4-13・謎のカードの完成形
図書室の床は、50センチ角の正方形で、市松模様、つまり白と黒のチェックでチェス盤のように、若干古風さを感じさせるリノリウムっぽい板が張られている。
リノリウムというのはちょっと言ってみただけで、本当はポリ塩化ビニルらしい。
いずれにしても、一般の教室よりややおしゃれ感がただよう床で、ただし本来は定期的に張り替えるべきところを、たいていの学校の設備と同じように、ほどほどに古びたいい感じと、建て替えを待つレベルで朽ちていきつつある感じの中間の風情があった。
図書委員の確実で慎重な清掃行為にもかかわらず、白黒の床はところどころが波打っていて、人が歩いている部分と本棚の部分、机や椅子が置かれている部分とそうでない部分とではかすかに段差があった。
おれは机を動かしたとき、床の上に落ちていたあるものに気がついた。
それは四隅がゆるく丸くなっている一枚のカードで、その左上隅がわずかに欠けており、真ん中に画鋲がついていて、その画鋲で床に軽く固定されていた。
カードの色はえんじ色に近い赤で、欠けている部分は深淵の黒。
床の白い部分での赤いカードは目立ち、事件の異常さをおれは感じて、ぞくぞく、としながら天井を見た。
さまざまな色がまざった偽血天井のうち、えんじ色の箇所の一部分が、やはり異常だった。
四隅のうち右上部分が欠けた、ゆるやかな角を持つ白い四角形で、欠けている部分は闇の黒。
このカードがトランプのハートのクイーンだったら、犯人は泡坂妻夫なんだろうな、と思いながら、おれは慎重に画鋲を外し、欠けている部分に指をかけ、カードを外して、自分の推理を確認した。
おれはミドリに、入学式の前日の夜、迷い猫探しのときのことを思い出させた。
「鍵が開けられなくてアパートに入れなかった人がいただろ。そのとき鍵穴に埋まっていた、プラスティックの切片を出してみてくれ」
ミドリは、面倒くさいな、と言いながら、指で空中に四角の、手が突っ込めるほどの窓を描いた。
仮想の窓の縁は一瞬薄緑色に光り、窓は薄赤色に変わった。
どうやら、何かを取り出すときは薄赤色になるらしい。
「ほら」と言ってミドリは、ひとかたまりの紙の切片を図書室の机の上に、なごり雪が舞うような勢いでばらまいた。
正確にはふたかたまりぐらいかな。
「あちこちの店の領収書、ポイントカード、各種割引券……いつのまにこんなに溜めたんだよ。電子レシートとかじゃないのか。だいたい、衣食とか美容に金使わなくても、あんたら異世界人は問題ないだろ」
まだワタルの持ち物のほうが整理されているくらいだ。
なんでも箱のようなアイテムは普通、これこれのもの、と指定するとそれが出てくるだろ。
「整理しなければいけないものも、パフォーマンスの意味で出してみたのよね。すごくない?」
ミドリは紙くず、じゃないな、これから整理するものの上に手のひらを向けると、不要に思えるものは赤く燃えて黒から灰色に変わり、といっても多分演出だろうけど、なんでも仮想箱に吸い込まれて、あとには白い、一片がやや丸くなっている三角形のプラスチックの切片が残った。
切片の一面は白、そして裏面はえんじ色に近い赤茶色。
おれが、手にしたカードを近づけると、その切片は磁石と鉄の切片のようにごく自然にくっついた。
「あ、いかんな」と、おれは言った。
表と裏間違えたので、赤いカードの一角が白い色になっちゃった。
軽く力を入れて、角の裏表を入れ替えると、正しい色に固定された。
つまり、一面は赤、その反対、つまりおれが床から拾ったときの裏面は白。
そして床には、カードと同じ大きさの深淵、天井には闇。
「これはどういう意味なんでしょう?」と、クルミはおれに聞いた。
「わかった、ウルフ、これは犯人からのぼくたちに対する挑戦状ですね」と、ミナセは言った。
「そうだな、犯人は頭がおかしいか、あるいはこの世界がおかしいという、ひとつの仮説がこれで証明できそうだ」と、おれは言った。
「いやいくらなんでも、世界がおかしいなんて馬鹿なことはないだろう」と、ミロクは斜め下を向きながらぼそぼそとつぶやいた。
なんとなく各キャラの役割分担が決まったようである。




