3-6・迷いネコ問題と新たな謎
築10年以内で、都心まで30分、駅から5分というこざっぱりしたマンションは3階建てで、家賃はそれなりにするにしても、外資系とかIT系企業に勤める若い女性が住むには手頃な場所だったろう。
おれたち、というより本職探偵のクロキが受けた依頼は「部屋の鍵なくしちゃったんで、なんとかなりませんか」という、ごく普通のもの。
この「なんとか」、というのは、まず部屋に入れるようにすること、つぎになくした鍵を見つけることだ。
そして部屋の住人以外の誰にも入られないようにすること、と、部長はつけ加えた。
*
その問題を解決する前に、おれたちはキジネコを元の飼い主のところに返しに行った。
まず、最初に交渉にあたったクルミが、飼い主と顔なじみになっているので先頭をゆき、次にネコの抱きかたに関しては無理のないミロクが続き、肩の上にボスネコを乗せたおれ(けっこう、どころかものすごく重い)。
そして、ミドリとワタル、それに探偵ふたりは別行動で、マンションの住人に、事情を聞いて問題解決をはかる、ということにした。
*
キジネコとその飼い主の住んでいた家は一軒家で、まわりが新興住宅地になる前は昔ふうの農家のようにも思えたぐらいの広さがあった。
飼い主は、適度にふっくらした初老の婦人で、旦那は建設業の社長をしている、とのことである。
要するに金持ち、ということだな。
おれは、謝礼金がっぽり貰えそうですね、、と、ミロクに言ってみたけど、部活の奉仕活動の一環で、金をもらうのはどうもなあ、と、常識的なことを返された。
ミロクは、現在の部員の中ではもっとも常識的な人物なのである。
無駄に謎とか事件とかを求めたり、こんなのが真相なわけがない、と、エラリー・クイーンみたいに話をちゃんと終わらせたくない、という性癖を除けば、のことではあるけど。
数時間前にやんだ雨のせいで、大気はどこか湿り気を帯びていて、やや強めの風の動きは、おれたちが着ていた春&夜向きのコートのフードを頭からかぶるには十分な寒さだった。
フードにはなぜか、ミロクのものにはネコ耳、おれのものにはイヌ耳がついていた。
対人交渉に自信がある(自称)クルミは、お礼にカリカリを一袋もらいました! と、おれに相談もなく、ボスネコが乗っている肩の反対側に袋を乗せたので、けっこう苦しかった。
しかし、あら、うちのネコちゃんはそこまでふっくらしてはいませんわ、みたいなこと言われなくてよかったな。
余談だけど、昔の研究では、肥満は遺伝によるもの、という判断が一般的で、たしかに家族写真をみているとふっくら家族はみんなふっくらしていることは事実である。
しかし、そういう家族のペットも、たいていはふっくらしている、ということによって、遺伝的要素はそんなに大したことはないのでは、ということになっている。
「あそこにあるマンションって、ひょっとして奥さんがオーナーなんですか」と、おれは聞いたら、やはり、そうだ、という返事がかえってきた。
「なるほど、迷いネコと失われた鍵は、なにか関係がありますね」と、おれはミロクに言った。
ミロクは、手のひらを上にして上下に動かした。
これは、その話をもっと続けてみろ、という意味である。
「えーと、古代エジプト王朝の生き残りが、砂漠にこっそり秘められた秘宝のありかを、複数の集団に別れて探していて……」
ミロクは、手のひらを下にして上下に動かした。
これは、もういい、という合図なのである。




