第9話;消えた青年は今はどこへ
どうもです。
この前、友達と家でピスタチオを食べていると、友達から「ピスタチオ食べ過ぎると全身から血が出て死ぬんだぜ」と、かなり真剣な口調で言われ、不覚にもあまりの真剣さにその時は信じてしまいました。かなり焦りました(泣)
遼牙が着替え始めてからすぐに泰月が戻ってきて外のメンバーと合流。そして待機。その数分後着替え終わったという声がかかったので、外に待機していたメンバーは病室の中に入る。
ガラガラッ
病室の中央付近に立っている遼牙はいつもの黒ずくめの格好をしていたが、上着はダボダボ、ズボンは裾を何度も折られ、ブーツはぶかぶか………なんとも身の丈に合っていない格好をしていた。
「随分小さくなったもんだな」
「ええ、ズボンはベルト目一杯閉めて裾上げでなんとかなるけど、上着の方は新調しなき
ゃ駄目だな」
遼牙は完璧に隠れてしまっている手をあげ、溜め息混じりに言う。
「それ……って、呪い(まじない)よね?」
セリスが遼牙の上着に描かれた奇怪な紋章を見つめながら聞く
「はい、知り合いに呪い師がいるので。」
「凄いわねその知り合いさん。こんな高度な呪い初めて見たわ」
セリスが遼牙の上着に描かれた白い奇怪な紋章―呪いを凝視する
「呪いってなんなんですか?」
「えっと、呪いって言うのは簡単に言うと文字の力ね。」
「文字の力?」
「そう。遼牙君の上着に描かれているようなのは、纏めて一つの形にしてるから分かり辛いと思うけど、呪いは基本的に様々な文字の羅列によって出来ているの。」
「へぇ、遼牙のあれって文字だったんだ」
セリスの言葉を聞いた瀬奈が、遼牙の上着に描かれている呪いを一瞥する
「呪い師によって使う文字は様々で、その文字の並び方や色や大きさなどで様々な効果を与えることができるのよ」
「それじゃあ、文字の並び順や形を覚えれば、私たちでも呪いは使えるんですか?」
「それは無理ね。最初に言ったように呪いっていうのは文字の力のことを言うの。呪い師っていうのは、その文字や並び順を覚えた人の事を言うんじゃなくて、文字に力を持った発現者のことを指すの。たしか聖痕刻み(ホーリースペル)っていう能力だったかな」
「呪い師って発現者の一種ってことですか」
「そういうことよ。まぁ個体数がかなり少ないことから希少能力に部類さ
れる能力の一つなんだけどね」
「そうなんですか」
「ちなみに俺のこれは力の消費の軽減と不浄化と硬化が付いてる」
遼牙はその小さな親指をぐっと立てる
「三つもついてるの!?遼牙君のお友達今度紹介してくれないかしら!?」
セリスが遼牙に掴みかかるように懇願する
「多分―っていうか絶対に無理ですね。あいつ家から絶対に出ませんから」
「じゃあ私が会いに行くわ」
「それも無理ですね」
「何故よ」
少し不機嫌そうに言う
「だってあいつが住んでるところ地上ですから」
「「「「「は?」」」」」
今話していたセリスはもちろん、話に参加していなかった四人も驚きの声をあげる
「それって本当?」
「はい、本当です。昔の日本辺りに住んでるから、ちょうど産業の都市『ブロガニル』の上辺りですね」
「え……でもエクシオンが」
