第15話;(未完)
どうもです
最近持病の五月病が酷くて辛いです
今日も日付が変わった瞬間に、喧しい機械音のような声が聞こえた。実に喧しいのでなんとかならないのかとフラウロスに聞いてみたが、我慢しろとのことだった。
「全く、毎日毎日零時に叩き起こされるなんてふざけてるとしか思えねぇよ」
遼牙は洗面所で歯を磨きながら愚痴をこぼす。
『まぁ慣れだよ慣れ』
実に楽しそうな声で返すフラウロス。遼牙は口を濯ぎ、歯ブラシを洗ってから台に戻す。
「慣れっていっても、それまでが大変なんだが」
遼牙はテキパキと準備をしながら、フラウロスと会話する。
『まぁ諦めな。数週間ぐらいの辛抱だ』
「はぁ、俺の安眠は何処行った……」
遼牙は深く溜め息をつく。そして項垂れながら、いつもよりもきつめにホルスターを巻きつけ、サイズの合っていない上着を羽織る。
「今日にでも新調しようかな」
遼牙は手が出ていない腕を持ちあげ、逆の手で膝辺りまである上着の端をつまむ。この前の買い物の時にシャイナと瀬奈にいくつか服は買ってもらったのだが、正直遼牙はこの服しか着る気はない。なぜならば
「あんなフリルたっぷりな服着れねぇしな」
遼牙はそのまま部屋の隅に放置してある買い物袋に目をやる。あの時買ったものは全てシャイナと瀬奈に任せおり、買ったものを見たのは帰宅した後だったため、こんな事態になってしまったのだ。今しっかりと使ってる物は下着ぐらいである。
「……俺損しかしてなくね?」
遼牙は再び溜め息をつき、部屋を出る
泰月に今日は仕事が無いことを確認してから遼牙は事務所の地下に向かった。
「そういやフラウロス。昨日ラファに契約のことを聞いたんだが」
『へぇ、それがどうかしたか?』
地下の駐車場の端に止められている大型のバイクに掛けられたフルフェイスのヘルメットを被り、跨ってポケットから飾りっ気のない鍵を差し込む。
「どうしたじゃねぇよ。あんな説明初めて聞いたぞ」
ブルォォン!
『そうだっけか?まぁどうせ俺は説明下手だから在っても無くても関係ねぇよ』
遼牙は軽くエンジンを吹かせてからバイクを発進させる。
「おい。まぁいい、今は別に聞きたいことがあるんだ」
『ん?なんだ?』
アンバランスなバイクがエスポワールの街路を走る。
「お前との契約に使った感情ってなんだ?」
『あ?なんでそんなこと聞くんだ?』
―は?何言ってやがるこいつ
『何ってそんな変なこと聞いたか?寧ろ譲ちゃんの質問の方が滑稽だぜ』
「って俺が考えたこと分かるのか!?」
『当たり前だろ。俺は譲ちゃんの中にいるんだぜ。まぁ嫌なら止めるが』
―そう言われればそうか。じゃあこれからこれで頼む。
『OK譲ちゃん。それでさっきの質問だが直接俺が教えることは出来ないんだ』
―出来ない?なんでだ?お前は知っているんだろ?
