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5-3・薄い読者サービスシーンのあと、図書室を去る

 おれたちが訪ねた、外国人が管理運営している公共施設は、外堀沿いのやや小高い丘のようなところにある。


 そしてその3階からは、隣接した女子校、首都圏でももっとも頭がいい女子が通うということになっている学校が建てられていた。


 おれが見つけたのはクラシックスタイルの望遠鏡で、感心しながら眺めていたのはその学校の更衣室だった。


 日本式庭園の剪定をした人、それとこの図書室に望遠鏡を置いた人に感謝しながら、窓の遮光カーテンをすこしめくって、窓の隙間からこっそり観察していた。


 なるほど、白いブラウスだと白、というだけではなくて、黄色や薄いオレンジ、それに薄いピンクだったら透けても大丈夫なんだな。


 黒とか赤とか、それに大胆なデザインの下着の子はいない。


 あんたそのブラいいね、みたいに言い合っている子もいない。


 さすがリアルである。


「なーにしてんのよ、ウルフ」と、ミナセはおれの望遠鏡を取り上げて、カーテンを大きく開き、堂々と観察しはじめた。


「あれ、この望遠鏡、ガリレオ式じゃなくてケプラー式なんだ。レンズが変えられてるのかな」


「こら、こら、こらこらこら、倒立している像は、望遠鏡をぐるぐる回しても変わらないっての、前後を逆にして覗いてもだめだよ、ほら、見つかっちまった」


 頭を低くして見つからないようにしているおれの視線の先で、女子生徒がこっちを指さしながらなにか言ってるのが見えた。


 ミナセは、皇族の新年祝賀の儀みたいににっこにっこしながら手を振ってたので、すぐにあちらの更衣室はカーテンで隠されてしまった。


「お前、堂々としすぎなんだよ! こういうのは窓の隅っこからこっそり、望遠鏡が太陽光で反射しないようにやるんだ。できれば10センチぐらいの長さの紙を丸めて望遠鏡の先のほうにつけて……」


「犯罪行為はやめようよ、ウルフ」と、ミナセは言った。


「でもどうしてもウルフが望むんなら、これからは木の葉が茂って覗きにくくなるから、葉の散ったころにこっそり覗けば……」


「そんな季節に窓開けて着替えなんかしないっつーの! リアルなめんな!」


     *


 というわけで部員一同は、おれが案内した「真・逆さまの図書室」に満足した、かどうかは不明だけれど、納得してもらえたようである。


「つまり、横文字しか置いてない図書館・図書室は、おれたちにとって逆さまな図書館・図書室になる。エラリー・クイーンが『チャイナ橙の秘密』で、犯行現場を逆さまにして、真犯人を中国人にしたというトリックは有名だろう」


「また嘘ついてるね、ウルフ、あの本の真犯人は中国人じゃないし、そもそも中国人なんて出てこないだろ」と、ミロクは適切なツッコミをした。


 ていうか、ミステリー読んでますよね、このミロクという人は普通。


 まだ読んでない人がいても、正直あまりおすすめできない、と小声でサポートしておこう。


 謎と読者への挑戦があるクイーンのミステリーは、『十日間の不思議』その他、後期クイーンとその諸問題に関して考える、序的な参考文献みたいなものである。


「前から気になってたんだけど、異世界って、横文字の本しかないよね」と、おれは聞いてみた。


「横文字の本、そうですね、アニメなどの中ではさらに、日本語じゃなくて謎文字になってたりしますけど」と、クルミは答えた。


「どうして?」


「どうしてなんでしょう? わたしは作者でも、漫画・アニメの製作者でもないのでわかりません」


 そうだね、物語の登場人物だったんだからね。


 でも日本語ペラペラじゃん。


「あ、でも中華風異世界とか、陰陽師が活躍する異世界だったら縦書きの魔導書とかも出てくるのよね、『薬屋のひとりごと』とか」と、ミドリはサポートした。


     *


 そしておれたちは、各人が除籍本、つまりいらなくなった本を一冊ずつもらって、図書室をあとにした。


 除籍本の場合は、いちいち返しにいかなくてもいいので楽なのである。


 クルミは『How to serve a Man』という料理本みたいなの。


 ワタルは『Hagakure』、これは『葉隠』だな。


 ミドリは『Art of War』……孫子の兵法。


 ミロクは『Kinkaku』……三島由紀夫の『金閣寺』。


 なんでみんな、英語で読まなくてもいい本もらってくのよ、と思ったけど、ミナセはちゃんとペンギン・ブックスのSFアンソロジーを選んだ。


 そして、おれは『World of Nude』、世界全裸全集のModern編という、厚くて固くて重たい本である。

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