5-6・本を読んでる有名人
水着で本を読んでいるマリリン・モンローの肩は丸く柔らかそうで、足は膝を曲げて座っているため、角度の問題でそんなに長くは見えない。
プールサイドのようにも見えるけど、足は砂で汚れており、健康的で魅力的なモンローの顔は、この写真では、しっかりメイクはしているけど、どこかやつれており、本に集中している。
「これは『ユリシーズ』の最初のほうのページ、じゃなくて、最後のほうか、横文字の本だから」と、ミロク。
「マリリン・モンローは気が向くと、『ユリシーズ』の適当な章を開いて、ばらばらに読んでたらしいんだよね」と、ミナセ。
「マリリン・モンローって頭良かったんですね、ジョイスの本読んでるなんて。しかも英語で!」と、クルミ。
そこは普通なんじゃないの? アメリカ人だし。
クルミは適切にボケてくれるんだけど、おれたちにはどうもツッコミビリティが弱いようである。
そして、もうひとつはジミ・ヘンドリックス。
ギタリストベスト100なんて企画は、ジミ・ヘンドリックスのためにあると思われるぐらい、死後数十年ぐらい、ずっと1位である。
ときどき、ジェフ・ベックになることもあるらしいけど。
略してジミヘンの写真は、両手でペーパーバックを持っている白黒の写真で、視線はどうやらページの右側に向けられているらしい。
これもきわめて真剣で、本に集中している。
本を持つと、人は集中するものである、という解釈がなりたつな。
「あ、この本、ぼくがさっき図書室の除籍本でもらってきたやつだ」と、ミナセ。
昔のSFの表紙は、エロいのはそんなに多くない。
薄着の美女が触手責めに会ってる、なんて表紙のイメージは、だいた「スタートリング・ストーリーズ」という1940年代~50年代に流行ったSF雑誌からで、そんな表紙にもかかわらずレイ・ブラッドベリは定期的に作品を発表していたんである。
そんなわけで、ペンギンのポケットブック、ペーパーバックの表紙は、オスカル・ドミンゲスというシュールレアリスト系のアーチストによるもので、SFっぽさと当時のおしゃれっぽさをうまいこと表現されている。
「んー、手元の本で確認してみると、ジミヘンが読んでるのはウォード・ムーア『新ロト記』あたりかな」と、ミナセ。
それと、今回の事件、つまり逆さまの男とは、どういう関係があるんでしょう、と、クルミは聞いた。
「グッド・クエスチョン! ではここで、AmazonのKindleに出てくる、樹の下で電子書籍を読む少年の画像を見てくれ。これは右向きと左向きのふたつのバージョンがあるんだけど、少年はどっちの手で電子書籍を持ってるように見える?」
「……片手で持ってるのはわかるけど、どっちの手なんだろう」と、ミロクは言った。
「右手にも、左手にも見えるんよね、だまし絵っぽいのん?」とミドリ。
Amazonに聞けばわかるだろうけど、どうも「お客様の判断におまかせします」みたいな感じでごまかされそうな気がするんだよな。
「さてここに2種類の本がある。ひとつは縦書きで日本語の本、もうひとつは横書きで英語の本」
おれは、自宅から持ってきた三島由紀夫『金閣寺』と、ミロクが図書室から除籍本としてもらってきたYukio Mishimaの『Kinkaku』を並べてみた。
「じゃあ、このふたつを手にとって読んでみてくれないか、ミロク」
「自分? まあいいけど、最近は文庫本って中途半端だから読んでないんだ」
「えー? じゃあどういう本読んでるの」
「電子書籍か、昔の古くて固くて重たい本」




