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第14話「新たな敵さんあらわるっ」

 うわ、あたらしくやってきた巫女さんにしっぽ見られちゃいました。

「タヌキさんですかっ!」

「えーっと、これはコスプレなんですよ」

「じゃ、外してみせてください」

 は、外せるわけないじゃないですかっ!


 さて、コンちゃんの祠も掃除完了。

 山のパン屋さんの一日の始りです。

「お掃除終りました~」

 わたしがお店に戻ってみると、パン工房の方で店長さんとミコちゃんがなにか話してます。

 肩を並べて…あ、店長さん笑ってます。

 ミコちゃんもなんだか楽しそう。

 こ、これは……ミコちゃんのホームスチールとか!

「お、お掃除終りましたっ!」

 声を大にして、二人の間に割り込みです。

「あ、ポンちゃんおつかれさま」

「店長さん、店長さんはわたしとミコちゃん、どっちが好きなんですかっ!」

「は?」

「今、ミコちゃんと楽しそうに話してました」

「……」

「ミコちゃんもミコちゃんです、人の恋人は盗らないって言ってたのに!」

 わたし、店長さんの腕を捕まえて引き寄せます。

 ミコちゃんには責める目ですよ。

「ポンちゃんポンちゃん」

「なんですか店長さん!」

「違うんだよ」

「いいわけですか?」

「あー、これ」

「?」

 テーブルを指差す店長さん。

 そこにはどら焼きがありますよ、お店に出すヤツです。

「どら焼き……どうかしたんです?」


 わたしと店長さん、ミコちゃんでバス停です。

 あ、向こうからボンネットバスが揺れながらやって来ます。

 店長さんが、

「俺、どら焼きくらいなら作れるけどさ……」

 バスが停まります。

 古くて油の焼ける匂いがするバスです。

「老人ホームに卸す和菓子をミコちゃんに作ってもらおうってね」

「そんな事だったんですか~」

「ミコちゃん、いなり寿しなんかも上手に作るから、お饅頭とかできないかなってね」

 わたしが見ると、ミコちゃん微笑んでいます。

 さっきはにらんだりして悪かったなぁ。

「じゃ、店長さん、ポンちゃん行って来ます」

「いってらっしゃ~い」

 バスに乗るミコちゃん。

 窓から手を振ってますよ。

 わたしも振り返しちゃえ。

 そんなバスから一人降りて来ました。

 眼鏡の女性で巫女さんの格好をしています。

 バスが行っちゃって、残されたわたし達。

 眼鏡の巫女さんが微笑んでから、

「はじめまして……あの……」

 なんだか、かわいらしい感じの人です。

 しゃべり方も大人しい感じでしょうか。

「はい、こんにちは~」

「あの……ここの神社が噴火で移設されたと……」

 これには店長さんが、

「ああ、神社なら新しく建て直したから」

 わたしを見る店長さん、

「ポンちゃん案内してあげたら」

「はい、わかりました、行ってきます」


 新しい神社は村の高い所にあるんです。

 途中は何にもなくて静かというか寂しい所。

 石の階段がずっと続いているんです。

 でも、わたしはそんな所、結構好きかな。

 なんたってタヌキをやってたわけですから。

「巫女さんはこの神社で働くんですか?」

「あの……」

 後ろから着いて来る巫女さん。

 振り向いてみたら、なんだかお祓い棒を手に震えています。

「どうかしましたか?」

「あの……あの……」

「?」

「タヌキさんですか?」

「!!」

 そうです、ついついなんとなく言われた通りにしていました。

 後ろから着いて来られたら、わたしのしっぽ丸見えです。

「タヌキさんですかっ!」

「えーっと、これはコスプレなんですよ」

「じゃ、外してみせてください」

「えー!」

「えー……って、外せないんですか?」

「最新式で、張り付いているんです」

「タヌキですね!」

 あ、巫女さんお祓い棒を振り上げました。

「ちぇすとー!」

 お祓いとは関係なさそうな掛け声ですよ。

 巫女さんお祓い棒を大根切りみたいに振り下ろし。

 でもでも、巫女さんルックの攻撃で機動力はさっぱり。

 わたし、簡単によけちゃいます。

 ひょいっと!

