7-6・さらに深刻なチェスタトンごっこ
おかん女神は「つまらんことに攻撃魔法使ったらあかんよ」と、拡大鏡でアリを焼き殺して遊んでいる幼稚園児に言うようなことをおれたちに言い、クルミの攻撃用魔法の指輪を取りあげて、テスラ球によるクロサへの電圧攻撃その他を「なし」にした。
何事もなかったように、というか、攻撃魔法をくらったときと同じように、クロサはベートーヴェンの『クラヴィアータ』第一楽章を弾き終わると立ち上がってみんなに頭を下げてあいさつをした。
エキストラ聴衆のリアクションは拍手だったので、おれとクルミも同じようにしていたところを、クロサは目ざとく見つけて、やあ、と手を振り、椅子に引っ掛けておいた黒いコートを再び羽織り、両手におみやげの袋を持って大きめで平たい円柱の台から降りた。
「これ、きみたちにおみやげ」
クロサはひとつをクルミに部員用、もうひとつをおれに生徒会用、とひとつずつ渡した。
ここでおれたちに会うのを知っていたかのようだった。
いや、たぶん知ってたんだろうな。
おみやげの包装を見てみると、北海道でいちばんポピュラーなお菓子「白い恋人」じゃなくて……。
『腹黒い恋人』!
こういうのは商標登録的に問題にはならないんだろうか。
パッケージも全体に黒を基調にしたシックな感じで、帆船をイカ……クラーケンが襲っている冒涜的なものだった。
製造元は……アーカム製菓、そんなことだろうと思ったよ。
「やあ、クルミ姫とその愛人のウルフじゃないか、こんなところで出会えるとは思わなかったよ」と、クロセの相棒のクロキがやってきた。
片側にネコ用のペットキャリーをかつぎ、反対側にはキャスターつきの黒い大きいケースを引きずっている。
姫と呼ばれたクルミは照れてるけど、愛人あつかいされたおれはすこし納得がいかなかった。
おれとクルミの関係は、探偵とその助手だっちゅーの。
「迷子のネコが北海道まで行っちゃってさー、見つけるの大変だったんだ。ウィスキー醸造所やおみやげクッキー製造工場まで探して、結局競走馬がいる牧場の厩舎にいたんだけどね」
それはただの観光旅行なのでは。
ではまた近いうちに、とふたりは言い残して去って行った。
クロキが持っていたケースの中のネコは、自分が置かれている立場に気がついたらしく、ぎゃーぎゃーと鳴きはじめた。
*
おかん女神は、攻撃用指輪とその効果に関しては後始末をしてくれたけど、クルミの食欲は残しておいたらしい。
おれたちは、ハンバーグとカレーが売りらしいフードショップに入った。
真面目に捜索をしているミドリとミナセ、それにワタルとミロクのふた組は、どうやら到着ゲートでなんとか、聖剣のゆくえを知っているはずの生徒会委員・メイコを見つけることに成功したらしい。
おれの前には特盛りのハンバーグ定食をばくばく食べているクルミ、横にはコーヒーを飲んでいるミロク、斜め前にはモーニングサービスでウィンナーがついているウィンナー紅茶を飲み食いしているワタル。
「さて、ここに名探偵ならうってつけの謎がある」
ミロクたちは追尾をミドリたちにまかせて、この店でおれたちを待っていた、とのことだった。
4人の真ん中には金属製の、高さと直径が10センチほどの円柱缶があった。
上の部分はふたで、片方は穴があいており、もうひとつは簡単に開けられるようになっている。
開けられるほうを手に取ると、中には小さなスプーンと白い粒状のものが入っている。
おれは、スプーンでほんのすこし粒を手の上に乗せ、舐めてみた。
手を紙ナプキンでぬぐうと、つぎに穴のあいているほうを手に取り、さっさっ、と中身を手のひらに乗せて舐めた。
これは、スプーンのほうが「塩」で、穴のほうが「砂糖」だな。
どう思う、とミロクは聞いたので、おれは答えた。
「チェスタトンのブラウン神父、第一作と同じ……パクリじゃないですか!」
パクリかどうかは不明だけど、犯人がチェスタトンを読んでいるのは間違いない。




