてますよ。

「おかわりにゃん」

 ミコちゃんがごはんをよそいで……

 途端にタマちゃん首を横に振ります。

「ほかのごはんがいいにゃん」

 ミコちゃんごはんにカツブシかけて渡しました。

 そんなおかわりが続きます。

 カツブシ・ふりかけ・たまごかけ・さんまの缶詰……

 猫ってまぁ、こんな生き物ですよね。

 あ、最後に味噌汁ぶっかけごはんで勢いが止まりました。

 猫だけに熱いのは苦手みたい。

「ねぇ、タマちゃん」

「なににゃん、タヌキ娘」

「タヌキ娘……いいけど……おかわりはもうやめた方がいいよ」

「なんでにゃん」

「三杯目にはそっと出し……です」

「むー!」

 あつあつの味噌汁ぶっかけごはんをふーふーして食べてしまうと、

「では、恩返しするにゃん」

 そう言うと、店長さんの腕にすがりついてしまいました。

「アンパンの恩返しするにゃん」

 わたしがあげたような気がするんだけど……ま、いいか。

「なにをしたらいいにゃん」

 タマちゃん、さっきから言うけど、店長さんはなんだか嫌そう。

 それに恩返しと言うわりには、じゃれてるだけ。

 店長さんの目が、わたしやコンちゃん、ミコちゃんに向けられます。

 あからさまに嫌そうで、追い出して欲しそうな目。

 わたしは微妙だけど、コンちゃんはやる気で、ミコちゃんは微笑んでます。

 そんな店長さんの鶴の一声は、

「ここ、食べ物屋だから、綺麗にしてないとね」

「猫だから、掃除とか出来ないにゃん」

「うん、そんな事だろうって思ってたから……」

「店先で招き猫でもするにゃん」

「いや、まず、お風呂に入ってもらうから」

「!!」

 カッと見開かれたタマちゃんの目。

 でも、もう、コンちゃんとミコちゃんが左右の腕をつかまえてます。

「お風呂嫌ーっ!」

 連行されるタマちゃんの悲鳴。

「にゃん」付けるの忘れてます。

「店長さん店長さん」

「なに、ポンちゃん、ポンちゃんもお風呂手伝ってあげて」

「なんだかかわいそうじゃないです?」

「なんだかやりたい放題な猫だから、ここで躾ておかないとね」

「き、厳しいですね」


 あっという間に一日が終りました。

 お店は今日も閑古鳥が鳴いている感じだったけど、タマちゃんのおかげで大変でした。

 もう、お風呂で暴れてひっかかれたし、夕ごはんもおかわりがすごくて、コンちゃんとケンカになったくらいです。

 結局タマちゃんはわたしに一番懐いちゃいました。

「ねー、ポンちゃん、一緒に寝てにゃん」

「いいけど、お風呂の時みたいにひっかいたら嫌だよ」

「もうしないにゃん」

 一緒のお布団に入ります。

 わたしに抱きついてくるタマちゃん。

「一人で眠れないの~」

「いつもご主人さまと一緒だったにゃん」

「!!」

「やさしいご主人さまだったのに……捨てられたにゃん」

「……」

「お父さんが飼ったらダメって言ってたにゃん」

 タマちゃん、わたしにしがみついて体が震えています。

 泣いているの、わかりますよ。

 すごくかわいそう。

「やっぱり、ご主人さまと一緒がいいんですね」

「当たり前にゃん」

 もう、それからはタマちゃん黙ってしまいました。

 あんまりかわいそうだったから、こっちが眠れなくなっちゃいましたよ。


 次の日、こっそりお店を抜け出してタマちゃんと一緒に交番に行きました。

 犬はこわいけど、鎖でつながれているから、近付かなければ大丈夫。

 タマちゃんと一緒にダンボールを見ます。

「うう……」

 また、泣き始めるタマちゃん。

 わたし、タマちゃんの背中をトントンするくらいしかできません。

 すると、そんなタマちゃんの姿が猫に戻っちゃいました。

 子供だったから、ずっと変身出来なかったのかな?

 わたしの腕の中でおとなしくなっちゃいましたよ。

「タマ!」

 いきなり後ろから男の子の声。

 わたしの腕からタマちゃんを奪うと、ひしっと抱き合う男の子とタマちゃん。

「タマ……ごめんよ」

 ランドセルを背負っている男の子……これがタマちゃんのご主人さま?

「あなたが飼い主さんです?」

「はい、タマは僕の猫です……お父さんが飼ったらダメって言うから捨てたけど……」

 見れば交番の脇にタクシー停まってます。

 男の子とタマちゃんはタクシーに乗ると、

「もう、絶対離しません」

 男の子はそう言って行っちゃいます。

 タクシーはあっという間に見えなくなりました。

 タマちゃん、しあわせにね。


 こっそりお店を抜け出したから、今夜もお外でお休みです。

「店長さん厳しすぎ……」

 でも、お店をほったらかしにしたのは本当だから我慢ガマン。

 夜空は星でいっぱい。

 星座ってのがあるらしいです。

 星と星をつないで絵にするんですよ。

 山の中だから、星はたくさんあるんです。

 そんな星を見てたら、タマちゃんの顔を思い出しました。

 もう、今夜はご主人さまと一緒で、さみしくないはずですよ。


 店長さん、わたしというものがありながら、あの白いメス犬のところに行くんです。

 なんでも交番の人がいなくなって、世話する人がいないって…

 むー!

 わたし、犬のニオイ、苦手なんですよ~

 野良の頃に追いまわされたから、アレは敵なんです敵!


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