第13話;ばら撒く偽りと道化の仮面
どうもです。
最近自転車に乗っていたら、風に煽られて電柱に突っ込んだ咲花木です。風のバカヤロー
『あ、あー、試験終了です。お疲れ様でした。生き残った方々は一階のエントランスにお集まりください』
スピーカーから最初の放送の時のよく通る男の声が流れる。
「この放送はどこから流れてるんだろ?別のところにも放送器具があるのかな?」
「さぁ?なんかの能力かもよ。まぁなんにしろ、さっさとエントランスに行こう」
「だね。それじゃ行こうか」
そう言い二人は少し重い防音ドアを開け放ち、外に出る。
「なにこれ?なんでこんな瓦礫が散乱してるの?」
「うお、予想以上に酷いな。こりゃ少しやり過ぎたか?」
扉の向こうは瓦礫の散乱した回廊が広がっており、奥にあったはずの階段は見るも無残に崩れ落ち瓦礫の山を築きあげていた。壁や天井には黒く焦げた跡の他に、赤黒いなにかがこびりついていた。
「遼子ちゃんの爆弾でやったの?これ」
「うん。それと遼子ちゃんは止めてくれない?」
―非常に気持ち悪いから……
「あ、うん、分かった。じゃあ遼子……さん?」
「遼子でいいよ。まぁさっさと行こう」
アイザックは遼牙の小さな背中を追うようにして、瓦礫の山を背に回廊を進み始める。エントランスまでは大した距離はないので、一分足らずで辿りつく。
「お疲れ様です。アイザック・シュナイダー様。光崎遼牙様の代理人様」
遼牙たちがエントランスに入った瞬間、低いしゃがれた声がフロアに響いた。その声の主は、エントランスの巨大な彫刻の前でこちらニヤニヤ笑いながら観察している、白衣を着た不健康そうな痩身の男だ。装いからして研究者だということが窺えたが、男の纏う雰囲気などから真っ当な匂いは感じられなかった。遼牙警戒しつつも階段を下りながら、白衣の男に話しかける。
「一つ尋ねたいことがある」
「ええ、私たちが答えられる範囲内のことでありましたら構いませんよ」
一体何がそんなに楽しいのかと思う程、楽しそうに口元を歪めて答える白衣の男。
「他の合格者はいるか」
「いいえ、生存者ならいますが、合格者は貴方がただけです。」
「そうか。それじゃあ俺たちを採用ってことだよな」
「ええ、そうなりますね」
「えっ本当!?やったぁ―!」
それを聞いたアイザックが大喜びし、満面の笑みでガッツポーズをとる。遼牙はやれやれといったように頬笑みながら肩を竦める。
「ありがとね遼子。君がいなかったら僕はここまでこれなかった。本当にありがとう」
アイザックは満面の笑みのまま遼牙に向き直り言う
「気にしなくていいよ。それにアイザックなら俺がいなくても生き残っていただろうよ」
遼牙の言葉はお世辞でもなんでもない分析の結果で、戦闘のセンスまでは分からないが、能力だけを見ても十分通用するレベルであると判断したためである
「そんなことないよ。遼子のおかげさ」
「……まぁいいや、それで」
―まぁどう受け取ろうとアイザックの勝手だしな
「御二方、これを御受取下さい」
二人の会話がひと段落ついたところで白衣の男が声をかけ、二人に黒いメモリーチップを渡す。
「この中に仕事に関しての資料が入っておりますので、後ほど御閲覧下さい」
「分かりました」
「ああ、次回会う事になるのは五日後の四月の三日ですので、それまでには御閲覧して、要る物を揃えてください。一応最低限の物はこちらで手配しておりますので、明日にでも自宅に届く手筈になっております」
白衣の男はニヤニヤ妖しく笑いながら、しかし口調は丁寧なもので話す。
―最低限の物ねぇ。一体俺たちに何やらせる気だ?……まぁ変に勘繰っても仕方ねぇ、それに何やるかは帰れば分かるし。………にしても
「あの……何か用ですか?」