「なにするんですか!」

「この化けタヌキ!」

「神社の場所を教えてるのに……」

「はらたま! きよたまーっ!」

 階段で袴で思うように動けないみたい。

 よけるなんて簡単かんたん。

「な、なんでよけるんですかっ!」

「だ、だって当ったら痛そうなんだもん」

「化けタヌキは祓われてしまえばいいんですっ!」

 むー、なんだか話し合う雰囲気じゃないですね。

 神社はもう、階段を上がったところだから、ここでお別れしてもいいでしょう。

 わたし、この巫女さん、かわいいからあんまりケンカしたくないし。

 どっちかというと、仲良くしたいくらいです。

 あ、またお祓い棒アタック。

 ささっとよけてから、

「ふふふ、巫女さん弱~い」

「!!」

「祓ってごらんなさ~い」

 言うだけ言って逃げちゃえ。

 わたしも制服のメイドさんルックだけど、いつも着ているから身のこなしじゃ負けません。

「待てーっ!」

「おほほほ……ごきげんよう」

 なんて言って、逃げちゃう事にしました。

 途中で振り向いてみたけど、巫女さん追っ掛けてこれないみたい。


「じゃ、ポンちゃん頑張ってね」

 お店も営業時間です。

 店長さんはパン作りで忙しかったから、これからお昼までは休憩。

 わたしとコンちゃんでお店を守っていくわけです。

「店長さん!」

「なに、ポンちゃん?」

「あの~」

「?」

「お客さん、来るんでしょうか?」

「い、嫌な事言うね」

 そう……ここしばらく、平日のお客さんは少ないんです。

 せっかくお店も村も復活したのに、これではパン屋さん倒産ですよ。

 店長さん、テーブルでぼんやりしているコンちゃんを見て、

「まぁ、うちには強力なお稲荷さまもいるし……」

「コンちゃん本当に神さまなのかなぁ」

「ダンプカー念力で飛ばすくらいだから、本物じゃないの?」

 そう言われると、そんな気もします。

 店長さん手をひらひらさせながら行っちゃいました。

 まぁ、コンちゃんのご利益を信じて、今日も頑張るとしましょう。

 すると、開店からいきなりカウベルが鳴りました。

 今日はもしかしたら、千客万来なのかも!

「いらっしゃいませ~」

 って、入って来たのは例の巫女さんです。

「あーっ!」

 目が合ってはもっちゃいました。

 巫女さんお払い棒を構えてダッシュ。

 普通の床ならそこそこの機動力みたい。

 わたし、そんな巫女さんのお祓い棒をじっと見ます。

 あれがそのまま振り下ろされたら……

 その一……わたしに当っちゃう事に!

 その二……わたしが痛い事に!

 その三……わたしが真剣白刃取り!

「その一」は困るし、「その二」も嫌、「その三」は失敗しそう。

 何か得物があれば……レジの回りを見れば、ちょうどいい感じでフランスパン。

「!!」

 わたし、夢中で防御。

 巫女さん、フランスパンにびっくり。

 フランスパンとお祓い棒で鍔競り合い。

「化けタヌキ~!」

「しつこ~い!」

「はらたま~ きよたま~」

「コンちゃん助けて~」

 わたしの声にコンちゃん面倒くさそうにやって来ます。

「なんじゃ、ポン」

「この人がわたしを祓おうとするんです!」

「祓われてしまえ」

 うー、コンちゃん全然その気なしです、やる気なし。

 こうなったら巫女さんに情報提供です。

「巫女さん巫女さんっ!」

「はい?」

「あっちは悪いキツネですよ」

「え!」

 巫女さんコンちゃんを見て固まっちゃいました。

 いい感じでしっぽ丸見えです。

 真っ青になりながら、

「こここ……ここは孤狸庵ですかっ!」

 金魚みたいに口をパクパクしてます。

 巫女さんわたしとコンちゃんを見比べてから、改めてお祓い棒に力を込めます。

「ちょっ……悪いキツネは無視ですかっ!」

「あっちの方が強そうだから、タヌキさんから退治です!」

 む!