「ああ、家に馬鹿でかい魔除けの呪いが掛けられてるから平気らしい」
「……お前も大概だが、お前の友達も規格外だな」
「あいつがぶっ飛んでるだけですよ。ちゃんと普通の友達もいますよ」
「あ、だからいつもあんな派手に能力使っても疲労しないんだ」
瀬奈はポンっと手を叩き、納得したような顔をする。
「それじゃあ私はこの後やることがあるからこの辺で失礼するわね」
「そうっすか。今日はありがとうございました」
「それじゃあまた連絡寄こせよ」
「はいはい、分かってるわよ」
床に置いていたバックを拾い上げセリスは病室を出ていこうとするが、扉の前で突然歯車の外れた機械のように停止し、何かを思い出したようにグルリと180°方向転換すると、遼牙の方に歩みより一枚の紙を渡す。
「忘れてたわ。これ私の店兼研究所の住所と連絡先ね」
「なんでこれを俺に?」
「なんとなくよ。私の勘がそういってるのよ。遼牙君に必要だってね」
セリスはにっこりと笑いかけ、今度こそ病室を後にする
セリスの帰宅後、治療代(傷を治したのは遼牙の能力で、UR抗体の再生はセリスの薬で行ったためかなりの安値)や入院費などの振り込みの手続きして、遼牙は無事退院を果たした。普通は様子見のために最低でも二三日は入院するので、退院は出来ないはずだったのだが、その辺は泰月が交渉してくれ、定期的に検査を受けることを条件になんとか退院を押し通した。そして全くの余談だが、この病院では三途の川を半分程渡った重体の患者が、一日で何事もなかったかのように退院していったという逸話が流れ、それを聞いて希望を取り戻し回復に向かう患者が増えたとか………
「それでこれからどこ行くんですか?」
泰月の白いバンの後部座席の真ん中に座っている遼牙が聞く。退院の手続きを済ませた後、病院にいても特にすることがない上に、泰月が未だにこちらを監視している輩の視線がウザったいとのことで早々に車を発進させたのだが、どうも事務所の方向とは違う向きに進んでいることに遼牙が気付いたのだ。
「北区の繁華街だ」
その問いに泰月は前を見据えたまま答える
「北区っすか。なんか必要なものでもあるんですか?」
「ああ。まぁ実際必要なのは俺じゃなくてお前なんだけどな」
「へ?俺っすか?」
遼牙は予想外の返答に間の抜けた声をあげる
「そ。今の身長じゃ着れる服ないだろ?それに性別も変わっちまったんだから、他にも色々と必要な物があんだろ?」
「あ、そっか。今俺は女だったな」
遼牙は本当に忘れていたような口ぶりで言う
「忘れんなよ!お前それ逆にすげえよ!」
助手席に座っていた洸太が振り返ってつっこむ。
「最初は違和感だらけで気持ち悪かったですけど、もう慣れたので特に気にならないですよ」
「お前の適応力は凄まじいな……」
「どーも。――っていうか皆はいいのか?俺の買い物に付き合って。なんか用事とかあったりしないのか?」
遼牙は手を頭の後ろで組みシートに寄り掛かるが、その事に気づき再び体を起こす
「私は全然平気ですよ。それに遼牙君だけだと色々と困ることもあるでしょ?」
「まぁ……それもそうだな」
―っていうか俺一人じゃ今日の買い物無理じゃね?
