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4-10・天窓を使う方法

 お手洗いから戻ってきたクルミは、どうも申し訳ありません、と言った。


「それで、ちゃんと誰かに会えたかな?」とおれが聞いたので、ななななんのことザマスか、と動転しながら、というより動転しすぎながら答えた。


 おそらく真犯人と軽い会話でもしていたんだろう。


 そして慎重におれたちは、本の探索をはじめた。


 クルミはいささか懲りたようで、くんくんするのは文学系の本に限定している。


 クッキーのかけらが挟まった織田作之助全集、どら焼きのかけらが挟まった佐々木邦全集、おにぎりのノリが挟まった久生十蘭全集……しかしおれは知っている。


 それらはみんな犯人ではなく、部長のミロクがなにかを食べながら読んでいた本なのである。


 片手でも食べられるものばかりだしね。


 結局、さかさまの本のうち、血とおぼしきものがついていたのは1冊だけだった。


「なるほど」と、ミナセは自分の推論を語った。


「これは簡単なトリックで、つまり、なにか小さなことを隠すために、それを大きななにかで隠してるんでしょう。この場合は一冊の本を汚してしまったことを隠すために、一冊だけで逆さまだと 明らかにおかしいから百科事典を含むたくさんの本を逆さまにする……」


「あ、気がついたんだけど、逆さまになってる本の並べかたってなんか変ですよね」と、クルミは言った。


「普通は小説だと著者の五十音順で、日本文学の本だと「あ」からはじまって50音順に、左から右へ並んでます。全集だと1巻から左から右。だけどひっくり返された本は……」


「さかさまの男にとっては右から左に並んでいる。おれたちにとっては、さかさまの本が左から右に並んでるだけだけどな」と、おれは言った。


     *


 この図書室の一部は、明らかに異常である。


 血まみれ(本当は絵の具まみれなんだけど)の床が天井に、ということは、調べるべきところは。


「すこし暑くなってきたので、この図書室の窓と天窓も開けましょう」と、ミカンちゃんは言って、天窓開閉アプリを動かし、紫外線よけのためほかの教室の窓よりやや色が濃い大きい窓を開けて風を入れてくれた。


 手で開けなければならない窓のほうは、すこし力が必要だったけれど、おれたちはミカンちゃんに協力した。


 うす紫色のカーテンと窓によって、図書室全体が薄めの闇におおわれていたのに、おれは気がつき、天窓の位置と広さを確認した。


「ミドリ、お前だったらあの天窓からどうやって出入りする?」


「えーと、魔法とか使ってもいいんよね。一番簡単なのは、ふわふわと自分に浮力をつける方法だけど、視覚的につまらないかなー」


 そう言いながらミドリは両手の親指と人差し指でハート形を作り、どきどき、と自分の胸の上で動かして、これで視聴者サービスは終わりね、と言った。


 両手をぱん、と叩いて広げると、7層の色の異なるプレートが生まれ、クレープを広げるような感じで右手を動かすと、そのプレートはヒトの両足が乗っても大丈夫なほどの広さになった。


 それを天窓のところまで、幅と角度を計算しながらミドリは並べ、とんとんとん、と

登っていった。


「マジカル・ステップ!」


 しかしまだ犯人はどのような方法で入ったかは不明だった。


 天窓は在校生ならほぼ誰でも、天窓の開閉アプリは持っている可能性はあるのだった。

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