5-9・マジ無駄話
次の休みの日、おれとミナセはいつもよりすこし早く家を出て、みんなと合流することにした。
目的地はいつも行っている学校よりやや 遠く、学校近くの駅から電車では1時間半くらいのところにあるという。
ミナセは、ぼくが本物の逆さまの館を見せてあげるよ、と料理 グルメの漫画みたいなことを何日か前に言ったのだった。
きのうの午後遅くから降りはじめた雨は払暁までにやみ、電車からは遠くの山々と富士山が見え、駅前から続く街路樹もつやつや新緑で光っていた。
「お待ちしていました」と、一年生のクルミは言った。
みんなの私服姿を見るのは 久しぶりだった。
といっても、うちの学校は、制服に見えれば問題なし、というゆるい校則なので、単に学校に通ってるときには おさえ気味だったコスプレ的ファッションを単に私服的に アレンジしてあるだけだ。
つまりクルミは姫、ミドリは 神官、ワタルは忍者である。
おれとミナセは安おしゃれショップならどこにいてもある青いシャツとベージュ色のチノパン、それに薄手のコートだった。
「あれ、同じ電車だったっけ」
おれとミナセはもちろん同じ電車で、ついでにミロクも同じ電車の違う車両にいて、まだ時間があるから区切りのいいところまで電子書籍を読んでから合流する、と言って、駅ナカの安いカフェで寄り道をしている。
「電車で来ると余計なおしゃべり、無駄話をしちゃいそうなので、ミドリひとりに先行してもらって、ここに転移ゲートを開けてもらいました」と、クルミは言った。
「ゲートを作るには、一度行ったところじゃないと難しいのよね、異世界設定ではありがちの魔法なんだけど」と、ミドリは説明した。
電車でおしゃべり、か。
おれとミナセは、電車で隣同士でもお互い、携帯端末の画面見てるだけだもんな。
なお、ミロクはおれたちふたりに『あなたのうしろにいる』という嫌通知を送っただけで、特にリアクションはなかった。
ミロクって本当に女子高生なんだろうか。
「ちょっとその無駄話能力を見せてくれない?」と、おれは聞いた。
*
「あー、ちょうダリぃ、なんで休みの日に部活に付き合わねばならねぇんだよ」と、ミドリ。
「ほんと、まじウザい、っていうか、ヤバくね、先輩たち」と、クルミ。
「まじヤバい、クソまじヤバい」と、ワタル。
「そう言えば、モリタの話聞いた? あいつ、おな異世界のカノがいるのに、別のコにちょっかい出しやがって、ちょうムカつく、って感じ」
おな異世界。
おな中、と同じようなもんだろうか。
「えー、何なに? 知らなーい」
「オサダもオサダだよなー、ちょっとばっかツラがいいからって、ふたりまとめて締めちゃおうぜ」
「しかしモリタ、リアル舐めんな、と言いてぇよな。あー、ちょうイラつく」
「まじダリぃ」
「オトコは魔力よりも筋力だよな」
「筋力というよりむしろ持続力」
「というより腕立てふせ力」
「そう言えば、オサダの話なんだけど……」
「うわー、なにそれ、ちょうヤバいじゃん」
「マジで?」
これはまじヤバい。
いやそんなことを思っている場合ではない、そんな話をしていたら乗り合わせた乗客のみんなが、聞かないふりをしながら聞き耳を立てるに決まっている。
しかしあのモリタが……いやその話はもっとくわしく聞きたいぞ。
3人はこの調子で10分ぐらい、無駄話能力を見せつけてくれた。
*
「だいたいわかった」と、遅れてきたミロクは、おれがこっそり会話内容を転送していた、という証拠画像を3人に見せた。
「うわっ、ミロクいたの? まじキモ!」
「もうそういうのはいいから」
ミロクはなにか、 おしゃれな小学生が着そうな、魔法少女みたいな、ではないな、 ディズニーランドに 行くようなコスプレをしていた。
頭におしゃれリボンをつけているんだけれども、顔が結構こわいので小中学生には見えないはずである。
「なお録音してあるので、この件はオサダに報告したほうがいいかな」
すみません、調子こいてました、これは演技、リアル女子高生の演技なんです、と3人は弁明した。
目的地までは5分ぐらいなので、そろそろ行こうか、とミナセは言った。




