10-1・さかさまの歌
翌日おれとミナセが部室へ行ってみると、たくさんあった段ボール箱がきれいに片づけられてすこし広くなっているように見えた。
どうせミドリがやってくれたんだろう、助かるな、と思ったんだけど、朝練、つまり武闘と魔法とネコのしつけから戻ってきた一年生の異世界人3人は仰天した。
「待て待て待てぃ、これは……モリワキ団のせいに決まってる!」とおれは言った。
そして、床の間の掛け軸が代わっていて、このような文字のものになっていた。
『ずいぶん待った 先に行く
部長と部室の宝物はあずかった』
手書きの文字は見慣れぬ誰かのもので、部員ではないことは確かだ。
おれだったらもっと赤っぽい字だし、ミナセなら曖昧な字、クルミは王族っぽい字で、ミドリは読めない字、そしてワタルはネコっぽい字のはずである。
部長は……様子がいい字だったような……よく考えてみると、ミロクの手書きの文字って見たことなかった。
「ふむ、いよいよ本気出してきましたね、メタクソ団」とミナセは言ったけど、モリワキ団である。
一文字もダブるところはないだろ。
「ああああわてないで、段ボール箱はどこに消えたのか、ままままずそこから」と、クルミはあわてながら言った。
ワタルは茶室を摸した部室の一角の、畳敷きの部分を、くんくんと嗅ぎまわって、犯人のゆくえをさぐろうとしている。
「どうやら特級呪術が使われているようで、自分の力では手がかりにまで及ばないのよね」と、ミドリはがっかりしている。
ここだ、とワタルは一枚の畳をばん、と叩くと、手のひらに吸いつくように畳がまくりあがり、下の板には次のような字が墨筆で書かれていた。
『入口』
床の間の字と同じような者が書いたと思われる。
しかし「出入口」じゃないのは気になるな。
「たぶん罠だと思うんですけど、入ってみましょう! 地下迷宮なら自信があります!」とクルミは言う。
でも、それならおれを先頭に立たせようとしないでしないで欲しい。
*
地下への入口はせまかったけれど、中は十分に広く、上部の壁まではおれの背丈でも2メートル以上の隙間があるくらいで、左右は高校生ふたりが並んで両手を伸ばしても問題ないぐらいだった。
電球とは異なる、橙色の光で壁が満たされていて、奥はどうやら別の色になっているらしい。
水が流れ落ちる音が歩くにつれてだんだん近くなり、おれたちは音の源へたどり着いて唖然とした。
「さかさまの滝!」と、ワタルは言った。
黒い水は垂直に、下から上へと流れ、ごうごうと音を立てながら闇の中へ消えている。
足元には地底湖が、不気味な静けさと深さで、けっこう大きく広がっている。
どこからかギターの音と歌声が聞こえてきた。
ここはさかさま/おれたちいかさま
あんたたちなにさま/おつかれサマー
上を見上げると、ああ、それは恐ろしい……いつものクロキとクロサが、さかさまになって、つまり上の壁を下にして、おれたちを見下ろして? 見上げて? いた。
「どうかな、さかさまの歌。ところでなんできみたちさかさまになってんの?」
おれは事情を説明した。
「それだったら、湖を右のほうに行けばいいんじゃないかな」と、クロキは言って指さしたので、おれはお礼を行って左のほうに進んだ。
さかさまのヒトの「右」は、そうでないヒトの「左」なのである。
「なるほどー、ここが拙たちの池の水源だったのか」と、ワタルは言った。
おれたちは2列になって、橙色の光の中を進んだ。
先頭は戦闘能力の高いワタルとクルミ。
その次にヒトなみの戦闘力はあるミナセとおれ。
最後に魔法でしか戦えないミドリ、の順である。
しばらく進むと、ワタルは、待て、という合図をした。
「この先に仕掛けがあるから、拙がまず行こう」
ワタルは立ち止まり、息を大きく吸うと走り出した。
すると、両脇から多数の、金属の刃を持った槍が突き出て来たのを、ワタルは器用にかわした。
「……と、拙の真似をすればいいのだ。簡単だろ」
無理です。
槍は一度出たらひっこむ、ということはないようなので、おれたちは隙間を苦労しながら、這ったり体をくねくねさせながら通り抜けた。
「盗賊避けの工夫がいろいろあるんだな、みんなも……あ、あれ?」
ワタルは落とし穴に落ちた。
正確には「下の穴」ではなく「上の穴」に、である。
つまり、さかさまに落ちた。




