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10-2・ここはわたしにまかせて

 地下迷宮のさかさまの壁、つまり上の壁にワタルが落ちていくのを、おれたちは見ていた。


 ワタルは手を振って、どうということはない、という自分の状況を示し、しだいに小さくなっていくワタルの姿は、ひとりでに元の壁と区別つかない壁によってふさがれた。


「まずひとり、か」と、ミナセは言った。


 これは魔王、つまりモリワキとの最終バトルの前に、今までの仲間がひとりずつ消えていくパターンなんだな。


「いろいろ申し訳ないのね」と、ミドリは言った。


 まったくだよ、と思ったけど、ミドリの考えもやはりそうだったのか。


「リアル世界に、自分たちの非リアルが入ってしまったので、世界の非リアル度が上がってしまったのよね。もう元のリアルには戻せなさそうなのね」


「えっ、じゃあこのあと、リアル恋愛展開になって、みんなで夏休みに海に行くとかも、おれがクルミを好きだと思う気持ちも、展開的には、なし?」


「またまたぁ、ウルフがわたしを好きだってのはわかってますよ!」と、クルミは本来の力の1/10ぐらいの強さでおれの脇腹を叩いたので、おれは悶絶した。


 しかし、今までの話の中で、おれとクルミの恋愛要素・エピソードってあったっけ。


「なお、みんなで夏休みに海に行く、というのは非リアルなのね。それもひと昔のラノベの」と、ミドリは言った。


「ウルフ……今まで隠していたけど、わたしはウルフが好きです……なんちゃって、ぷっ」


 クルミよ、「なんちゃって」はともかく「ぷっ」はないだろ。


     *


 地下迷宮じゃなくて通路を進んでいくと、壁の色が橙から黄色に代わり、前方、両側の壁に中国の古代戦士みたいな像が複数並んでいるのが見え、おれたちに気がつくとゆっくりと壁から体を離して動き出した。


 手には切れ味のよさそうな剣を持っていて、ワタルが回避した罠よりも面倒くさそうである。


「うーん、ここは自分の土魔法で回避するしかないのよね」


 ミドリは、地面がむきだしの足元の土に手を広げると、土がゆっくり盛り上がってヒトの形になった。


「相手の一体に、ゴーレム三体ぐらいで足止めさせるから、他のみんなは先に行って、なのね。ここで自分が残らないと皆殺しなのね」


 きみが残るならぼくも残る、とミナセは言うけど、あんたいてもなんの役にも立たないから、とミドリは言い、おれも心の中で思った。


 どうせ本気の言葉ではなく、嘘の言葉なんだろう。


 ただ、ミドリをここに残しておくのは先ざき不安なことではある。


 しかし確かに、おれたちにすることはないので、鎧と剣を持つ古代兵士が剣をふるう音と、ゴーレムゾンビが兵士の足元をすくって転ばせる、きんがしゃ、という音を後にして、通路を先にすすむと、黄色の壁はうす緑から濃い緑色に変わっていき、足元に白く光るものが見えた。


 それはヤマザキ春のパン祭りでもらえるような平たい皿で、皿の上にはチクワのようなものが3本置かれていた。


「これは…………チクワですね」と、クルミは用心して、皿の上で鼻をくんくんさせながら言った。


「やはり出たか。この皿の上のものを取り上げると、軽くなったおもりで別の仕掛けが自動的に……なんで素早く食べちゃってるの! 人の話を聞けよ!」


「もぐ、ただのチクワだと、もぐ、確信が持てましたので、はい、はい」と、クルミはおれとミナセにも、もぐもぐしながらチクワを1本ずつくれた。


 スーパーで売っている、3本でいくら、という、おでんの材料になるようなチクワで、味は普通。


 変なのは、チクワが置かれている場所でしかない。


 しばらくすると、遠くから、ごごご、という音がして、上の壁から細かい石の切片が床に落ちた。


 音はだんだん近づき、その正体は丸い大岩だということがわかった。


 横幅は通路一杯で、上のほうには隙間があるけど、回転が早すぎてすりぬけられそうにない。


 逃げるにも、ヒトが走るより転がる速さのほうが勝っていそうだ。


 ここは、ミナセをつっころばして、大岩の回転を止めるストッパーにするしかないか、と、ミナセのほうを見たら、おれと目を合わせたミナセは、うん、とうなずいた。


 どうやら、おれと同じ考えらしい。


 ミナセは、おれをストッパーにしようとしている。


 でも、あの勢いと重さだと、ヒトの体では押しつぶされるだけなんじゃないかな。


「ここはわたしにまかせて!」と、クルミは大岩の前に立ちふさがった。


 なに? クルミって魔法少女? 人造人間? 義体?


 しかし、大岩の動きはクルミの力でゆっくりと止まり、その上には1メートルほどのすきまがあって、おれとミナセはくぐり抜けて行けそうだった。


「この岩は、誰かが止めていないと動いてしまいます! わたしにかまわず先に! さようなら、今までありがとうございました!」


 そんなわけで、おれは頼りになる仲間3人に助けられて、通廊の大広間に向かった。


 もはや仲間は、頼りにならないミナセだけである。


 壁の色は金色に近い白に変わっていた。

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