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6-14・魂と生命に関する哲学的な話

 ミドリは、いつも手元にあるらしい「なんでも箱」に手を入れると、赤茶けた丸くて平べったいものを何枚か取り出した。


「えーと、これがサーサーン朝の創始者、アルダシール1世の金貨、それからシャープール1世の金貨、ホルミズド2世の金貨、と。これがいいかな」と、ミドリは言い、おれとミナセに、覚悟はいいかな、と聞いたので、おれたちは顔を見合わせてうなづいた。


 正直どれも君主の顔は、ジャンプの下手くそなほうのギャグ漫画家が描いたレベルで同じに見える。


 古代ペルシャの秘術なのね、と言って、一枚のコインのおもて面、つまり王の面をおれの額のかなり高いところに押しつけ、うら面、つまり神殿と神官のほうを同じように、ミナセの額に押しつけた。


 ミナセの額には、コインのうら面の逆向きの画像がうす赤く光って見えたから、たぶんおれの額も似たような感じになってるはずだ。


「それじゃ、ふたりともおでこをごっつんするのよね」とミドリは言い、そのとおりにして離すと、間に、こて、とぴかぴかのコインのようなものが落ちて。


「これはひょっとして、おれ/ぼくたち……」


「入れ替わってる!」


 ミナセであるおれの目線は確かに、今はミナセの魂が入っているおれの目線より低く、全体にぼんやりしていた。


「ミナセって視力あんまりよくなかったんだな」


「んー、言われてみれば、ウルフの体のほうがものがいいかも。音もよく聞こえるし。ところで」と、ミナセはミドリに聞いた。


「男子と女子の体が入れ替わることもできるの?」


 引き続き、ずれない男であるけど、おれの体を使って聞くなよ。


「んー、これはゾロアスター教徒である王のコインを使うから、男同士・女同士じゃないと無理なんよ。女帝のコインは、ロシアとか英国のがあるんだけど、キリスト教徒系だから」と、ミドリは引き続きクールに答えた。


 この、魂の入れ替えの際にできる偽コインは、元に戻るときに必要だから、なくさないようにせんとね、おっとっと。


 ミドリの手から滑った偽コインは、ころころと転がり、縁側から庭に落ちたところをすかさずカラスが拾って飛んでいった。


「戻れないじゃん!」


 絶対わざとだろ、とは思ったけど、じきにワタルがカラスと話をつけるから、とミドリは言い、ワタルも首を上下に動かしながら出ていったので、しばらくおれとミナセは違う体でミドリの話を聞くことにした。


     *


 金貨を使えば魂の入れ替えができるけど、銀貨なら魂、つまり記憶の共有ができるんよ、とミドリは説明した。


 ほい、とミドリは杖がわりの扇子で、ゴーレムのほうのコミーを指すと、その頭上に正八面体の、親指の爪ほどでルビーの色をした結晶があらわれた。


「ヒト、というか生命は、代謝する流動体だから、時間の流れによってすこしずつ、摩耗した部分が新しいものに変わるわけなんです。そしてわたしたちのようにエタってる物語の登場人物は、完結した物語が死んだ者たちでできているのと比較すると、生きながら死んでいる、つまり物語的ゾンビだと思っていただければ」と、クルミは言った。


 なんだ、やればちゃんと説明できるやん、クルミも。


「土属性はほかの属性と相性がいいのよね。木・水・金それぞれの属性が混ざってるのはヒトと同じ。そして燃える火属性は、つまり魂。コミーの体液を結晶化して体内に仕込んだゴミーは、あっごめん、勝手にすこしだけ使わせてもらったんよ」


 これもまたお前の仕業か、と、コミーは再び、ミドリではなくてウルフの首を締めるけど、中身はミナセなので勝手に苦しんでいればいい。


「だいたい話はわかったよ。それじゃ、残りの時間、あたしの分身であるこの子にも学校生活をエンジョイしてもらおうよ」


 ミドリの話だと、以下の通りである。


 ゴミーはコミーの魂の切片を持っているから、今までの記憶を持っている。


 ペルシャの金貨ではなく銀貨を使えば、分身としての記憶はあとで共有できる。


 ゴミーは魂の代謝がないから、そんなに長く現世にはいられない。


「ヒトは、魂を持たない機械でも感情移入しちゃうくらいなのよね。やはりゴーレムとか人工人間は、ヒトには早すぎた魔法科学かもしれないね」と、ミドリはため息をついた。


 そのような感情をミドリが持つのは、考えてみるとなかなか珍しいかもしれない。


     *


 そうこうしているうちに偽金貨を持ったワタルが戻ってきて、ここここれこれこれ、と携帯端末の画面をおれたちに見せた。


 なるほど、思い出作りと奉仕の両方で役に立ちそうな企画だな。

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