「今頃気づいたの?まぁ私も特にすることもないし全然構わないよ。寧ろこの買い物に付き合った方が面白そうだしね」
瀬奈はそういいながらにっこりと遼牙に笑いかけるが、遼牙はジト目で瀬奈を見かえす
―こいつぜってぇなんか企んでやがる
「まぁ俺も今日は「悪いな。それじゃあ今日色々と頼む」おい!あからさまに台詞被らせるなよ!」
「洸太さんどうせ暇なんでしょ?だから聞く必要なんてないじゃないですか」
「うっ……まぁそうだが」
「だったらいいじゃないですか。それと、うるさいんで車内で大声出さないで下さい」
「……畜生、これでも俺だって忙しいんだぞ」
洸太は遼牙に見事言い負かされ、拗ねたようにブツブツ言いながら前を向き直る
「はぁ……洸太。もう少し頑張れよ」
泰月は呆れたように溜め息をつきながら、ポケットからいつもの銘柄の煙草の箱を取り出
し、その中から一本出して咥える
「遼牙、火ぃくれ」
「へーい。」
遼牙は気の抜けた返事と共にパチンッと指を鳴らす。その指の音と同時にボンッと小さな爆発音が鳴り、泰月の咥えた煙草の先端に火が灯る
「サンキュ」
「全く。俺はライターじゃないんですよ」
「わりぃわりぃ。ライターさっきガス切れちまってな」
泰月は紫煙を吐きだしながら簡単に謝る
「ねぇ遼牙」
「ん?どうした瀬奈」
瀬奈が真剣な顔をして遼牙を呼ぶ。
―……こいつがこの顔してまともな事言った試しがねぇんだよな。
「その喋り方やっぱり変だよ。なんか今の遼牙の容姿と合ってない」
「………つーことはなんだ?俺に女口調で話せってか?」
「そう」
「ざけんなよ。俺は男なんだよ」
「中身だけはね。外見は可愛い女の子だよ。それにこれは遼牙のためを思って言ってるんだよ」
「俺のため?どういうことだ?」
「ただでさえ人目を引く可愛い容姿してる上に、口調のギャップが加わったら更に目立っちゃうってこと。遼牙そういうの嫌でしょ?」
「まぁ確かに目立つのは嫌だな」
「それじゃあ「断る」なんで!?目立つの嫌なんでしょ?」
「ああ。確かに目立つのは嫌だけど、女言葉でしゃべるよりはマシだ」
「ちぇ、遼牙のケチ」
瀬奈は口を尖らせて文句を言いそっぽ向いてしまう
「そういえば遼牙君。ずっと聞こうと思ってたんですけど、あの日なんで泰月さんが危ないってわかったんですか?」
「む、その件は俺も気になっていたことだ」
シャイナの問いに運転席の泰月も反応を示す。
「あーそのことか。シャイナはあの箱の中身、見たよな?」
「え?はっはい……でもただの水晶玉にしか見えませんでしたけど」
「そう。だけどただの水晶玉じゃない」
「どういう事ですか?」
「あれは指定された空間に入ったら強制的に指定された場所に転送させられる効果が付いてる水晶玉。昔どっかの馬鹿どもが大量生産して、大分お世話になったからよく覚えてるんだ」
「え?じゃあ、もし私たちが地下室についてたら」
「ああ、どっか知らんとこに飛ばされてただろうな」
遼牙が笑いながら答える。
「あ、そういえば泰月。外出書あるの?今の遼牙なら大丈夫かもしれないけど、洸太は流石に引っ掛かるでしょ?」
瀬奈の言う外出書というのは、エスポワールの南区に隔離されている要注意人物たちが、別の都市、区に移動する時に必要となる証書のことである。これがないと検問に引っかかって移動が出来ないのだ。発行は中央の時計塔の窓口から自由に出来るが、実際に発行されることは殆どない。
「大丈夫だ。洸太のはもう取ってある」
「え?そうなの?」
「ああ、一応な」
そう言って泰月は一枚の紙を取り出す
「……そうだな―っと、おいお前ら、そろそろ転移ポイントに着くからしっかりとシートベルトしとけよ」
「「はい(うぃーす)」」
