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猫神にされた日

学校の七不思議というものがある。

理科室の人体模型が動いたり、音楽室のベートーベンと目があったり、ここら辺は定番だろう。

俺の高校にも七不思議があって、大体はさっき挙げたようなありきたりなものばかり。

ただ、一つだけおかしなやつがある。

それは「12月末に旧校舎の4階へ行くと大量の猫に会える」というもの。七不思議は怖い話として扱われるイメージだったので、俺は初めて聞いたときこんな平和な七不思議があるのかと困惑した。


「ついたぞ奏。ここが旧校舎だ」


今はまさにその12月末。俺こと島津奏とその友人である川上雄一はその七不思議の真偽を確かめるため、高校の旧校舎に訪れたのだった。


「ほんとは人体模型とか怖いやつを確かめに行きたかったんだけどな」

雄一がニヤつきながら言う。

実際雄一が最初に「七不思議を確かめに行こうぜ!」と自分を誘ってきた時は人体模型やベートーベン等ちゃんと怖い七不思議を見に行こうと提案してきた。

大の怖がりである俺はなんとか断ろうとしたが、雄一の押しに負けてしまい、まあ猫のやつなら怖くなさそうだしいいよと了承したのである。


了承したのが大体2か月前の10月くらいの話。当時は仮にうわさが本当でもたくさんの猫がいるだけだから怖いことは何もないだろうと思っていたが、いざ当日になって夜の学校に来てみると、あの日の落ち着きはどこへやら。なんだか怖くなってきた。

さっさと終わらせて帰ろう。雄一の挑発じみた発言を無視して俺は旧校舎の入り口のドアに手をかける。

「開かない」

旧校舎の正面入り口は施錠されていて開かなかった。

旧校舎は数十年前に新校舎が出来てからは使用されていなく、さらに新校舎からは少し遠いところにある。

よく考えたら入口に鍵がかかっていることなんて当然であった。

「やっぱ鍵かかってるか。仕方ない。頑張って入れそうなところを探そうぜ」

俺は一瞬雄一が「仕方ない。もう帰るしかないか」と言ってくれることを期待したが、現実はそう甘くない。大人しく言うことを聞いて鍵が開いている窓がないか旧校舎を一周してみることにする。

そう思って一個一個校舎の窓を確認しながら歩く。

半周くらいに差し掛かってもまだ空いている所はなかった。

窓を割って入ろうかとも思ったが、流石にそれはまずいよな。

そんなことを考えていると、後ろから雄一の声がした。

「おーい!開いてるところあったぞー!」

そう言いながらこっちに大きく手を振っている。

それはよかったと思って確認するとそれは自分が閉まっているのを確かめた区画の窓だった。

ちょうど確認作業に慣れてきてだんだん雑になってきたあたりだから、開いてるのを見落としてしまっていたのかな。

そう思ったので特に疑問を持たないまま窓をくぐりぬけて旧校舎に入る。

旧校舎内はコンクリート打ち付けの新校舎とは対照的に木造だった。

「アニメとかに出て来そうな模範的旧校舎だな」

雄一が言う。俺も同じ感想だ。

「じゃあ4階に向かうか」

雄一に促されるまま4階へと向かっていく。階段は常にギシギシと音を立てているが、足場はびくともしていなく案外しっかりしている。

その後も特にアクシデントはなくあっさり4階にたどり着くことが出来た。

「うーん。猫いないな!」

雄一は元気に言う。

俺は旧校舎を歩くというだけで恐怖が限界まで来ていたので踵を返してさっさと帰ろうとする。

その時。ちりん、と鈴の音が聞こえた気がした。

気のせいかと思うほど小さな音だったが、雄一が音の下方向を凝視していることから恐らく聞き間違いではないのだろう。

「奏にも聞こえたよな」

俺は首を縦に振る。

「よし。この廊下の奥まで行ってみよう。それでなにもなかったら帰るからさ。ついてきてくれよ」

不思議とさっきのような恐怖は感じなかった。恐怖メーターが一周したのだろうか。俺は再び首を縦に振っていた。

「決まりだ。じゃあ行くぞ」

雄一はゆっくりと歩みを進める。俺もその少し後ろを歩いていた。一歩足を前に出した瞬間にさっきの恐怖がよみがえってくる。雄一の提案を了承したことをもう後悔し始めてきた。

