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5-14・世界のリアルと映画のリアル

 デジタル時代ではない映画のフィルムは1巻が10分だから、2時間の映画なら12巻。


 映写機を2台使って、片方が上映している間に、別の片方でフィルムを巻き直す。


 つまり、カラカラカラ、と1巻が終わったら、最後のコマがいちばん最初になっちゃうから、元の「はじめのところ」がちゃんと「はじめのところ」になるようにする。


 なお、映画の切れ目で途切れないように、フィルムの「終わり」と次の巻の「はじまり」をきちんと合わせる。


 巻き戻しのフィルムも、上映中のフィルムも、上から下へと流すようにする。


 ものすごく体力と集中力がいる仕事だった。


 おれたちは、館主が淹れたほうじ茶を置く場所がないので、飲み物が入った容器と受け皿を頭の上に置いて館主の話を聞いていた。


 最近の子ってそういうのできるの? と館主は聞いたけど、一応茶道部なので、とおれはあいまいな説明をした。


 ほんとうはミドリの魔力で、お茶がこぼれないようにしてあるだけ。


 一見すると、いや、しなくてもバカみたいだけどしかたない。


 館主は白っぽいTシャツに野球帽をかぶっていた。


 これは、フィルムを入れ替えるごとに前後を変えて、巻数を間違えないようにしてるんです、と、館主は説明した。


「さあ、これがぼくが見せたかった『逆さまの館』なんだ」と、ミナセは言った。


 フィルムを上映するとき、フィルムは下から上に流れ、そして上下左右はリアル世界とは逆さまのものになっている。


「映画の中の世界がリアルだったら、ぼくたちの世界は逆さまであり、ぼくたちの世界がリアルだという確実な根拠はなにもない。1秒24コマの世界、10分で終わるフィルムの何百巻にわたる世界を、創造主あるいは館主、もしくは逆さまの館のスタッフである天使みたいなものが、一生懸命回してる可能性は否定できない。なにしろ、自分たちの世界をメタな、つまり超次元的な視点から見ることは不可能だからね。そして、映画の中の世界と、その世界で生きる人たちがリアルだと考えてはなぜいけない」


 熱い。


 熱すぎるぜ、その語りは、ミナセ。


「えーと、ところでこのスクリーンは映画上映しなくていいんですか? わたしたちの校外学習のために、そんなことまでしていただいては」と、クルミは言った。


「それが、ですね」と館主は言い、野球帽を取ってうなだれたので、おれたちも頭の上のほうじ茶を手に取って話を聞いた。


「今回は、この映画を見ようっていうお客様がひとりもいないんですよ! 名作のフィルム上映で、映画会社から借りるのに苦労したってのに!」


 やっぱり、これはモリアキ団の陰謀だな、と、ミロクはひとりうなずいた。


「ちなみに、なんていう映画なのよ」と、ミドリは聞いた。


 アイリスへの手紙、と館主が言ったので、あーそれはワルモノどもの仕業じゃねーわ、と、おれとミロクはふたりでうなずいた。


『アイリスへの手紙』は、ディスレクシアという読み書き障害を題材にした、真面目な恋愛映画で、『タクシードライバー』との共通点は、主人公がロバート・デ・ニーロで、ヒロインの名前がアイリスっていうのと、役者のイニシャルがどちらもJ.F.、ジュディ・フォスターとジェーン・フォンダであるところだ。


 いい映画なんだけど、別に映画館で見るほどのことはないんだよなー。


「観客がいなくても、映画って上映するんじゃないんですか?」と、クルミは聞いた。


 昔は途中入場とか、同じ映画何度も見られる、みたいになってたんで、無観客上映もしてたんだけど、と館主は説明したので、おれは、えっ、と驚いた。


「映画って、途中から見てもいいもんだったのかよ! おまけに何度でも!」


 ぼくなんか、『スター・ウォーズ』エピソード4の最後の30分、二度見ちゃってねえ、と館主が言った。


「いちおう最初から見ようとは思って待ってたんだけど、外に漏れる音があまりにも面白そうだったんで」


 おれだってそんなことができたら二度見るよ、ていうか、自宅鑑賞ですでに最後、二度見てるな、考えてみたら。


「やはりミニシアターといえども、経営を考えるならホラーとかアクション映画特集みたいなのやってみたら? 『キャプテン・スーパーマーケット』みたいなの」と、ミロクは言い、それってどんな映画なんですか、と聞くクルミに、ミナセはていねいに説明して、館主はいいねそれ、と言って、数日後におれ&ミナセの家に集まり、茶道部のみんなで鑑賞大会をすることになった。


 倍速じゃなくて等速で。


 大笑い。


 よーし、次は『スクリーム』連続鑑賞だー、とおれは張り切った。


 映画研究会か茶道 探偵部なのかわからないな、これでは。

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