遼牙は先程からこちらに向けて、妖しい笑みを送り続ける白衣の男に尋ねる。
―ぶっちゃけスゲー気持ち悪いんだけど
「ああ、はい。貴方が光崎遼牙様の代理人として参加する旨をお聞きしたのは、ついこの間であり、貴方に関する情報も少なく、先程の試験でも実力の半分程しか出されていないようすでしたので、こちらとしても貴方という存在を図りかねるのです」
「成程」
白衣の男の言う通り試験中の遼牙がやったことと言えば、脅して、飯食って、ガラクタ漁って、仕掛けた爆弾を起爆させてだけである。唯一戦闘らしきことをした起爆に関しても、傍目から見たら立てた指をただ下ろしただけであるため、実力を推し量るには至らないだろう。
「ですから、貴方に関する情報を提供していただきます」
「拒否権は?」
「この依頼を辞退するということであるならば構いません」
「…分かった、答えられる範囲内でなら答えよう」
「ありがとうございます。では、早速」
白衣の男は深く一礼すると、メモ帳とペンを取り出す。
「まず、貴方の名前は?」
「……光崎遼子」
「能力は?」
「爆弾」
「年齢は?」
「今年で21になる」
「21ぃ!!君もう成人してたの!?」
二人の真面目な雰囲気を悟って、押し黙っていたアイザックが驚愕の事実に思わず声をあげてしまう
「まぁね。たしかにこのこじんまりとした体じゃ大して説得力ないと思うけど、歴とした21歳だよ」
「へぇぇ」
アイザックは少々疑いながらも簡単の声をあげる。
「次に行っても構いませんか?」
「ああ、はい」
「では、戦闘はお得意で?」
「まぁそこそこだ」
「小学校から順に出身校を教えてください」
「小学校はエスポワールの第7小学校、中学からはちょっと訳ありで行っては無いが、高校までの勉学に関しては人並みには修めたつもりだ」
「成程」
スラスラと質問とペンを滑らせ、回答を尋ね綴っていた男の手が止まり、メモ帳とペンを仕舞う
「それではこれで最後です」
白衣の男は一度そこで切り、溜めてから言い放つ。
「光崎遼牙はどうなったか教えてください」
口調や声の大きさこそ変わらないが、先程までの飄々とした雰囲気ではなく、深みと重みのある厳格なものへと変わった。
「……死んだ」
「嘘ですな」
「巷では大分有名な話になっているんだが、知らないのか?それとも、死んでいないと確定付ける証拠でもあるのか?」
「ええ、勿論。まず一つ目は、殲滅者とまで言われた光崎遼牙を殺したのであれば、そいつの名前が知れ渡るはず。しかし、名乗り上げてくるのは馬鹿ばかり。これは少々おかしな話だとは思いませんか?」
「そうでもないと思うが。まぁあの人を地位や名誉のために殺そうとしていた奴等もいたが、それ以外の理由で殺そうとしていた奴もそれなりにいた」
「ええ、それは知ってますよ。ですが、もし地位や名誉以外の目的で殺したとなると、これまたおかしな話になるんですよね」
「どういうことだ?」
「至極簡単。それは死体が発見されていないということ。この七都市には光崎遼牙の死体は存在していないということですよ。これだけ噂が流れているにも関わらず、死体が出てこない。手柄目的以外で殺したとなると、殺したという事実は本人しか知らないはず。なのに噂だけはしっかりと流れている」
「………」
「火の無いところに煙は立たない。つまり何かあるんですよ。死んだと思いこませたい、なにかが」
「………」
「で、教えてもらえないでしょうか?銀野相談事務所所属、光崎遼子さん」
ニヤリと得体の知れない笑いを遼牙に向ける
「……残念だが、死んだというのは事実だ。二日前、あの人は依頼で地上まで行った。そこで何者かに襲われて、消息を絶った。恐らく、死体に関してはもうエクシオン共の腹の中。それに人の口には蓋は出来ない。どんな奴だってポロリと零すことぐらいあるだろうよ」