階段前から廊下のつき当たりのちょうど真ん中くらいまで来たが、未だに何もない。俺の理性は少しずつ安堵の感情を強めていく。

そしてつき当たりまで到達したが、いよいよ何も起きなかった。

「なにもいないかー。仕方ない。帰るか」

雄一も諦めてくれたようだ。

九割安堵、一割落胆といった気持ちで振り返る。


人が立っていた


「うわー!」

俺は裏返った声で叫びながらしりもちをつく。

雄一も驚いているが、どちらかというと俺の声にびっくりしているようだった。

再び後ろに立っていた人物を恐怖で歪んだ視界で必死に捕えようとする。

まず女の子であった。高校一年生である俺たちと同い年、あるいはほんの少し若いくらいの年齢に見える。髪の毛は雪のように真っ白だった。

それ以外の要素は全て異質であった。

まず、神社でお正月に働いている女の人のような恰好をしている。服の名前は自分はよく知らない。

次に、頭頂部に白い猫の耳が生えていた。時折ぴこぴこ動いている。とてもコスプレで使うようなつけ耳には見えなかった。

また、後ろに尻尾のようなものが、二本プラプラしていることに気づく。色は髪や耳と同じ白。

最後に、首のあたりに鈴のようなものがついていることに気が付く。さっき聞こえた鈴の音はこの鈴によるものだったのだろうか。

「こんにちは。人間さん」

また恐怖が一周したのだろうか。だんだん頭の中や視界がすっきりしてきた。横で口を開けている雄一に小さな声で耳打ちする。

「どうしよう。こいつ普通に喋るみたいだぞ」

「なんでお前そんな余裕なんだよ。さっきまでめっちゃびびってたじゃねえか」

恐怖からだろうか。雄一が声を荒らげる。

「もしもーし。こんにちはって言ってるんだけどー」

また喋りかけてきた。幽霊系の怖い話だと大体こういうのに応答したら呪われたりぶっ殺されたりするのがセオリーである。

どうしたものか。

悩んでいると、雄一が口を開いた。

「あなたは人...?ですか?」

もう恐怖で訳が分からなくなっているんだ。訳が分からない質問をしている。

「いや、違うよ。私は神様。それも400年ぶりに復活したね」

なんと、俺も恐怖で訳が分からなくなっているようだ。神様?400年ぶりに復活?

ぐるぐるする俺を他所に二人(一人と一匹?)は話を進める。

雄一が再び口を開いた。

「400年ぶりに復活したということは、封印なりなんなりされていたってことか?」

神様と名乗った女の子は答える。

「まあ、封印というか、自爆というか...」

ばつが悪そうに頬を搔きながら女の子は続ける。

「それに、正確に言うとまだ復活はしていないんだよね」

そのときだった。女の子の右の手のひらが光り始める。

「これからするんだ」

にこやかだった女の子の顔が急に険しくなる

「君が島津くんだね」

急に矛先が自分に向いた。恐怖がぶり返してきたから声が出せないので代わりに必死にうなずく。

「あはは。びびりすぎだよ。君の先祖も頭を抱えてるだろうね」

そういうと、女の子は光り輝く右手を俺のおでこにおしつけようとしてくる。

当たり前かもしれないが、嫌な予感がした。

なんとか避けようと身をよじるが、恐怖によるものか、それともこの女の子がなにかしたのか体が動かない。

抵抗虚しく女の子の手が俺のおでこに触れる。

その瞬間、急に体のあちこちで激痛が発生し始めた。

あまりの痛みに目をつむる。自分の体はどうなっているのだろうか。肩、喉、腰の少し上あたりが押し込まれる感覚が同時に襲い掛かってくる。

「おい、お前奏に何した!」

かすかに雄一が叫ぶ声が聞こえるが、だんだん遠くなっていく。

その時だった、胸のあたりが少しずつ前に引っ張られていく感覚があった。下を向いてみると自分の胸が女性のように膨らんできている。反射的に腕で抑え込もうとしたが、あまり意味はないようでどんどん腕に当たるものが柔らかくなりながら少しずつ体積を増していく。

