6-17・名誉にかけて誓う
そろそろ朝マックも終了になりそうな時間、ゴミ拾い大会には誰も来ていない河原で、おれたちはゴーレムのコミーとお別れの儀式をすることになった。
「えーと、宴も酣ではありますけど、そろそろ時間になりましたので、一次会は閉め、ということにさせていただきます」と、ミドリは言った。
二次会もあったんか。
なお、「酣」とは「真っ最中」という意味なので、ゴミ拾いの閉めにはあまりふさわしくないはずである。
ミドリは、いつもの「なんでも収納・四次元ボックス」に手を突っ込んでがさごそとあさり、一枚のコインを取り出した。
「あああーっ! これは珍しい! 今までこんなの引き当てたことなかったよ、激レア」とミドリは、コインの両面をみなに見せたけど、ペルシャの王の下手くそな絵と、神殿の絵を見る限りでは、ありふれた銀貨にしか思えなかった。
「それでは、おふたりさん、こちらのほうへ」と、ミドリはコミーとゴーレムのコミーを川岸の、草が生えていない空き地に招いた。
このコインを使って、ふたりの魂は結ばれるのである。
ふたりのコミーは、コインの裏表のように似て……いや、コインの裏表ってそんなに似てないから、なんだろう、バドミントンのラケットのようによく似ていた。
素人にはわからないだろうけど、ああいうラケットにも裏表はあるのだ。
ミドリはコインの縁に、なにか呪文のようなものをつぶやきながら口づけると、コインは銀色のきらきらがよりはっきりと強くなった。
親指で、ぱしん、と宙に飛ばし、ふたりの右手の甲に、片面ずつを押しつけると、赤い裏返しの文様が浮かび上がった。
「じゃあ、いまから自分が言うとおりに言うのよね。さようなら、短い間だったけど、ありがとう、ヒトもゴーレムも、命は永遠には続かないけれど、なるべくあなたのことは忘れないようにする、夜のカラオケ、楽しかった、みんなでやった朝のゴミ拾い、面白かった、ダッハウ強制収容所、苦しかった……」
「ちょちょちょ、ちょっと待てよ」と、コミーはあわてて止めた。
「それ全部言わねぇといけないのか? いろいろ恥ずかしすぎるんだけど」と、ゴーレムのコミーも言った。
「んー、本当は「チャージ!」だけでもいいんだけどね」
「面白くするためだけの嘘はだめです」と、クルミもマジになった。
「じゃ、これでどうかな、『エト・クォルム・パルス・マグナ・フィ』。ラテン語で『名誉にかけて誓う』」
ふたりはうなずきあった。
「エト・クォルム」と、コミー。
「パルス」と、ふたり。
「マグナ・フィ」と、ゴミー。
そしてふたりはハイタッチをした。
「あああ、あれ? 額ごっつんじゃなくていいの?」と、ミナセは聞いた。
「それは、単に面白くするための嘘で、本当はどこでも同じ箇所ならいいのよ。面白くするため「だけ」の嘘、じゃないからね」
ハイタッチしたところに、きらきら度では本物以上の偽コインが生まれ、ころころと川のほうに落ちる。
どうやら空き地はすこし傾斜しているようだった。
そしてゴミーは土に……。
「なんかへん」
黄色の作業服のコミーは、濃紺の作業服のゴミーと混ざり合って、濃緑色の作業服になった。
「あたしって、本者? 偽者?」
「もうそういうのはないのよね。使ったコインはゾロアスター教の分派であるズルワーン教の神、つまり時間の神であるズルワーンを讃えたもの。えー、サーサーン朝の初期にはぁ……おっとっと」
説明の途中でミドリは銀貨を落として、落ちた銀貨はそのまま、ころころすとん、と偽物と同じように川に落ちた。
「拾うのよね、ウルフ!」
「いいじゃないかよもう、珍しいかもしれないけど、なんでおれが拾わないといけないんだよ」
「鎌倉時代の武士、青砥左衛門尉藤綱は、川に落ちた十文を莫大な金を使って川ざらいをして人足に拾わせ、落ちた金は捨て金だが、拾えば天下を回る金になる、と語った、と伝えられています」と、クルミは言う。
だから拾って、ウルフ、だめかな。
川ざらいはこっそり、ミドリがあとでバレないようにやればいいんじゃないの、と、珍しくミロクがおれをかばった。
朝マックに間に合ったおれたちは、持ち帰りで川の流れを見ながら、あんなところに錆びた自転車があるねー、とか、記憶をうしなったヒトたちのように、土手の上で話しながら食べた。
「コミーはもっと、自信のある・なしの濃淡の度をやわらげないとダメだよ」と、おれは言いながら、相手の髪の毛に違和感を感じた。
青い髪の中に、ひとすじだけ濃紺のメッシュがかかってる。
これと、ワタルがかき集めて持っていく予定のひと握りの土が、ゴミーがかつていたという記憶のあかしになるんだろう。
なおワタルによると、その土は特殊な経験をしているので、池の周りに撒けばいいものが生えてくるらしい。
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次の日は、朝から雨だった。




