第26話「神楽舞う?」
たまおちゃんに言われてコンちゃん・ミコちゃん神楽舞います。
わたしはポンポコリンで太鼓係り。
最初は嫌な気持ちだったけど、巫女さんルックになってご機嫌です。
でもでも、わたし達の神楽はうまくいくのかな?
だってコンちゃん、全然練習してないんだもん。
村のゆっくりとした時間が過ぎていきます。
お客さんは、残念ながらいません。
テーブルが定位置のコンちゃんは睡眠中。
わたしは……えへへ、店長さんとお話中です。
この間の温泉の話とかしていると、ドアのカウベルが鳴りました。
せっかく店長さんと二人きりだというのに。
でも、お客さまは神さまです。
「ポンちゃ~ん!」
「たまおちゃん!」
あう、やってきたのはたまおちゃん、神社の巫女さんです。
たまおちゃんも、お客さんといえばお客さんなんですが……
でも、いつも「半額にして」とか「おまけして」とか言うんです。
そのたまおちゃん、お店で寝ているコンちゃんを見てから、
「ね、ミコちゃんは?」
「ミコちゃんは今は夕ごはんの準備ですよ」
「た、助けて……」
またなにかあったんでしょうか?
「こ、今度はどんな敵が現れたんですか?」
「敵じゃないです、村の神社で神楽を舞うんです」
「神楽を舞う?」
「そうです、神楽、知りませんか?」
「うん」
「そうですね、こう、神さまの前で神聖な踊りを踊る……みたいな感じです」
「なるほど~」
「助けてください」
「な、なにを助けるんですか?」
「その舞いを……踊って欲しいんです」
わたしと店長さん、たまおちゃんを見つめます。
店長さんが不思議そうな顔をして、
「たまおちゃん、巫女なんだから舞えばいいじゃん」
「店長さん、言いますね……私がどんな巫女かわかってて言ってますよね」
わたしと店長さん、半べそなたまおちゃんを見ながら目を細めます。
舞っているたまおちゃんをイメージ。
たまおちゃんが転んで泣いているシーンが簡単にイメージできました。
「や、やっぱりたまおちゃん、踊りとか全然とか!」
「ポンちゃん嫌な事言いますね……その通りです」
あ、たまおちゃん落ち込んじゃいます。
いいタイミングでミコちゃんが入ってきました。
「お味噌汁に入れるお豆腐を買ってきて欲しいんだけど……」
「きゃー! お姉さまっ!」
たまおちゃん、ミコちゃんに抱きつきます。
さっきの「お姉さま」ってなんでしょうね。
でも、前回の温泉の事もあるから、たまおちゃんにとってミコちゃんは命の恩人。
ミコちゃんも人柱にまでなったくらいだから、舞いとか経験あるかもしれません。
それによく考えたら一応神さまだよ。
「私、舞いとかダメで……それでお願いに来たんです」
たまおちゃんはミコちゃんとコンちゃんを見て、
「お願いしますっ!」
む……わたし猛烈に抗議します。
「ちょ、ちょっと!」
「な、なに、ポンちゃん!」
「たまおちゃん、なんでミコちゃんとコンちゃんなのっ!」
「え……」
「わたしはー!」
「……」
たまおちゃん、ポカンとしてます。
それからミコちゃんとコンちゃんを見て、
「舞いって踊るんですよ、二人が適任」
「わ、わたしはスルー?」
もう、たまおちゃんの襟首つかまえて、持ち上げたい気分です。
でもでも、セクシーじゃコンちゃん達にかなわないから、しかたないか。
わたしが膨れていると、たまおちゃん急にわたしの手を握って、
「ポンちゃんにもお願いが!」
「きゃっ! わたしもやっぱり踊るの!」
「私と一緒に楽器をやってください!」
「え……」
「私が鈴をやりますから、ポンちゃんは太鼓を!」
「え……わたし、太鼓をやるの?」
店長さんがにやりとして、
「ポンポコリンで、ポンちゃん適任じゃん」
もう、わたし、店長さんをポカポカ叩いちゃいます。
最初はちょっとムッとした太鼓係り。
でも、巫女さんルックになったら、なんだかわたしもグレードアップした気分です。
こう、神聖な感じがして、別の魅力、発見かも。
着替えたわたしに店長さんびっくりしてます。
「ポンちゃんも、こう、服装が変わるとイメージが変わるね」
「ふふ、わたし似合ってますか?」
「うん、似合う似合う」
「そうだ……わたしが読んだ雑誌では、男の人はこの格好に萌えるんですよ!」
「エロポン……」
う……エロポンはやめて……すごい心がくじけます。
すると、今度はコンちゃん・ミコちゃん登場。
二人は最初登場した格好が着物だっただけに、巫女さんルックもばっちりです。
「うわ……」
わたし・店長さん・たまおちゃん……これしか言葉が出ません。
二人は似合いすぎですよ。
たまおちゃんはミコちゃんを見つめて、目が少女漫画になってます。
店長さんはコンちゃんを見たまま石像みたいに固まりました。
このままでは、店長さんのハートを持っていかれるかも。
ネガティブキャンペーン発動です。
「て、店長さん!」
「な、なに、ポンちゃん」
「コンちゃんすごく綺麗だけど……いつものお店を思い出してください」
途端に店長さんの瞳孔が激しく動きます。
店長さん深刻な顔で、
「コンちゃん、本当に女狐だ」
村祭りの最後に神楽があるの。
わたし、たまおちゃんと一緒にずっと練習してたけど、たくさんの人の前で演奏すると思うとドキドキしっぱなしだよ。
でも、ともかくわたし達、演奏始めます。
そして、コンちゃん・ミコちゃん登場です。
正直言うと……わたし達は毎日練習してたのに、コンちゃん達が踊り組が練習しているところは一度も見た事なかったんです。
ミコちゃんはわたし達に演奏の手ほどきをするのに一緒だった事もあるけど、コンちゃんが一緒にいたことは、結局なかったような気が……
コンちゃんうまくできるのか、かなり不安なんだよね。
でも、いざ始まってみると、コンちゃん・ミコちゃん上手に踊ってます。
たまおちゃんが二人を選んでムッとしたけど、これを見ていると納得。
うむ、二人ともさすが神さまという事でしょうか。
何事もなく神楽は終って、舞台におひねりがじゃんじゃん飛んできました。
コンちゃん・ミコちゃん、観客の人達に手を振ったりして挨拶してます。
たまおちゃんは、おひねり回収に大忙し。
わたし……なんだか一人おいてけぼりな気分ですよ。
ミコちゃんが人気者になるのは、まぁ、許せます。
でも、コンちゃんが拍手喝采なのはどーでしょう。
いつもお店で座ってぼんやりしてるだけの女狐がちやほやされる。
こんな現実許されていいのでしょうか?
