4-14・図書室の謎の穴
おれは足元に開いた、トランプの大きさほどの虚無の穴を見た。
おれの手元には、トランプの大きさほどの、表が白、裏が赤の一枚のカードがある。
カードの一隅には、よく見るとわかる程度の細い、黒い、かつては切断されていた跡としての線があった。
その中央には、取り外した画鋲の穴があった。
「どう思う、ミナセ」と、 おれは聞いてみた。
「えーとこれは、トリックとかではないんですけれども、昔の子供 がよくやっていたあれですね。つまりまず、画鋲をトランプに刺します。天井にある程度の速さで 放りあげると、画鋲が 天井に突き刺さって、トランプは取れたくなります。もともとこれは、寺社の山門などに参詣記念の札、つまり千社札を高いところに貼るという江戸時代の 知識や 知恵を応用したものなのかな。公には禁止されたりされなかったりしましたけど。でも、なんで床にあるんですか」
「それは簡単だよ。つまり 逆さまの男にとっては 床が天井だったからだ」と、おれは 断言した。
おれはミドリに画鋲とカードを渡し、魔力のようなものは感じられるか、と聞いた。
「微力だけど、呪法の残滓があるね」
「アニメになったときのために、もうすこし簡単な言葉で説明して」
「……わずかに強力な魔法を使ったあとが感じられるのね」と、ミドリは言い直した。
エタってる創作世界から来たわりには、話がわかる子である。
むしろ、だからこそ、かもしれない。
アニメになったら、え、これどういう意味なの、と混乱する同音異義語が日本語には多すぎるので、原作者はそこらへん考えて、ある程度原作改変してもいいんじゃないかと思う。
嘔吐と王都、とか。
呪法と時報、残滓と惨死、とかね。
おれたちのことがアニメになることはないだろう、とは思う。
なにしろ、これは「物語」ではなく「体験」、つまり実際にあったこと、リアル、だから。
なお、茶道 探偵部の部長であるミロクは、リアルと物語の違いにはうるさいので、図書室の一番隅にある机と椅子に腰掛けて、ミロクの信じている範囲での世界に引きこもってしまった。
「この穴って、もうすこし広げられないかな、ミドリ」と、おれはカードを取りのけたあとの、黒い穴を指さした。
空中に穴のようなものをあけて、なんでも取り出せる能力があるミドリならそのくらいのことはできそうな気がするのである。
なお、ミドリが展開するなんでも箱みたいな異空間は、窓が十分に大きくないとだめらしい。
つまり、手が入るぐらいの大きさの窓では、手は入れられても実物大ピカチュウのような大きいものは取り出せない。「実物大」という概念がゆがむようなぬいぐるみだけど、それはともかく。
たとえば2メートルぐらいの大きさのものを出そうと思ったら、2メートル四方の窓を作らなければいけない。
「ワイバーン だと10メートル四方くらいかな。だから結構めんどくさいのよね。横10メートル高さ 2メートルくらいだったらなんとかなるんだけど。で、この黒い穴、確かにそこそこ強い魔力が感じられるけど、自分が作った穴でないから、構造解析と特定の解法を使うので、広げるのはすこし時間がかかるよ」
数学の文章題を解く、みたいなもんかな。
「で、大きくしてどうするの?」と、ミドリは聞いた。
「もちろん、この中に入ってもらう!」と、おれはクルミを指さしたので、クルミは食肉目の獣に追い詰められたようにぷるぷるして首を振り、それに対してワタルは、指さしてもいないのに、おれおれ、おれにやらせろ、という感じで一歩前に出た。
「ごめん、訂正する、おれが中に入るから、みんなもあとからついてきてくれ」
「いきなり入る前に、もうすこしできるかぎりで精査してみませんか」と、ミナセは言った。
確かにその通りだろう。