転移ポイント。このエスポワールは区画ごとに分厚い金属の壁によって完全に隔離されていて、その壁には入口はどこにも存在しない。そのため他の区画に移動する際には各区に五つずつ設置された転移ポイントに行く必要があるのだ。何故そんな方法を採用したかというと、理由はいくつかあるのだが、分厚い金属の壁にゲートを作るのよりも転移ポイントを作った方が費用が安価だったとか、科学の都市「ヴィガール」との親和を深めるためとかといった、上の都合によるものだ。
「見えてきたぞ」
数メートル先に巨大なドーム状の真っ白な建物が、フロントガラス越しに見受けられた。そのドームは大型トラックが横に二台入れる程の大きさの入り口が三つあり、それぞれの入り口から各区に転送できるようになっている。
「さて、行くぞ」
泰月はバンの速度を落として入口の検問所で一度止まる
「陣内洸太、外出書確認。通っていいぞ」
ドーム内に入ると外と変わらないぐらい明るく五つの分かれ道になっており、路面にはそれぞれの転移ポイント先が書かれていた。その内の一つの道を選択して進むとすぐに、緑の球体の嵌った金属柱が一本立っており、それにぶつかるか否かというところで車は真っ白な光に包まれて……消えた。
遼牙達が再び色の付いた世界に戻った時にはすでに、北区の繁華街前の転移ポイントにいた。
「さて、近くにどっか車停められるとこねぇかな」
泰月は瞳の色を金色に変え能力を展開し、この辺りの地形を索敵し始める。
「俺北区来るの初めてなんだよな」
助手席に座っていた洸太が窓の外の景色を眺めながら呟く。
「洸太さんここ来たことないんですか?」
「ああ。俺ここ来てから南区と西区しか行ったことねぇんだよ」
「ここに来てから?洸太さんってどこ出身なんですか?」
遼牙の隣のシャイナが首を傾げる
「あ?シルフィード出身だって言ってなかったけ?」
「シルフィード!?洸太さんって王都出身だったんですか!?」
「洸太さん、嘘も休み休み言ってくださいよ」
驚くシャイナとは対照的に溜め息をつきながら、呆れたように言う。
「嘘なんかついてねえよ!!なぁ泰月!こいつに言ってやってくれよ!」
「あー、まぁ一応本当だ。」
泰月は運転に集中しながら適当に受け答えをする
「本当なんですか?」
「ああ。まぁ王都っていっても正直大して良いところじゃねぇぞ。俺にしてみれば寧ろこ
この方がずっと良い所だ」
「泰月も洸太と同じように王都出身なの?」
さっきから黙っていた瀬奈が口を開く
「まぁ一応な」
「泰月さんと洸太さんってその頃からの付き合いなんですか?」
「ああ。実に迷惑なことにな」
泰月は心底嫌そうな顔をして、窓の外を遠い目で見つめる。
「泰月!?そのもの言い酷くない!?」
「気のせいだ。それよりもそろそろ着くから荷物の整理しとけよ。」
そういうと泰月は少し小さいパーキングエリアに入っていく
「すげぇ人だな」
初めて来る北区の繁華街に感嘆の声をあげる洸太。今遼牙たちは北区の第三ブロック前にいるのだが、遠目から見ても人で一杯であることがよく分かる程、繁華街は賑わっていた。
「そうか?第三ブロックはまだ人通り少ない方だぞ。」
泰月は煙草をふかしながら上の空で答える。この北区は扇形状の地形を四等分するように分割されている。しかし分割されていると言っても、このエスポワールのように確固たる障壁があるわけではなく、それぞれのブロック間に一本の道が通っているだけで、完全なものではない。各ブロック毎に売られているのものが異なり、第三ブロックは生活必需品や衣類などの物を多く取り扱っている。各ブロックの形状はすべて同じで、入口は正面と
左右のゲートのみとなっている。
「へぇ。こんなに人見ると、城下町の市場を思い出すなぁ……あの肉屋の馬鹿店主生きてっかな」
洸太がうんうんと頷きながらしみじみと昔を思い出すようにぼやく
「おい洸太。感傷に浸ってるのもいいが、さっさと行くぞ」
