7-4・空港のピアニスト
聖剣には大きく分けて3つの部位がある。
ロース、ヒレ、ロイン……とかじゃなくて、刀身・鍔・柄、それとは別に鞘があり、本当はもっと細かく分けられているけど省略しておく。
4神剣は4神旗に付属するもので、4つの神、白虎・青龍・朱雀・玄武の東西南北が、おれたちの学校ときょうだい校である4つと合致している。
鞘に関しては、適当な青っぽい布を巻いとけばなんとかなるから、と生徒会は言うので、それ以外の3つを見つけなければならない。
聖剣は、心が汚れている、つまりキモいヒトが長い間持っているとキモくなるため、なにも知らない1年生が新生徒会就任の儀式まで預かることになっていて、今年の担当はどこからどうみてもホビットのように清らかなメイコだったんだけど、本人と一緒に聖剣はどこかに行っちゃったのである。
前の事件で出てきた、メイコの友だちのコミネ……コミーは……そんな子いたっけ?
というのは嘘で、田舎のおばあちゃんの家に遊びに行っているため、北海道旅行をしていたメイコとは別行動なのだった。
異世界の姫だったクルミは、コミーが一番あやしいんじゃないですか、と言うし、おれもそう思うけど、ややこしくなるからそっち方面は置いといて。
空港の到着ロビーで見かけたネコ探偵であるクロキとクロサは、ふたり別々になって行動していた。
どうやらひとりが手荷物以外の荷物を受け取りに動いているようだ。
*
空港の吹き抜けのロビーの真ん中にはちょっとした円形の台があって、上には黒い大きな物体があり、グランドピアノの形をしている。
というか、いわゆる「街かどピアノ」で、誰でも弾いていいことになっているけど、「猫踏んじゃった」とかは多分許してもらえないやつ。
人気なのはジブリの曲とかXJAPANみたいな、誰でも知ってて楽しめる曲かな。
見つからないよう、おれとクルミが遠くのほうでクロサの動きを観察していると、両手のおみやげ袋を椅子の両脇に置き、黒いコートを脱いでぱしぱしとはたき、椅子に、ふぁさ、とひっかけ、黒いシャツを、さばさば、と腕まくりした。
あのヒト、ピアノなんか弾けたんだ、と思っていると……ものすごくうまい!
クラシックには全然くわしくないけど、うまいのだけはわかる。
ロビーを歩いていたヒトたちも、しだいに立ち止まって聞いている。
「これはベートーヴェンが、私の死後50年はまともに弾ける人間は出て来ないだろうと豪語した、ピアノソナタ第29番変ロ長調、『クラヴィアータ』第一楽章ですね!」と、クルミは言った。
なにその、「あれはジュラ紀に栄えた恐竜で、海底火山で眠っていたところを核実験によって目覚めた伝説の怪獣・ゴジラだ」みたいな過剰な説明。
確かに、いろいろベートーヴェンらしく、かっこよくて荘厳で、モーツァルトほどリラックスできないけど、リストほどには疲れない。
「わたしの物語の中でも、5人ぐらいは弾けるヒトがいたはずです。日本だと500人ぐらいはいるんじゃないかな」
なんで曖昧な言いかたになるの、と聞いてみたら、クラシックにくわしいエターナル作家がいても、異世界でベートーヴェンはないんじゃないの、ということで、だそうである。
確かに、異世界ピアニスト、という物語は、おれの読書経験の中でもしらない。
別に異世界にする必要ないからなー。
クロサはものすごく集中していたので、だいぶ集まっていた群衆の中にまぎれて、おれとクルミが近づいても気がつかれなかったけど……。
なにかおかしい。
クロサの演奏の手元を見ようと思うと、誰かの体が邪魔だったり、台がぐるぐる回ったり、おれたちが気がつくと演奏を聞いてるヒトたちの顔のほうを向いてたりする。
つまり、本当に演奏してるのか確信が持てないのだ。
「ふーむ……これは……」と、クルミは腕を組んで考えている。
「やっぱ邪悪な魔法?」
「じゃなくて……省エネ・低カロリーなアニメの演出です。やはりこのリアル世界も、嘘っぱちだらけな非リアルに侵略されつつある、ということでしょう」
確かに。
ところで、サクソフォンってあんたらの世界にもあるの、って聞いたら、あることはあるけど、演奏してるのは見たことがない、とクルミは言った。
雨もめったに降らないし、兵士たちも激しく動かないし、国王は座ったところをちらっと見せたあとは後ろ姿ばかり、まさに省エネ・低カロリーアニメである。
「とはいえ、演算処理で演出できる魔法もありますので……いっちょやって見せましょうか」
クルミが魔力を発揮してみせるのはひさびさな気がする。




