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8-2・加速装置、というか加速魔法

 クルミがこつこつ10倍速でリモート授業を見ながら、ものすごい勢いで手を動かしているのを、おれはぼーっと眺めていた。


 この調子なら次の連休までに1年生の勉強を、夏休みまでに高校生で学ばなければならないことをすべて学び終えてしまうことだろう。


「どうしました? わたしの顔になにかついていますか」と、クルミは顔についているお菓子の切片をさわりながら聞いたので、なにかついているのはわかってるんだな。


「あー、これは加速装置ですよ?」


 なるほど、SF系の漫画とか小説に出てくるようなやつね。


 異世界ものだと倍速能力、みたいなものか。


 倍速でなにかを視聴したとしても、ヒトは倍速でノート・メモを取れたりはしない。


 だから倍速視聴は、ゆっくり動画とか記者会見のように、学習とは関係ない「情報入手」のためには使えるけど、ちゃんと理解・学習するためには、本当は倍速で2回、リモート授業を受けてノートを取る必要があるんだけど、それなら等速で1回でもいいんだよな。


 加速装置、もしくは倍速能力がないと倍速でヒトは動けないんだから。


 しかしクルミは、いつも顔とか手に食べ物の切片をつけている子だと思ってたら、違ってたんだな。


 ヒトでも同じようにできるの、と聞いてみたら、安い魔法なので簡単ですよ、と言ってクルミは右手の親指でおれの左手に、◯の中の五芒星を描いた。


「このデバイスを右に回せば加速、左に回せば減速になります。ただ、これを使いすぎると普通のヒトにはまずいことがありまして」


「お腹がすいちゃうんだろ、わかってる」


「違います! それもありますけど……年を取っちゃうんですよ!」


 確かに、ずっと倍速で生きてると普通のヒトの倍の早さで年を取ることになるな。


 わたしたちは、なんというか、物語の中のヒト? みたいなもので、リアル世界のヒトとは時間の流れが違うんですよ、というのがクルミの説明だった。


 クルミによると、わたしはさまざまな物語に出ていて、どれもこれもエタってますけど、もっとも古いものでも10年ぐらい前のもの、らしい。


「確かに、幼少時の記憶とかエピソードもありますけど、それらはすべて嘘っこなのです。子供から思春期男女に成長するまで十万字で書かれていても、それからさきのひと月が数十万字になってることはよくあることでして……あんまり真面目に聞かないでください!」


「いや……考えたら説明するのいつもクルミのほうなんだな、って思って。これだとおれが「それってどういう意味なんですか?」って聞く、名探偵の助手っぽくない?」


 なかなか春が終わらない物語の登場人物は、風景とか季節描写に苦労するんだろうな、と、おれは、緑の色が日々濃くなっているサクラの木を見ながら思った。


 あと10分で、今日の学習日程と、先生に対する質問の送信が終わるので待っていてくださいねー、というので、おれは左手の紋章というかデバイスをさわって、冷蔵庫からいつもの麦茶とアイスコーヒーを出してみたんだけど……コントロールが難しいんだよなー。


 数倍速で動くということは、ものをさわったり動かしたりするときには数分の1ぐらいの力加減でやらないといけないし、なんか体の節々が痛くなる。


 これは加速疲労ですねー、旦那、と、クルミはおれの肩を3倍速ぐらいの勢いで叩いてくれたけど、さすがに加減がわかっている子らしく、うまかった。


 そうこうしているうちに、ほかの場所で勉強していたおれたちの仲間の茶道 探偵部(仮)のメンバーが戻ってきた。


 なんか疲れているミロクとミドリ、それになんか汚れているワタル、そしてあとから来たミナセは、なんかあやかしっぽい感じの子を連れて来ていた。


     *


「生徒会メンバーのアヤコです」と自己紹介したその子は、シャツブラウスの上に黄色と黒の格子縞のちゃんちゃんこみたいなものを着ていて、片目をうす紫色の前髪で隠している以外は、あやかしの要素は特にない、中型中背のまとまりのいい体型をした女子だった。


 ちゃんと首には黄色いリボンタイをしてるし、うちの学校の紋章も上着につけていたんだけど、あなたはあやかしですね、とクルミが言うと、アヤコの前髪が、ぴく、と上向きに立った。


「あなたたちは……妖怪?」


 いやだなあ、ただの普通の新入生ですよ? とクルミは答えたけど、答の中にある「?」をアヤコは聞き逃さなかったらしい。


「みなさんに、町内会の町おこしイベントに参加していただきたいと思いまして。というより、ほぼ生徒会長と校長の指示・命令っぽいので、そのまま伝えておきます」と、アヤコは言った。


「町おこし……なんかおいしそうな名前ですが、それはどんなものなんでしょう?」と、クルミは聞いた。


「参加者は地域の名産品である「五色豆」がひと袋ずつもらえることになっています」


 参加します、とクルミは即答したけど、内容もわからないうえに、クルミは部長じゃないだろ、とおれは心の中で思った。


 参加依頼イベントは、前夜の音楽祭で、当日はライブ、翌日は編集配信で全世界に流す予定とのことで、地域のあやかしとかも出演するんですよね、とクルミが聞くと、アヤコは、それは秘密です、と答えた。


 やはり出るらしい。

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