わたし、しっぽをくわえて悔しさ膨らみます。
女の嫉妬が燃え上がる時なのだ。
わたし、愛想を振り撒いているコンちゃんのバックをとります。
「えいっ!」
女狐のしっぽ確保。
引っ張って大声上げます。
「みなさん、コンちゃんはキツネなんですよっ!」
「どわ、ポン、なにをするのじゃ、しっぽ痛いっ!」
「みなさん、コンちゃんはこの色香で人をだます女狐なんですよっ!」
「ポン、いいかげんにせぬかっ!」
「コンちゃんは、いっつもふざけてばっかりの悪いキツネなんですよっ!」
「ポン、殺すっ!」
あ、コンちゃんの髪がヘビみたいにうねってます。
ふん、わたしだってもうそんなの「慣れっこ」なんだから。
間合いをとって、にらみ合い。
「ポン、おぬし、わらわにケンカを売って勝てるとでも思っておるのか!」
「ふん、やってみないとわかんないもんっ!」
ああ、いろんな物がふわふわ宙に浮いています。
きっとあれが、わたしに向かって飛んで来るはず。
コンちゃんの目の色が変わった!
わたし、ミコちゃんの腕を引っ張って楯にしちゃう。
「え!」
飛んで来たの、全部ミコちゃんにヒットです。
ダウンしちゃったミコちゃんをほっぽって、
「ふふ、コンちゃんの手なんかお見通し!」
「こ、この腐れタヌキが!」
コンちゃんがどんどん物を飛ばしてきます。
最初の一斉攻撃さえよければこっちのもの。
コンちゃん強いけど、いつも術を使った攻撃。
接近戦の肉弾戦なら、野良だったわたしにもきっと勝機があるはずです。
「この、ちょこまかとよけおって!」
近付いてきました。
コンちゃん焦ってますよ。
ここでどっちが強いかはっきりするんです。
ジャーンプ!
つかまえました。
今からボコボコにしてやるんです。
「ポン、おぬし、覚悟は出来ておろうな……」
「え?」
「よくも村人の面前で恥をかかせおって……」
目の前のコンちゃんの顔、今にも雷落ちそうな顔です。
声の感じもすごくこわいの。
マジ怒りだよ。
「そんな顔したってダメなんです」
そう、こーゆー時は強気に限ります。
って、あれれ……
いつの間にか体勢入れ替わっちゃいました。
わたし、コンちゃんにバックとられましたよ。
コンちゃん体くねくねさせて、逃げられた感じ。
あ、しっぽをつかまれました。
「い、痛い痛い、しっぽはやめてっ!」
「泣け叫べ~」
ち、ちぎれるっ!
「痛いってばー!」
わたしも手をじたばたさせます。
あ、ふさふさしたの、つかまえました。
これはコンちゃんのしっぽです。
「このーっ!」
ガブッとかんじゃえ。
「のわ、ポン、よくもー!」
あ、痛がって放してくれると思ったら、火に油だったみたい。
コンちゃんもわたしのしっぽ噛んでますよ。
もう、わたし、ポンちゃんの髪をつかんで引っ張ります。
コンちゃんもわたしの髪を引っ張って反撃。
「この、クソタヌキがっ!」
「コンちゃんのバカー!」
ミコちゃんが目を覚ますまでケンカは止まりませんでした。
わたしとコンちゃん、「お外でお休み」でしたよ。
朝の日課、コンちゃんの祠掃除。
昨日のケンカでボロボロですよ。
まったくコンちゃん加減をしらないんだからモウ。
そしたらおばあちゃんがやってきました。
「おはようさん」
「おばあちゃん、おはよう~」
って、おばあちゃん、じっとわたしを見ています。
なにかな?
「あんたも、昨日は頑張ったねぇ」
あ、太鼓を叩いていたの、しっかり見ててくれたんだ。
「あんたもお姉さん相手に一歩も引いてなかったねぇ」
え……そっちですか?
太鼓の演奏よりもケンカの方……
「わたしゃ、村祭りの最後は神楽とばかり思っておったが」
「……」
「女子プロレスってヤツかのう、激しかったのう」
おばあちゃん、言うだけ言うと行っちゃいました。
わ、わたしのせいで、ラストイベント、女子プロレスになっちゃいました。
「なんでそんな事したのじゃっ!」
警察の取調室で、刑事役のコンちゃんがわたしにライトを浴びせます。
「吐けっ! 吐くんじゃっ!」
自白強要されてますよ、いけないんだ。
「なんでメロンパンで、あんな事をしたのじゃっ!」