「へぇーい」
すでに歩き始めていた泰月たちに声をかけられ、洸太は頭の後ろで手を組みながら答え、ゆっくりとした足取りで後を追いかける。一行は先頭に泰月、二列目に遼牙とシャイナ、三列目に瀬奈と洸太という並びで繁華街を歩き進める。
「泰月さん、これからどこ行くんですか?」
「さぁ?俺は指定された店を探すことは出来るが、どれがいいのかさっぱり分からん。つー訳でシャイナや瀬奈に聞いてくれ」
「……泰月さん、貴方はどこに向かって歩いてたんですか?」
遼牙は苦笑いでどこか抜けている上司に問い掛ける。
「んー、奥?」
紫煙を吐きだしながら真顔で答える泰月。そんな返答に遼牙は苦笑いする。そして遼牙はシャイナと瀬奈の二人に店のことを聞くと、いくつかの店名があがったため、その中から泰月の能力によって、近くにあり尚且つあまり混んでいない店を選び、そこに向かい歩き始めた。
千里眼というのは感覚霧散の視覚霧散における集大成と言われる能力の俗称であり、正式な能力の名称ではない。感覚霧散は感覚奪取などの同系統の能力の中で貴重な能力として扱われている。その理由として射程の長さと有効範囲の広さがあげられる。他の能力の多くは、持続に意識領域を割く必要が殆どないということと、一度発動してしまえばかなり遠くまで効果を持続させることができるという長所を持つ反面、その発動するまでの射程が短く、一定の距離まで近づかなければならないものや直接触らなければ発動しないという短所も持っていた。一方感覚霧散は、同系統の能力だけではなく、ESP 系の中でもトップクラスの射程の長さを有していた。さらに射程が長いため一度能力を解除しても、すぐに能力を展開することができるというのも大きな長所である。そんな感覚霧散にも短所があり、他の能力と違って五感の一つしか霧散させることが出来ないため、能力の応用があまり効かないという点だ。更に、感覚霧散は自分の感覚の一つを射程内の空間に霧散させることにより、有効範囲の情報を得ることができるというものなので、射程が広くなればなるほど霧散させた感覚から入ってくる情報量が増えてしまうという欠点もある。入ってくる情報量が増えればそれを処理する脳の負担も大きくなる。そのため感覚霧散の発現者は、能力が上がっていくに連れて、脳が処理しきれなくなり死に至ることがある。―まぁそんな馬鹿な例はかなり少ないのだが。―しかしそれは、能力を展開する範囲を限定するなどでいくらでも改善できてしまうため、四六時中能力を展開し続けることも可能だ。そんな泰月も四六時中とは言わないが、自分の周りに常時能力を展開していることが多く、なにか揉め事があった場合はそこを迂回したり、渋滞している道を避けたりなど、非常に有効活用している。このことか分かるように千里眼は非常に利便性に富んだ能力なのだ。であるからして、二つ名に千里眼を冠する泰月といれば、揉め事に巻き込まれるなんてことはないはずなのだ。
「よぉ、こんなところで会うなんて奇遇じゃねぇかよ。」
しかし現状から見る限り、これは確実に揉め事に巻き込まれているであろう。しかも、かなり面倒くさい類の奴らに。遼牙は小さく溜め息をつく
「へぇ、爆弾魔の光崎が死んだってのは本当みてぇだな」
一人のサングラスをかけた男が歩み寄ってくるが、泰月を除いた三人は、今サングラスの男が言った言葉に三者三様の反応を見せた。遼牙は「は?こいつら何言ってんだ?」とでも言いたそうな顔をし、瀬奈は泰月の顔を見て苦笑いし、シャイナは男の言葉に首を傾げている。
「泰月さん、ちょっと聞きたいことがあるんですけど」
「なんだ、昼食のことか?それなら安心しろ。安くて美味い店があるんだ。」
「いや、そうじゃなくてですね」
「じゃあなんだ?」
泰月は首を傾げる。金色の瞳を輝かせながら