 その判断は正解かも。

 なんとかせねば……じりじり動いて、コンちゃんを背にします。

「えいっ!」

 フランスパンで押し返し。

 巫女さん一度引いて、お祓い棒を振り上げてから、

「ちぇすとーっ!」

 来ました、これを待ってたんです。

 ぎりぎりまで引き寄せてから、ひょいっとよけ。

「あーれーっ!」

 巫女さんそのままコンちゃんに突っ込んで行きました。

 振り下ろされたお祓い棒、コンちゃんにヒット。

 ★一つ飛ぶのが見えました。

 途端に店内が暗黒のオーラに呑まれます。

 コンちゃんの髪うねりまくり。

「おーぬーしーらー!」

 巫女さんお祓い棒を捨てて逃げてきて、わたしの背後に隠れちゃいます。

「たたたタヌキさんがよけるからいけないんです!」

「巫女さんがお店であんなの振り回すからいけないのにっ!」

 今度はわたしが巫女さんの後ろに回って隠れます。

「ちょっ……タヌキさんなにをーっ!」

「巫女さんなんだから、コンちゃん祓ってください!」

 あ……お店のパンが次々と浮かび上がりはじめました。

 コンちゃんの能力発動ですよ。

「おぬしら、覚悟は出来ておるのであろうな」

 お店のパンがヒュンヒュン飛んで来ます。

「殺すっ!」

 もう、巫女さんと敵とか言ってる場合じゃないです。

 一緒になって逃げ出しました。


「ただいま~」

 カウベルが鳴って、ミコちゃんが帰ってきました。

 お店は台風の後みたいで、わたしとコンちゃん、そして巫女さんは正座。

 店長さんのお説教の最中だったの。

「店長さん……どうしたんです?」

「ミコちゃんお帰り……ポンちゃん達がお店で暴れてこんなになったの」

「ポンちゃん達……この人は? 巫女さんコスプレ?」

 このままじゃ、わたしのせいにされちゃいます。

 こーゆー時は声の大きい者勝ちですよ。

「この巫女さんがお祓い棒で強盗に来たんですっ!」

 途端にわたしの頭に店長さんのチョップ炸裂です。

 うう……言わなきゃよかった。

 店長さんとミコちゃんがじっと巫女さんを見つめます。

「わ、私は麓の神社から派遣されてきました」

「麓から何で?」

 店長さんが聞くのに巫女さんは、

「私、仕事が全然できなくて、ここの神社で修行してこいって……」

「それで……でも、なんでポンちゃん達を攻撃したの?」

「化けタヌキとキツネを祓ったら、一人前かなって……」

「ポンちゃんはともかく、コンちゃんをやっつけるのはかなり上級」

 う……わたしはたいした事ないみたいな言われっぷりです。

 でも、超能力ならコンちゃんにはかなわないかな。

「巫女さん、俺の目から見ても修行が足りないから、ミコちゃんに修行を見てもらったらいいよ」

「ミコちゃん?」

 巫女さん首を傾げてます。

 店長さんが合図すると、ミコちゃんにっこり微笑んでから人差し指をコンちゃんに向けます。

「ゴットサンダー!」

 ミコちゃんの指先から稲妻が出てコンちゃんにヒット。

 途端にコンちゃんこんがりキツネ色になっちゃいます。

 ミコちゃん微笑んで、

「神事は心得ありますから、いろいろ教えてあげますよ」

「よろしくおねがいしますっ!」

「お名前、伺ってなかったわね」

「あ、あの、たまおです、お姉さま!」

 うわ、なんだか最後の「お姉さま」があやしいです。

 たまおちゃん、なんだか熱っぽい瞳でミコちゃん見てますよ。

 大丈夫かなぁ。

 でも、とりあえず、一件落着……かな?


 山の夜は寒いんです。

 お店の前のダンボールには、わたしとたまおちゃん。

 暴れた罰で今夜はお外でお休みなの。

 コンちゃんがいないのは、ゴットサンダーでチャラなんだって。

「もう、たまおちゃんがいけないんだから!」

「うう……だってポンちゃん化けタヌキなんだもん」

「弱いくせに、お祓い棒振り回すし!」

「もしかしたら、当るかな~って」

「たまおちゃんなんか嫌いっ!」

「私だって、いつかポンちゃん祓いますっ」

「ふんっ!」

 最後のは二人一緒です。

 そっぽを向いてしまいますよ。

 でもでも、山の夜は寒いんです。

 肩を寄せ合って、

「仲良くしないと、風邪ひいちゃいます」

「そ、そうですね、神社の場所も教えてもらったし」

 とりあえず、仲直り。

 新しい仲間ができました。


「いや……ミコのやつ、店長を狙っておるのかも知らん」

「え……まさか」

「いや、あやつは元々人間ゆえ、人肌が恋しくなったのかも知らん」

「むー……そんな事あるのかな」

 ミコちゃんがそんな事、考えてるんでしょうか…む~!


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