遼牙は感情のない淡々とした口調で言う。
「………」
「………」
無言で見つめ合う二人。しかし、周りに漂う空気は鉛のように重く、氷のように冷たい
「分かりました。情報提供ありがとうございます」
「いや、礼はいらない。それではここらで失礼させてもらう」
遼牙はくるっと踵を返し、出口に向かって歩き始める。それについて行くようにアイザックが後を追う。
「あ、そうそう」
扉に手をかけた遼牙は、ふと思い出したように立ち止り、白衣の男の方に振り返る
「次会う時はちゃんと自分の顔出して話せよ。今回は許すがマナー悪いぞ」
そう言い残して遼牙は扉を出る
「まいったな。まさかバレてるとは思いもしなかったぜ」
男はへたり込むようにその場に座り、一人呟く
「あの小僧が光崎の代わりに寄こした奴だ。ただ者じゃないのは想定済みだろ」
そんな呟きに虚空から返事が返ってくる。しかし、男の周囲には人の影すら見受けることが出来ない。
「まぁそうだけどよ――これでもバレない自信あったんだぜ?」
そんな無気味な返答を特に気にすることなく、当たり前のように話しかける
「知るか。そんなことよりも結局配置はどうしたんだ?」
「ああ、実に面白い事になりそうだぞ」
「お前が気に入ったあの子か?」
「まぁな。最初は乗り気じゃなかったが、なかなか楽しくなってきたぜ」
「……ロリコンめ」
「はっ、なんと言われようと俺は気にせんぞ」
「まぁ適度に頑張れ――っと、俺はちと厄介事を片付けなきゃいけなくなったんで、ここらで切るぞ。じゃあな」
「おう、頑張れよ――って聞いてないか」
男は軽く肩を竦めると、静かに立ち上がる。
「ねぇ、最後のなんだったんだ?」
ビルから出た路地を歩く、僕の少し前を歩く少女―遼子に訊ねる
「忠告……かな?」
遼子はのんびり空を見上げながら答える
「忠告――って、変身能力を使ってたから?」
「そういうこと。人と話すのに顔見せないとか立場が対等じゃない――って良く分かったね」
遼子はほんの少し怒気を含めながらそう返し、入り組んだ路地をどんどん進んでいたのだが、僕の問いにぴたりと歩を止めて感心したようにこちらを見る
「まぁあんな言い方したからそうじゃないかなって思ってね。それに対等じゃないって、雇い主と雇われる僕たちと立場じゃ、立場が違うのは当たり前じゃないか」
僕は再びすいすい進んでいく遼子の背を追いながら言う
「いや、それは違うね」
「違う?なにが?」
「あいつらは雇い主じゃなくて、俺たちと同じ雇われ側の人間だよ」
「え?なんでそんなこと分かるの?」
たしかに依頼内容の説明などをしていたあの白衣の男を、雇い主側の人間であると考えるのは普通だ。しかし、それを否定するということはそれなりの考えがあるはず。この少女なら尚更。至極真っ当な答えを提示してくるだろう。と僕はこの短い間で理解した遼子の思考からそう考え、少女の的確な言葉を待った。
「勘と雰囲気」
しかし、帰ってきたのは論理的でもなんでもない、ただのフィーリング
「え?なにか考えがあるんじゃないの!?」
「そんなもんあるわけねぇでしょ」
振り返って後ろ向きに歩きながら、自信満々に答える遼子。
「………君のこと少し分かりかけてきたと思ってたのに、今ので一気に分からなくなったよ」
「残念ながら、俺の事を理解するのは大分難しいらしいよ」
「……どうやらそのようだね」
僕は遼子の言葉を、苦笑いしながら答える
「ん、それじゃあここらで」
路地を抜けたところで遼子がそう言い、一人街路を歩きだす。
「あ、うん」
僕は遼子の後を追いたかった。まだ聞きたいこともあるし、お礼として昼食ぐらい奢りたかった。しかし僕は、遼子を追う事も、声をかけることもできなかった。




