表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
86/91

6-17・名誉にかけて誓う

 そろそろ朝マックも終了になりそうな時間、ゴミ拾い大会には誰も来ていない河原で、おれたちはゴーレムのコミーとお別れの儀式をすることになった。


「えーと、宴も酣ではありますけど、そろそろ時間になりましたので、一次会は閉め、ということにさせていただきます」と、ミドリは言った。


 二次会もあったんか。


 なお、「酣」とは「真っ最中」という意味なので、ゴミ拾いの閉めにはあまりふさわしくないはずである。


 ミドリは、いつもの「なんでも収納・四次元ボックス」に手を突っ込んでがさごそとあさり、一枚のコインを取り出した。


「あああーっ! これは珍しい! 今までこんなの引き当てたことなかったよ、激レア」とミドリは、コインの両面をみなに見せたけど、ペルシャの王の下手くそな絵と、神殿の絵を見る限りでは、ありふれた銀貨にしか思えなかった。


「それでは、おふたりさん、こちらのほうへ」と、ミドリはコミーとゴーレムのコミーを川岸の、草が生えていない空き地に招いた。


 このコインを使って、ふたりの魂は結ばれるのである。


 ふたりのコミーは、コインの裏表のように似て……いや、コインの裏表ってそんなに似てないから、なんだろう、バドミントンのラケットのようによく似ていた。


 素人にはわからないだろうけど、ああいうラケットにも裏表はあるのだ。


 ミドリはコインの縁に、なにか呪文のようなものをつぶやきながら口づけると、コインは銀色のきらきらがよりはっきりと強くなった。


 親指で、ぱしん、と宙に飛ばし、ふたりの右手の甲に、片面ずつを押しつけると、赤い裏返しの文様が浮かび上がった。


「じゃあ、いまから自分が言うとおりに言うのよね。さようなら、短い間だったけど、ありがとう、ヒトもゴーレムも、命は永遠には続かないけれど、なるべくあなたのことは忘れないようにする、夜のカラオケ、楽しかった、みんなでやった朝のゴミ拾い、面白かった、ダッハウ強制収容所、苦しかった……」


「ちょちょちょ、ちょっと待てよ」と、コミーはあわてて止めた。


「それ全部言わねぇといけないのか? いろいろ恥ずかしすぎるんだけど」と、ゴーレムのコミーも言った。


「んー、本当は「チャージ!」だけでもいいんだけどね」


「面白くするためだけの嘘はだめです」と、クルミもマジになった。


「じゃ、これでどうかな、『エト・クォルム・パルス・マグナ・フィ』。ラテン語で『名誉にかけて誓う』」


 ふたりはうなずきあった。


「エト・クォルム」と、コミー。


「パルス」と、ふたり。


「マグナ・フィ」と、ゴミー。


 そしてふたりはハイタッチをした。


「あああ、あれ? 額ごっつんじゃなくていいの?」と、ミナセは聞いた。


「それは、単に面白くするための嘘で、本当はどこでも同じ箇所ならいいのよ。面白くするため「だけ」の嘘、じゃないからね」


 ハイタッチしたところに、きらきら度では本物以上の偽コインが生まれ、ころころと川のほうに落ちる。


 どうやら空き地はすこし傾斜しているようだった。


 そしてゴミーは土に……。


「なんかへん」


 黄色の作業服のコミーは、濃紺の作業服のゴミーと混ざり合って、濃緑色の作業服になった。


「あたしって、本者? 偽者?」


「もうそういうのはないのよね。使ったコインはゾロアスター教の分派であるズルワーン教の神、つまり時間の神であるズルワーンを讃えたもの。えー、サーサーン朝の初期にはぁ……おっとっと」


 説明の途中でミドリは銀貨を落として、落ちた銀貨はそのまま、ころころすとん、と偽物と同じように川に落ちた。


「拾うのよね、ウルフ!」


「いいじゃないかよもう、珍しいかもしれないけど、なんでおれが拾わないといけないんだよ」


「鎌倉時代の武士、青砥左衛門尉藤綱は、川に落ちた十文を莫大な金を使って川ざらいをして人足に拾わせ、落ちた金は捨て金だが、拾えば天下を回る金になる、と語った、と伝えられています」と、クルミは言う。


 だから拾って、ウルフ、だめかな。


 川ざらいはこっそり、ミドリがあとでバレないようにやればいいんじゃないの、と、珍しくミロクがおれをかばった。


 朝マックに間に合ったおれたちは、持ち帰りで川の流れを見ながら、あんなところに錆びた自転車があるねー、とか、記憶をうしなったヒトたちのように、土手の上で話しながら食べた。


「コミーはもっと、自信のある・なしの濃淡の度をやわらげないとダメだよ」と、おれは言いながら、相手の髪の毛に違和感を感じた。


 青い髪の中に、ひとすじだけ濃紺のメッシュがかかってる。


 これと、ワタルがかき集めて持っていく予定のひと握りの土が、ゴミーがかつていたという記憶のあかしになるんだろう。


 なおワタルによると、その土は特殊な経験をしているので、池の周りに撒けばいいものが生えてくるらしい。


     *


 次の日は、朝から雨だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