『ああ、知ってるさ。だけど俺はそれを教えることはできない。ああ、別に譲ちゃんに非協力的な訳じゃねぇぜ。ただ、地球の重力が下にかかるように、命が老いて散るように、俺が譲ちゃんにそれを教えることは出来ないんだ。教えないんじゃない、教えられないんだ』
やけに真剣な口調でフラウロスが告げる。
―ふーん、まぁ理由があるなら仕方ねぇな。
『悪いな。まぁ俺としては契約に使うぐらいの大きくて強い感情なら覚えがあると思うんだが』
―そう言われてもなぁ
『俺と譲ちゃんが契約したのは、間違いなく譲ちゃんの12歳の誕生日の日だ』
―あの時……か
逃げて……遼牙
「っ!!」
バイクが左右にぶれ蛇行するが直ぐに立て直す。
『大丈夫か譲ちゃん』
―ああ、平気だ、問題無い
その後二人の会話はなく、ひたすらバイクを走らせた。
「あれ?今日は随分人が少ねぇな」
がしがし頭を掻きながら陣内洸太が出勤早々そんなことを言う
「ああ、今日は仕事が無くてな。シャイナはさっき来て帰って、瀬奈は今日休むと連絡があった。」
泰月は書類から目を逸らさず洸太に現状を説明する
「遼牙は?」
「服を新調するために友人のとこに行くと言ってたな」
「ふーん」
洸太はつまらなそうに言い、ハンマーを壁に立てかけて自分の椅子に腰かける。
「これから暫くは遼牙の負担を減らそうと思う」
泰月は唐突にそう切り出す。
「急にどうした?心境の変化でもあったのか?」
「いや、そういう訳ではない」
「じゃあなんだ?まさか今のあいつに惚れたか?」
洸太はにやにやしながら泰月に聞くが、泰月は微動だにもせず
「馬鹿か」
とだけ返した。
「じゃあなんだよ」
「これから任せる仕事が結構苦労する内容でな。流石に両方ともやらせるのは酷だろ?」
「ああ、散々こき使ってたくせにな」
「ああ、どっかの馬鹿がよく物壊すから、仕事回さざるを得なかったからな」
「………。」
「………。」
「そういえば昨日の昼ごろ、南区のどっかのビルが潰れたらしいぞ」
泰月は書類から目を逸らさずに沈黙を破る
「……へぇ、そうなのか」
「ああ、詳しい話は知らないが、相当の人数が死んだらしいみたいだ。」
「まぁそんな奴らなんてどうせ碌な連中じゃないだろ」
「尤もだな。あぁ、そういやその時、現場から不自然に離れていった車が有ったそうだぞ。廃ビル群には場違いな黒塗りの高級車だっから記憶に残ってたんだとさ」
「………」
「向かった先はたしか……ブロガニル」
「ふーん、それより今日は仕事無いんだよな」
「ああ」
「そうか、んじゃ帰って寝るかなー」
洸汰は頭をかきながら立ち上がり、立てかけてあったハンマーを持って部屋を出ていく
「ふー」
泰月は洸汰が出て行った扉を一瞥し、書類を机に投げ捨て窓の外を見る
「んー、長いな」
遼牙は今切れかけの蛍光灯が照らす、薄暗く只管長い金属のトンネルを走っている。地下都市で括られる七都市には共通して二つのものが必ず存在する。一つは都市間を移動するための転送ポート、通称ゲートと呼ばれるものだ。これはエスポワールにあった区移動用の転送ポートの進化版のようなもので、大抵都市の中心地に設置されている。そして二つ目が、今遼牙が走っている金属の道、地上に繋がる大トンネル、【ルート】だ。【ルート】は都市に近いほうからレッドゾーン、イエローゾーン、ブルーゾーンの三つに区画分けされ、それぞれ分厚い金属の壁で仕切られている。一区画あたりおよそ5キロの長さがあり、全長ともなると十数キロにも及ぶ。
「しかし、ここまで来るとさびしいもんだな」
―まぁ一切人気ないしな
【ルート】には一応衛兵としての人がいるのだが、それもイエローゾーンの入り口辺りまでで、それより先になるとまず人はいない。よって、今遼牙がいるのはイエローゾーンのかなり奥の方なので、寧ろ誰かいる方のほうが異常なのである。
「お、やっと見えてきた。」
薄暗いトンネルの奥にうっすらと赤い扉が見えてきた。
─あれが最後の扉か?
「ああ、あれを抜けたらじきに地上だ」
ブルーゾーンは他の区画に比べて長さが短い。これは設計途中で長さの変更をしたためと言われているが、大方早く仕切りをつけたかったからだろう。
「っと」
遼牙は赤い扉の前でバイクを止めて降りる。これらの扉は総じて大金庫のような重厚な造りになっていて、入口で教えてもらえるパスワードと鍵の二つで開くことができる。遼牙はポケットから緑色のカードキーを取り出して扉に差し込み、八桁のパスワードを入力する。
ゴゥンッ!
大きな音を立てて金属の扉が動き始める。
「よし、行くか」
遼牙は再びバイクに跨り走りだす




