5-5・喫茶店で謎解き
逆さまの図書室がある建物の庭園で、刈り取った草の入った袋を管理人の人に渡すと、おれたちは近くの喫茶店に行った。
裏通りにこっそり設けられている木造り感のある店で、内装も木のしっとり感としっかり感を生かした、落ち着きのあるところだった。
夜になったら高い酒を飲ませる店になるんだろう。
アニメ好きにわかりやすくいうと、ごちうさのラビットハウスみたいな感じである。
店の人は、軽く敷居が設けてある個室に案内してくれた。
コーヒーの値段は、おれがたまに行く近所のチェーン店の3倍ぐらいしてて、なおかつそれより高いものもあった。
ミロクは5倍ぐらいの値段のスペシャルブレンドね、と言って、お手洗いに手を洗いに行ったので、これって部活の経費で落とせるの、と、ミナセとこそこそ相談した。
「交通費は出るだろうけど、飲食代は無理なんじゃないかな」と、ミナセ。
「ここはわたしにお任せください!」と、クルミは言って、小さなバッグからコインを一枚出した。
これは……十万円金貨!
それも、天皇陛下御在位60周年のほうではなくて、御即位記念のほう!
「なんでこんなの持ってんの?」と、おれは聞いた。
「異国の商人が、これで支払いをすることもあるので。おそらく冒険者から手に入れたんでしょう。もっと古いのあるんですか? 昭和の時代には、まだ異世界はなかったのでは……」
設定に無理はないし、確かに令和の異世界転生者なら持っていても不思議は……あるけどあまり気にしないほうがいいだろう。
普通の高校生なみの節度を持った注文を、店内端末でおこなって、店の人を呼んでそのコインを見せたら、しばらくお待ちください、と言ってすごい札束を輪ゴムで止めて持って来た。
電子マネーはともかく、そんなリアル大金を見たのははじめてかもしれない。
この手のものをお持ちでしたら、いつでもお越しください、と店主が申しております、ということである。
「いったいどんくらい持ってるんだ?」
「えーと、いきなりエタったので……手元には20枚ぐらい? あっ、なんでしたら江戸時代の小判とか、古代ローマ時代の金貨なら、取り寄せられますけど」
財力には自身があります、というのがクルミの説明だった。
しかしどうやって取り寄せるのかはよくわからない。
そうこうしているうちに、やっとミロクが戻ってきた。
たぶん、おれの知らない誰かと会って話をしていたんだろう。
おや、こんなところで、珍しいなあ、みたいな感じで。
ここの飲食代って、部費から出せるの、って聞いてみたら、生徒会との交渉次第、ってことだった。
つまり、図書館の謎に関して、ある程度解決が進めば大丈夫、ということか。
それじゃあ、と、おれは張り切ることにした。
「今日の成果について話そう」と、おれは言った。
「名門の女子校の生徒でも、普通の下着なんだなあ、みたいな」と、ミナセ。
なぜこの男は、さりげなくエロい話でもさわやかに語れるんだろうか。
「あっ、ミナセが左利きだってこと、今まで全然気がつかなかったのね」と、ミドリは言った。
そりゃそうだね、描写として特に意味がない限りは、物語の中で登場人物のひとりの小指が欠けているとか、片足が欠損してる、なんてことは語らない。
「ではここで、みんなにふたつの画像を見せよう」と、おれはプリントアウトしてくしゃくしゃになった紙を回した。
ひとつは、プールサイドで『ユリシーズ』を読んでいる、水着のマリリン・モンロー。
もうひとつは、SFのペーパーバックを読んでいるジミ・ヘンドリックスである。




