4-19・部員の役割分担を再確認
「やあ、ぼくは逆さまの男。みんなを食べちゃうぞー」
ミナセは、学校指定のえんじ色のジャージの下半分を頭からかぶり、男性専用の社会の窓口から顔を出して、新一年生で異世界人の3人の女子を追いかけて遊んでいる。
ミナセのジャージは毎週家に持ち帰って洗っているからそんなに不衛生なものではないけれども、一週間は学校にあって使用したものだから、それなりに不衛生かもしれない。
そんな問題より、逆さまの男(仮)になっているミナセは、はっきり言ってアホである。
きゃー。
ばたばた。
がおー。
きゃー。
ばたばたばた。
ミロクは、ミカンちゃんが、はい、と手渡しでくれるミカン味のパチンコ玉をもぐもぐしながら、かじったあとを確認して、おれに文句を言っている。
「やはりどう考えてもおかしい。直径11ミリのパチンコ玉が、二等辺三角形の二辺が1センチの穴から落ちるわけはないだろう」
「おかしいところってそこ? いいんだよ、もうその二辺は2センチなんだから。設定厨かよ」
正確には、そういうのを設定厨とは言わない。
文句を言うなら作者に言ってくれ、と心の中で思う。
はしゃいでる3人プラスひとりに対し、おれは時間を見計らって大声で言い、手をぱんぱん、と叩いた。
「よーし、みんな、お遊びの時間はこれまでだ!」
「えー、なんで? 面白いじゃんよ」と、ミナセは言った。
「面白いけど、そういうのは逆さまの男じゃないんだって。それに、そのネタはもう小説になっている」
「え? 書いたの誰? 江戸川乱歩?」と、クルミは聞き返した。
たしかに乱歩ならありそうだけどね、「人間椅子」とか「屋根裏の散歩者」みたいな変態……じゃなくて、変なの書いてるし。
「山田風太郎「陰茎人」やね」と、ミドリは言った。
なんで知ってんだよ、異世界にも乱歩や風太郎とその作品はあるのか。
山田風太郎の小説は、股間が顔になってて、顔が股間である人の話である。
くしゃみをすると、鼻から……いやもうこの話はやめておこう。
「おれたちはもう一度、原点に帰って、各キャラの役割分担を明白にしてみよう」
ミカンちゃんは親切にホワイトボードを持ってきて、それ用の筆記具をミナセは頭を下げて受け取った。
おれは順番に、五本の指で指さそうと思ったけど、どうも中指だけでは変なサインになっちゃうから、それはほかの二本の指も含めよう。
「まず、おれ。おれは探偵役ね。それも、ただの探偵じゃなくて名探偵」と、おれは自分を親指で指して言った。
「でもって、クルミは、『それってどういう意味なんですか?』と、名探偵に説明を求める役。けっこう重要だからね」と、人差し指でクルミを指差す。
「ミナセは、嘘っぽい疑似解説をするのと、その理屈はおかしい、と名探偵にちゃんとした説明を求める役。『ちょっと待ってくださいよ、名探偵さん』だな」と、人差し指と中指でミナセを。
「ミドリは『いや確かにその方法なら可能かも』と、名探偵を養護する役ね。それはケース・バイ・ケースで、ミナセと役が変わってもいいよ」と、中指と薬指でミドリを」
ナナセとミドリは顔を見合わせた。
「ワタルは死体の役だな、ちゃんと死体っぽく倒れていてくれ」と、小指でワタルを指差すと、ううっ、とうなり、胸に手を当て、これは、血? とつぶやいて、ばた、と倒れた。
いささかオーバーアクションである。
「そして、おれとクルミ以外は全員真犯人の可能性がある役ね。死体が真犯人だっていいんだよ、そういうミステリーもあるんだからアンフェアじゃないよ」
と、そこまで話したら、肩をぽんぽん、と叩かれた。
「あー、あんたいたの、ミロク? えーと、部長は密室のドアの役でどうかな。非常に重要な役で、痛いいたい、そんなに強く叩かないで、こわれちゃう」
「こんなばかばかしい話につきあっていられるか。自分は部室に帰るぞ」と言うミロクに、みんなは声を合わせて、まさにそれ、と言った。
「ばかばかしい話につきあっていられない役!」
ウルフ→名探偵
クルミ→説明を求める役
ミナセ→疑う役
ミドリ→そういうのもありかなって思う役
ワタル→死んでる、もしくは死んでるように見える役
ミロク→ばかばかしい話につきあっていられない役
ホワイトボードにはそのように書かれた。