「まず最初に、なんで千里眼が発動しているのに、この類の輩にからまれたんですか?」
「ああ、そういうことか。ただ単に見逃し……それは俺が視ることは出来ても、そいつらが何を考えてるのか分からないからだ」
「今見逃してたって言いかけませんでしたか?」
「気のせいだ。」
泰月はポーカーフェイスを欠片も崩さないまま言い切る
「……それじゃあ、奴らが言ってた「光崎遼牙」が死んだっていうのはどういう事なんですか?」
諦めて話を変えた遼牙の隣でシャイナも頷く。
「俺が勝手にそう言いふらしたからだ」
泰月はさして当然のように言いきる
「なに勝手に死んだことにしてるんですか!?」
「まぁいじゃないか。俺としてはこいつらみたいな「光崎遼牙が死んだ今ならあの忌々しい事務所を潰すことができるかもしれない」って勘違いしている馬鹿どもを掃除する、いいきっかけだし」
「ちょっと待って。その話じゃ、遼牙は倒せないけど、私や洸太は倒せるって思ってるってこと?」
瀬奈がかなり不機嫌そうに口を尖らす。
「恐らくそうだな。まぁ大きな勘違いだが」
「おい!!いつまでも話してんじゃねぇよ!!」
男の一人は鉄製の警棒を腰から引き抜き、一番前にいた泰月……ではなくその後ろの遼牙
を目掛けて振り降ろす。
「なんで俺なんだ?」
遼牙はそれを体を横に切るだけでかわす。
「四人の中で一番弱そうだったからだって」
瀬奈が能力を使い、敵の考えを「弱そう」というところを強調して遼牙に伝えると同時に、警棒を振り降ろした男の顔面を思いっきり殴る。
「ヘブッ!!」
男は倒れ白眼を剥いて意識を失う。
「そう、私や泰月やシャイナは自分たちだけで倒せるけど、洸太は倒す自信がないから、洸太のいないところで事務所の誰かを拐って人質にしよう、ていうのが今回の作戦な訳?」
「っ!何で俺らの考えが!」
今いる場所は、各ブロックを区切る道の一画である。遼牙が瀬奈とシャイナの着せ替え人形状態から解放され、必要なものをある程度揃えたところで、昼食をとるために隣のブロックに移動していた。その途中洸太の携帯が鳴り、洸太が一旦離れたところで、タイミングを図ったように二人の男が声をかけてきたのだ。
「さーて、なんででしょう?」
瀬奈は自分を倒せると勘違いした二人に対して、豪く不満があるようで、小馬鹿にするような口調で言う。
「てめぇ、このアマ!!」
サングラスの男が瀬奈に殴りかかっていくが、ひらりとかわされ拳は空を切る。
「残念はっずれ~♪」
「このやろっ!」
続けて左ストレート、右ハイキック、左後ろ回し蹴りと立て続けに攻撃を繰り出すが、瀬奈はそれを舞うように紙一重で攻撃をかわす
「畜生!なんで当たらねぇんだよ!!」
サングラスの男は完全に頭に血がのぼり、攻撃が単調なものになる
「お前の攻撃は一生かかっても私に当てることは出来ないよ」
瀬奈が攻撃をかわしながら涼しい顔で言い、鞘に収めたままの日本刀で男の腹部を突く
「カハッ!」
男は腹部を押さえながら、膝を着いてうずくまる。
「終わりね」
ガンッ!
鞘の先端でサングラスの男の頭を思いっきり叩くと、男は赤い液体を噴き出しながら動か
なくなる。
「全く、失礼しちゃうよね。私がこんな奴らに負ける訳ないじゃない」
瀬奈は腕を組んで子供っぽく頬を膨らませる
「まぁいいじゃねえかよ」
「遼牙は気にしないの?自分が一番弱そうって思われて」
「別に。この容姿ならそう思われても仕方ねえだろ」
「何それ?なんでそう割り切れるの?」
「なんでって言われてもな……」
「じゃあ泰月は?泰月はなんとも思わないの?」
「俺は自分でも戦闘員じゃないって思ってるからな。」
「むー!シャイナは!?」
「えっ!?わっ私も泰月さんと同じで戦闘員ではないので」
「なんで皆そうなのよ!?」
数分後帰ってきた洸太を殴るまで瀬奈はご機嫌斜めだった