「んっ」

このままではまずいと腕にかける力を強めてみると、急に胸をピリッとした感覚が襲う。それによって俺は一瞬腕の力を緩めてしまった。ここぞとばかりに胸の奥の方からなにかの塊のような感覚がじわじわせりあがってくる。胸のあたりに力を入れることで何とか抑え込もうとしたが、それもまた無駄な努力であった。

その感覚が胸の頭頂部まで達した瞬間、ボンッと大きな音がして胸が同い年の女の子より少し大きいくらいのサイズまで一気に膨らんだ。

体を襲う感覚が無くなった。変化が止まったのだろうか。

少し自分の体を確認してみると、まず手の平が明らかに小さくなっていることに気づく。

目に髪の毛がかかってくる。反射的に小さくなった手で振り払ったが、数秒遅れて違和感に気づく。俺の髪って目にかかるほど長かったか?いや、それ以上に、今払った髪の毛白くなかったか?

とっさに後ろ髪をつかんで前まで持ってくる。すると、耳にすらかからないほど短髪だったはずの黒髪が、肩くらいまで伸びる白髪になっていた。

もちろん髪の毛も気になるが、それ以上に体を動かすたびに先ほどのピリピリとした感覚を発し続ける胸のあたりが気になって仕方ない。ある程度どうなっているか予想できるので直視するのを避けていたが、観念して服をめくって見てみることにする。

そこにあったのは明らかに女性の胸であった。

自分の体が女性のものに変えられつつあるのは明らかだった。

そうすると、恐らくまだ変化は終わっていないのではないか?

なぜなら、男女の一番の違いであるあの部分がまだ

「大正解!最後の仕上げいくよ!」

心が読めるのか。そう聞く暇もなく、予想通り股間に急に激痛が走る。

股間の物が縮み始めていた。というか、股間の間に吸い込まれていくような感じがした。

胸の時のように抵抗する余裕もなく、ただ完全に股間の物が吸い込まれていくのを待つしかなかった。

少し経つと急に激痛が引く。完全に吸い込まれたのだろうか。痛みの消失で再び冷静になろうとしたその瞬間、お腹の下の方でさっきと同等以上の痛みがうごめき始める。なんの痛みなんだこれは。

お腹の下の方で一瞬にして謎の空間のようなものが出来上がるのが分かった。更にそこから再び股間のほうへ何かが伸びてくる感覚がある。

股間の物を失った今の俺の股間には文字通り一切何もない状態だ。つまり、この何かが伸びてくる感覚の正体は...

「やめてくれ!」

恐怖で出なかったはずの声が自然に出てくる。その声は女性特有の高い声だった。

「やめないよー。大人しく女の子になっちゃいなさい」

この何かが伸びてくる感覚はある程度抵抗が出来ているみたいだ。股間のあたりに力を入れてなんとか進行を食い止めていると、神様の女の子がゆっくりこっちに歩いてくるのが見えた。

