6-5・おひとりさま1限の大人気
「エロい夢が見られる枕はないの? 十八歳以上ですか、Nes/No枕みたいなの」と、ミナセはミドリに、確認するだけみたいな感じで聞いた。
「んー、あることはあるよ」と、ミドリは手元になんでも箱が出せるなんでもスペースをあけて、がさごそと、非リアル的にあさった。
「童貞/非童貞枕!」
表には緑色の字で「DO」と書いてあり、裏には紺色の字で「UNDO」と書いてある。
このような枕の表・裏は不明だけれども。
「安眠・苦眠枕のセットとしてそろえたんだけど、この世界ではいらないと思うのよね」
いずれ使うときもあるでしょう、とミドリは冒涜的な枕をしまった。
*
1年生の教室は1階にあり、まだ汚れていない魂の匂いがした。
新しい上履きや制服、身だしなみに気をつかっている者たちの、初々しさだ。
しかしもう何か月もすれば上履きは汚れ、制服はバッジとタイ以外は魔改造され、ジャージで登校して校舎の隅で段ボールを敷いて寝る子も出てくるだろう。
学校帰りに寄り道のプランを練ってたり、部活に行ったり、ただ無駄話をしているだけだったり、教室の掃除の準備をしていたり、あれこれ数人がいくつかのグループに分かれていて、クルミはそのひとつの集団に声をかけた。
「ごめんねー、待たせちゃって」
クルミとコミーは同じクラスとわかったため、中学時代のコミーを知っているだろう何人かに前もって通知しておいたのである。
「いえいえ、ククク、クルミのためなら」
この、ククク、は含み笑いではなく、いささかおびえているような調子だった。
わずかの間に人心掌握して、威圧で支配する、クルミって何者なんだ、よう実の龍園翔かよ。
メイドみたいな女子と小姓みたいな男子がひとりずつ。
コミーと同じ中学出身者はほかにもいたんだけど、とりあえず男女ひとりずつ、とクルミは司令を出していたのだった。
「ところで、うしろにいるのは2年だよね?」
心の汚れ、ではなく上履きの汚れとフチの色、それに青っぽいものを身につけてくることででわかるのだ。
今年の1年生は赤、2年生は青、3年生は緑、で、その色は学年が変わっても変わらない、という例のやつ。
3年生が卒業すると、新1年生が緑、2年生が赤、3年生が青、になる。
特殊部隊として、生徒会とその関係者は、黄色の上履きと黄色っぽいものを身につけることもある。
「ああ、こいつ」と、クルミはおれを親指で、くい、と指さした。
「子分」
じゃねーだろ、おれは探偵で、クルミは助手だろ、と心の中で思ったけれど、ややこしくなるしどうでもいいことではあるか。
「よろしく頼むぜ、コネコちゃん、と、あー、コギツネちゃん」
……やはりこのようなセリフをおれが言うのは無理があるな。
ふたりは、色指定を忘れたモブキャラみたいに灰色になっている。
「情報を提供してくれたらこの、コミーのフィギュアをあげよう」
きゃーなにこれ、どうやって作ったの、あたしも欲しいー、と女子が集まってきたので、ひとり1限! と言いながらクルミは自分が持っていた分を素早く配った。
おれの手元には、コネコちゃんにあげた1体をのぞくと4体残ったけど、別の情報提供者が出てきたらやることにしよう。
*
「まったく、なんでおれがガガガ文庫の登場人物みたいなことやらなければならないんだよ、どうせコミーは弟の学費稼ぎに夜のバイトに励んでるだけだろ」と、教室からおれたちの部室に戻る間、おれたちは入手した情報を携帯端末で確認しながら歩いた。
時間帯の関係で、廊下を歩いているヒトはけっこういたけど、クルミはすいすいすり抜けていき、おれはそのあとをこそこそ歩いた。
「品行方正、容姿端麗、学業に関しては不明だけど、ヤマダの話では課題の進行・提出物に関しても問題なし……これは……」
いきなりクルミは立ち止まったので、おれはぶつかった。
「オトコですね!」
犯行の動機は、金か怨恨かオトコ。
「いやそこはモリワキ団でもいいじゃん」と、おれは面倒くさくなって答えた。
だいたい、コミーは犯人ではなくて被害者なのでは。




