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3-9・ミドリの本格的な魔力をすこし出す

 アカネにはDV系のカレがいて、今は元カレ、というのがミロクの判断で、キジネコの飼い主からアカネのマンションに行く途中、ミロクは自分の推理を教えてくれた。


「それは、たぶんクロサだな」


「要するに、ミロクの兄さんの相棒ですね」


「その設定は忘れろ。DV男がうまいことクロサであるわけないだろ。曖昧だけど存在感のあるその男を、Xとでもしておく」


 ミロクの右側にはおれ、おれの両肩にはボスネコとカリカリの袋。


 ミロクの左側にはクルミが、最近遊ばなくなったネコのおもちゃをいくつか持って、いつの間にか袋を開けて出したカリカリをかじりながら歩いている。


「どうします? 片づけますか、そいつ」と、クルミは言った。


「いくらなんでも、リアルに存在してる人物を、いないことにしちゃうのは無理だ」


     *


 ミロクは、マンションのドアの右下側を気にしながら入った。


 かがんで、もし虫眼鏡を持っていたら、名探偵みたいに細部を確認していただろう。


 アカネは、自分が使うのよりはやや大きな、色あいは確かに男前とは言えない程度のスリッパを出し、ミドリはおれに、ちょっと嗅いでみろ、と言った。


 ここで、その手の描写をしてもいいんだけど、たいていの語り手は、いい匂い、とか、気持ちいい手触り、みたいなものは描写しても、嫌な体臭とか、不快な触感に関する描写は、ホラー小説でない限りは省略するものである。


 だから、おれはこう言った。


「くっさーっ!」


「しかしこれは、別にウルフに嗅がせなくてもいいものなのね」


 そうなのかよ。


「ここはひとつ、花の妖精さんを呼び出して手伝ってもらうのね。はい、出てきて」


 花の妖精は、大きさ10センチほどで、黄色から赤紫まで複雑な色の鱗粉を身にまとい、背中には半透明の羽が生えていた。


 そして、おれにとってはくさかったスリッパに興味深そうに近づいた。


「妖精さんは、小さいと小さいことしか考えられない、っていうのと、ヒトによって存在している、つまりヒトが手を加えたりしたものに直接触れることができない、というのが難点なのね。あと、花の妖精はくさいものが好き」


 妖精はミドリと、異世界語っぽい語で会話をして(「だら、だっぺ、ずら」みたいな語が混じってたから、単なる静岡方言なのかもしれない)、お互いやって欲しいことと報酬がまとまったらしい。


「それではお目にかけましょう、千匹妖精!」


 そうすると、ひとりの妖精は細かく分裂して、羽虫程度の大きさになり、ミドリの開け放した窓から、羽虫の大群のように飛び出していって散った。


 ところで、妖精を数える場合「匹」とかを単位にしていいんだろうか。「柱」というほど神っぽくないし、「人」では明らかにないし。


「この周辺50メートルほどなら、5分ほどで『もうひとつの鍵』を見つけてきてくれると思うのね。報酬は、高級メイプルシロップひと瓶なのね」


 どこになにがあるのか、はわかっても、妖精の能力では持ってくることができないらしい。ミドリは、やれやれ、と口にしながら、コートを片手に持って、ぱたぱたと汚れをはたきながらスタンバイした。

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