「なにを、ひゃっ」

なにをするんだ。と言おうとしたがそれは叶わなかった。

突如両手で自分の膨らんだ胸をつかまれたのである。

「ごめんねー。あんまのんびりしてられないからさ」

それにより体の力が抜けてしまう。

伸びてくる感覚は急激に勢いを増していき、ついに股間まで到達してしまった。股間でなにかが開く感覚がした。

ここで終わりだと思ったが、お尻のあたりにふわふわした感覚が走る。少しずつ膨らんできているようだ。

その感覚はすぐに収まった。

「ずいぶんかわいくなったねえ」

元凶の女の子が近づいてくる。見回すと雄一の姿が無い。

「俺に何をしたんだ。それに雄一をどこにやった」

女の子は答える。

「ちょっとだけそこで寝ててもらってるよ」

女の子が指さした方向を見ると仰向けで雄一が転がっていた。

「さっきも言ったけどあんまり時間が無いんだよね。今私が何をしようとしてるのか、ざっくり説明しちゃおうかな」

俺は何を言えばよいか分からず、少し押し黙ってしまう。

「質問が無いなら続けるよ。単刀直入に言うと、私は島津くんに神様を変わってもらいたいんだよね」

俺は脳が限界を迎えつつある。

「私がなんの神様かっていうと、この見た目の通り猫の神様。そして私は今からあなたを猫の神様に変える」

今から?もう十分色々変えられたはずだろ。これ以上どこを...あ

「どこって...まだ生えてないでしょ?これ」

と言って女の子は耳と尻尾を見せつけるようにぴょこぴょこ動かす。やっぱりそういうことか。あとそういえばこいつ心読めるんだったな。

「じゃあ最後の仕上げを始めようかな。質問はある?」

やばい。何か聞いてとりあえず時間稼ぎをしなくては

「どうして俺なんだ?別に俺じゃなくて雄一だっていいだろ」

友達を売ろうとしてるみたいで我ながらひどい質問だな。

「いい質問だね。まあ大したことは答えられないんだけど、誰でも猫神に変えられるって訳じゃないんだよね」

そういえばこいつは島津って俺の名字をしょっちゅう確認してきてたな。

「結構勘が鋭いんだね。まあいいや。ぼちぼち始めようかな」

再び女の子の右手が光り始める。

まずい。正直今のまま逃げられたらただの女の子で通せるが、猫耳やら尻尾やらが生えてしまったら例え逃げ出せたとてもう町を歩くことが出来なくなってしまう。

「帽子やらで耳隠したりすれば町には出られるから心配しないでいいよ」

心を読むな!というかそれも帽子なきゃ外出れないってことじゃねえか!

「さっき時間稼ぎがどうとか言ってたし。島津くんの思い通りになるのは癪だからね。さっさとやっちゃおうかな」

そういうと女の子は右手を俺の額に再び押し付けた。

さっきは体中が痛かったが、今は痛みはない。その代わり何かが飛び出て来そうな異様な感覚が頭頂部とお尻の上あたりにそれぞれ生まれていた。数分くらいは抵抗して...

ぴょこっという音がして頭頂部から猫耳が飛び出てくる。

一瞬も抵抗することが出来なかった。

「あとは尻尾だけだねー」

お尻の上あたりの感覚がどんどん強くなってくる。

こっちは一瞬でやられた耳と違い少し抑えられている。

「耳出ちゃったらもう勝負ありなんだよね。いくよー。ほれほれー」

女の子は意味深なことをつぶやくと、次の瞬間たった今生えてきたばかりの自分の猫耳を乱暴にいじりはじめた。

「ひゃあああああ」

自分の喉から出たと信じたくないほどの甘い猫撫で声だった。

途端に体中の力が抜ける。

「耳結構効くよね。分かる分かる」

だめだ。もう力が入らない。尻尾が出てきてしまう。

「ひゃ、にゃあああああ」

物凄い快感と一緒ににゅーっと真っ白な尻尾がお尻の上あたりから生えてきた。

思わず猫のような声をあげてしまう。

「うん。完成だね!」

俺は快感の余韻と疲労感でだんだん視界が暗くなってくる。

「さすがに耐えられないかな。いいよ。いったんお休みなさい」

体からもだんだん力が抜けていき、俺は仰向けに倒れてしまう。

自分の胸がさっき生まれた膨らみによって圧迫されるのを感じながら、俺は意識を手放したのだった。

ちょっと変身シーンに力を入れすぎてしまって、体感半分くらいそれになっちゃった気がします。

これからもどうぞよろしく。

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