4-16・穴になにかを落として確認する
ミロクは、ミロク自身の感覚で非リアルなことに対してリアルよりの推理を立てるのには飽きてしまったらしく、ミドリにもらったマジカル防音イヤホンをつけ、図書館のひとり掛けテープルで重たい本を広げて読んでいたんだけど、ワタルの攻撃魔法系大音声による振動と天井塗装の一部剥落でふたたびおれたちのほうへ、とてとてとやってきた。
おれは、カードほどの大きさの、図書室に開いた穴をのぞき込み、その先に針ほどの明かりが見えるのを見て考えた。
「ワタル、お前のクナイを貸して」と、おれは言った。
「これでござるか、し、し、素人には危ないでござるよ」と言いながらも、ワタルは手持ちの十数本のうちから1本を貸してくれた。
クナイは先がとがっている両刃の短剣のようなもので、英語で言うならダガーかな、ワタルは日本の国内法にもとづき、片方の刃が殺してある、つまり切れないように加工してある。
持ち手の部分は刃の部分と同じくらいの長さがあり、黒みを帯びたやや藍色のクナイは、おれが思ってたよりはるかに重く感じられた。
つまりそれは、リアルでなければ持たないような重厚さだった。
慎重におれは、落とす方向を刃先ではなく柄のほうに変えて、トランプが作り出した、あるいは塞ぎきれなかった虚無の穴へと落とした。
穴の先のほうをじっと見ていると、確かにクナイは、針の先のような光のほうに向かって落ちていた、と思うと。
こつん、とおれの頭に、下に落ちたものと同じクナイが当たった。
あぶねー。
マジあぶねー。
こつん、程度で済んだのは、クナイが落ちる速度をワタルが絶妙のタイミングで止めたせいで、ワタルの手がなければ、ごつん、とクナイはおれの頭に当たったところだった。
そして、刃先のほうを下にして落としたら、ごつん、どころか、ぐさっ、としていたところだ。
「戻ってくるまで1秒強、つまり4階の床から地面まで、ほぼ10メートル強の高さから落ちたものになるのね」と、時間をはかっていたミドリが言った。
素人には、その速さで落ちるものをうまいこと受け止めることはできない。
自由落下速度で1秒強なら、だいたい時速40キロぐらいの計算だろうか。
「頭の上にマジックシールド張るとか、こつん、とする前に止めることぐらいはできそうじゃないか」と、おれは命拾いをしたわりには頭をおさえてぶつぶつ文句を言った。
「これは拙たちと卿が確認するための痛み」と、ワタルは言った。
「なにを?」
「リアルを」
「くだらん、じつにくだらんな」と、ミロクは言った。
「この下は調理室と理科の実験室だから、調理部と実験部のモリワキ団が組んで、この世界がリアルか嘘なのか、わたしたちをだまそうとしているんだ。下に落ちていくところは、ウルフの目をごまかすために偽の動画を用意して、3階で受け止めたクナイと同じものを、図書室の天井裏で待機していたモリワキ団のものが素早く下に投げる」
「ちょっと待ってよ、ミロク、モリワキ団ってそこからすでにリアルじゃなくない?」と、ミナセは言ったし、おれもそう思う。
「なんだよ、モリワキ団って」
「モリワキという犯罪の天才が組織している犯罪集団に決まってるじゃないか」
この世界がリアルなら、下に落ちたクナイが落ちてきた世界は非リアルで、非リアルなものがおれの頭に当たったなら、この世界はどこかで非リアルになっている、ということなのか。
「とりあえず、穴をふさぐ方向の計算式と魔力の解法は終わってるので、みんなでやってみない? そうすればここが元のリアルに戻ると思うのね」と、ミドリは言った。




