6-1・水責めか火責め、もしくはその両方
スギ花粉がぼちぼち収まりかけてるように見えながら、実はまだまだ続く、ぽかぽかと嫌な季節に、部の顧問教師であるヤマダがやってきた。
部活動なので、当然顧問はいるんだけど、うちの学校は生徒数のわりには部活の数が多いので、基本的にはあまり干渉はせずに、教師は複数の部を兼任している。
ヤマダの年齢は不詳で、制服を着ておれたちに混じったら高校生と間違えられるぐらいの童顔だけど、小中学生には間違えられないほどの背格好で、教師にのみ許される程度の大声を出すことが可能だった。
「なかなかきれいにしているな!」と、ヤマダは部室に入ってくると言った。
部室のある庵は、校舎とは別のところにあって、招待されたものしか入ることができない、ゆるいシールドが張ってある。
シールドは同時に、雨風や強い日差し、スギ花粉なども防いでいるし、部室の中はマジカル・クリーニング・サービスというのがミドリが契約しているサブスク魔法のオプションにあったので、毎日ぴかぴかなのだった。
もっとも、ぴかぴかになりすぎないように、と制御してあるので、そこまできれいではない。
ほかの部室と比べるとかなりまし、教室と比べるとややまし、な程度である。
ヤマダがここに来るのは、始業式以来、今期2度めだ。
クルミが差し出した紙カップ入りの麦茶を、ヤマダは立ったまま、ぐび、と飲むと、冷蔵庫の味がするな、と当たり前のことを言った。
冷蔵庫で冷やしてあった麦茶だから当然ですけど、何だったらメロン味にもできるんよね、とミドリは言った。
「俺はここへ麦茶を飲みに来たのではない!」
ああうるさい。
「仄聞するところによると、この中でマルコメ学園の着替えを覗いた者がうちの学校にいたそうだが、覚えはないか!」
「ありません!」と、ミナセが思いっきり嘘を言った。
「校外学習の時間、目的地、メンバーなどを照らし合わせてみたところ、明らかにこの部だ! お前か、それともお前か!」
ヤマダは、おれとミナセを指さしながら言った。
おれがおずおずと、実は、と言いかけたところをミナセがさえぎった。
「覗きではありません、観察です」
「ふーん……それは校外学習として意味があることなのか?」
「はい」
意味ねーよ。
確かに「逆さまの図書室」に行ったことは校外学習なんだけど、置いてあった望遠鏡で女子を「観察」するのは違うと思う。
「先生、それはモリワキ団が我々に仕掛けた罠だったんです」、とミロクはさらに話をややこしくしようとする。
「なんだそのメタクソ団とは?」
メタクソ団じゃなくてモリワキ団ね。
モリアキ団でも表記ゆれの範囲だからあまり気にしないほうがいい。
「今のところ、その情報は俺の親族で、マルコメ学院の姉妹校で教えてる者によって、内密の話ということで俺が聞き及んでいるだけだからいいんだけどね。よーく叱っておきます、と答えておいたので、叱らなければならなくなっちゃった」
「思う存分叱ってください」と、クルミは言った。
「叱るのはお前ら全員! 火責めと水責めのどっちがいいか!」
おれたちはみんな、首をぷろぷると横に振った。
ワタルだけは縦に振ってたけど、どうやら話をあんまり聞いてなかっただけらしい。
「といっても、叱った動画を相手に送ったとしても、どうせフェイクだろ、としか思われないだろうから、懲罰的奉仕を命じておこう。ミッションクリアしたら許してあげよう」
「なんでもします」と、おれは答えた。
痛かったり熱かったり冷たかったりするようなことでなければ、だけど。
「ここ何日か学校に登校してこない生徒がいるんで、その事情を探って問題を解決してもらいたい」
またかよ、とおれは心の中で思った。
ガガガ文庫だけでも、そういうエピソード、4回ぐらいは読んでるよ。
そしてヤマダはその生徒に関する、公開されている範囲でのデータをおれたちに送った。
「美人ですね!」と、ミナセは画像を見て即座に言った。
爽やかながら、女子には健全な興味を持つ男、それがミナセである。
ただ、その画像にはすこし気になることがあった。
この章は、あえて名作学園ラブコメのテンプレを意識して書いてみてます。皆さんは適当に、好みのイラストでイメージしてみてください。




