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5-13・映画の感想と舞台裏

 ミナセを除くおれたち6人は、かつては3本立ての名画座で、今はミニシアター系映画を集中的にやっている、その流れで「午前10時半の映画祭」という、地域限定の名作映画を公開している映画館の中で話をしていた。


 ロビーの片隅には丸テーブルがあって、館内スタッフの人たちが屏風っぽいもので囲んでくれたので、映画の感想は言いたい放題である。


『タクシードライバー』は1976年のアメリカ映画で、監督はマーティン・スコセッシ。


 当時の汚かったニューヨークを舞台に、タクシードライバーをする孤独な若者がアドリブっぽく生きる映画で、主演はロバート・デ・ニーロ33歳、だから若者というほど若くはないか。


 血と暴力はあるけど、別に大統領候補は暗殺されないし、娼婦役のジュディ・フォスターも、主役のデ・ニーロも死なない。


「はじめの1時間はあまりの退屈に死ぬかと思いました」と、クルミ。


 倍速で体感30分で見たにしても、あんまりな感想だな。


 確かに、秘密の銃器売買屋から拳銃を入手したりするところまでは、延々タクシーと夜とバーナード・ハーマンのくだらない音楽が流れているだけで特に見どころはない。


「名作映画と言われてる作品の中でも、これのどこが名作? という疑問が浮かぶ映画のベスト3には入れたいね」と、ミロクも同意する。


「あとのふたつはぁ……」


「『ディア・ハンター』と」


「『ゴッド・ファーザー』」と、おれ。


「『レイジング・ブル』」と、ミロク。


「なんでだよ! ボクシング映画としてはすげえ面白いじゃん、『レイジング・ブル』!」と、おれは抗議した。


 そんなわけで、スコセッシ監督のどの映画が一番つまらないか、に関して意見交換をしたんだけど、『ミーン・ストリート』は面白い、ということで意見が一致したのでよし。


「拙は音が気に入ったのだ」と、ワタルは言った。


「人間の耳がついているところより3メートルほど上にマイクが設置して、街の自然音のように聞こえながらもたくみに合成・創作音を混ぜて、雑だけれど映画館向きに作られてる。自宅でヘッドホンの薄い音だとあの感じは出ないはず」


「私は字幕が気に入ったのね。あれ、縦書きで左右に、話してる人の側に出てるやん、どうして? おまけに10文字で文章の区切り関係なく改行してるし」


 言われてみると、最近の映画って字幕は下に出るんだよね。


 古い映画の字幕版とか見てると、たまに左右に出るのはあるけど、『タクシードライバー』のニュープリント版はわざとそうしてるのか。


「でも、この映画で、こんくらいヘボい映画だったらわたしでも作れそうな自信が出ました!」


 エキストラとか撮影とか、ものすごくプロっぽいんだけどな。


 一応、クルミは財力はあるから、映画作るとしても製作費の額は考えなくてもいいだろう。


 音響はワタルで、編集はミドリということになるな。


 どんな映画がいいかな、と話してるところにおれは、カフェの4人がけ席で、銀行強盗の作戦を考えてるところではじまる映画はだめ、とタランティーノの気分で念押しをしておいた。


 座ってだらだら話をしている場面を、退屈しないように見せるには、アニメの長井龍雪監督なみの演出技術が必要なのである。


 そうこうしているうちに、ミナセが、用意ができましたので、とスタッフオンリーの出入り口から現れた。


     *


 映画の撮影室は狭いけど、けっこう大きな空調ががあがあ回っていて、館主と思われる年配・シニア・初老の男性は、0.5倍速ぐらいの遅さで、おれたちにほうじ茶を出してくれたんだけど、置くテーブルがないため、手に持って話を聞くことにした。


「校外学習ということなので、昔のフィルムをどうやって上映するか、について説明します」と、館主は言った。


「どうでしたか、『タクシードライバー』は」


「はじめてのデートにこれ見ることになったら、即交際やめることにします」と、クルミはずけずけと言った。


「ははは。こういう映画は孤独な大学生が、ポルノ映画の代わりにひとりで見るようなもんですからねえ。ぼくの場合も……」


「じじいの昔話は長くなりがちなので、とっとと撮影の仕組み話すのね」と、ミドリは容赦なく言った。


「……まず、フィルムは1秒間24コマ、16コマで1フィートになります。1巻、つまりフィルムのひと巻き分は10分なので、14400コマ、900フィート、約275メートル。時速にすると1.65キロ。2時間の映画だと3.3キロメートルの長さになりますな」


「うわ、けっこう重いな」と、おれは渡された1巻分のフィルムを手に持って言った。


 フィルムはアルミ製だけれども頑丈そうなケースに入れられているのでさらに重い。


「で、映写機の上と下にリールをセットするところがあって、よっこいしょ、と上にかけるんですね」


 その作業は、撮影助手と思われるスタッフが手際よくやってくれた。


 若いけれど、大学は卒業してアルバイトを長い間やっている人らしい。


「下じゃなくて上に?」


「そのほうがフィルムが切れにくいんですよ」

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