第六話 歪んだ世界
朝の光が、窓から差し込む。
トシノリは目を覚ます。
胸の奥に、昨夜の水晶玉の感触が残っている。
ルルを守った――その感覚。
だが、何かが違った。
靴を履こうとして気づく。
片方の靴がない。
「……え?」
部屋を見回す。
置いてあったはずの小物が、微妙に位置を変えている。
机の上のメモも、昨日書いた文字と少し違う。
「……水晶玉のせいか」
胸騒ぎがする。
ルルは無事だった。
でも――何かを失った。
スマホを手に取る。
画面に、知らないメッセージ。
「昨日、あなたと会った?」
知らない相手。
だが、妙に現実感がある。
違和感が、じわじわと広がっていく。
外に出る。
街も、どこか違う。
見慣れた信号の位置。
看板の文字。
空気の温度。
すべてが、ほんの少しだけズレている。
「……世界が、歪んでる」
歩くたびに感じる、視線。
でも誰も気づかない。
――自分だけが、気づいている。
「トシノリ、気づいた?」
振り返る。
ルルがいる。
でも――遠い。
「ルル……?」
声は届く。
だが、距離がある。
存在そのものが、少しだけ離れているような違和感。
「私も、何かがおかしいの……」
トシノリは拳を握る。
「守ったんだよ、俺が」
その言葉に、ルルの視線が揺れる。
「でも……代償はある」
胸の奥に、痛み。
あの時の選択。
水晶玉の力。
世界を変えた代償が、確かにここにある。
「まだ……何かが欠けてる」
呟く。
だが、止まらない。
「ルル、俺は――」
その瞬間。
背後に気配。
黒いスーツの影。
観測者。
「世界線の干渉は、制御不能になる可能性があります」
冷たい声。
トシノリは前に出る。
「……俺がやったんだ」
水晶玉を握る。
光が、わずかに揺れる。
「なら、最後までやる」
静かに言う。
「失ったものを取り戻すか――」
一拍。
「それでも進むか」
世界が、わずかに軋んだ。




