9-2・そいつは本物じゃなくてニセモン
「えーと、どこにあったかな」と、ミロクは部室のすみに積み上げてあった段ボール箱をいくつか開け、中身をちらばらして、ようやくお目当てのものが見つかったらしい。
「これこれ、踊る黄金像」と、ミロクはおれに手渡した。
高さは30センチほどで、片手と片足をあげ、もう片方の手は腹のあたりで横に曲げている、全体の形はかつてのネットであった「立ちあがって踊っているネコ」とよく似ていた。
色は金色だけれど、ところどころはげているし、全部が純金というほどの重さはなかったので、中はおそらく空洞だろう。
おれが残りのみんなに回している間に、ミロクは像を固定させる台座も見つけてきた。上面が1辺10センチ、下面が15センチほどの立体台形である。
上げていない片方の足はネジ式になっていて、台座の穴に回転させていれると、ちゃんと立像になる。
「これ、いったいなんなの? 金塊じゃないよね」
「夢のかたまり~~、という、マルタ騎士団の秘密の宝みたいなもんじゃなくって、第二次世界大戦中の日本が敗戦時、東南アジアの某所に隠した軍用金、つまり貴金属や宝石類のありかを示した地図の役目があるらしい」
ミロクはミドリに、塗装がハゲてるところ魔法でなんとかならないかな、あっ、そんなにぴかぴかにしないで、シブく光ってる感じで、と指定して修復させたので、なんとなくお宝っぽくはなった。
「なるほど、それだったらモリワキ団が狙うのもわかります。それではわたしたちは、この像を奪われないうちに東南アジアの現地に行って」と、クルミは携帯端末をさっそく見はじめた。
多分、電車の乗り継ぎとか飛行機の予約みたいなのするんだろうけど、異世界人の3人はともかく、おれはパスポート持ってないんだよな。
ネット申請すれば数時間で、ネットパスポートは手に入るんだっけ。
「いや、そいつは本物じゃなくてニセモンだから。現地のヒトが観光みやげに、ずいぶん昔から売ってるんだ。私のひとつ上の茶道部の先輩が、修学旅行で買ってきてくれたんだよね」
「それじゃ本物の宝は手に入らないんですかー」とクルミは、装着していたウサ耳を垂らしてがっかりした。
「ただ実は本物の「踊る黄金像」もこの学校にあることはある。数十年前に現地のヒトが間違えて、当時の修学旅行生のひとりに売っちゃったのが。今、校長室の金庫にあるから、モリワキ団に狙われてるんだ」
*
怪盗が現れるという時間のすこし前に、ワタルをのぞくおれたちは校長室に行った。
途中には何人も、黄色い腕章と黄色いタイをつけた、生徒会委員と思われる人間が身元チェックをしており、おれも何人か知っているヒトもいた。
校長室の応接セットは片づけられて広いスペースが設けられ、その中央に金庫が置かれて、それをさらに複数の生徒会委員が囲むようにガードしていた。
「やあ、ほぼはじめまして、ぼくが生徒会長のルークです」と、何人かの関係者と打ち合わせをしていたらしい人物が、おれたちに向かって声をかけた。
腕章とタイは他の一般委員より高そうに見えたし、物腰もおちついてしっかりしているし、直接の面識はないけど、去年の生徒会長就任の挨拶は、リモートだけれどおれも見ているから顔は知っている。
問題は、生徒会長と名乗るこのヒト、首から上の顔を三角形の、クー・クラックス・クランかワルモノのボスみたいな感じの覆面で隠していたことだった。
「こないだから顔と手足に、ひどい炎症ができちゃってね。医者の見立てによると日光過敏症とのことなんだ。今は夜だから日除けマスク外してもいいんだけど、ヒトに見せられる状態じゃなくって」
そう言いながらルークは、片手の手袋をはずしておれたちにさらした。
全体に赤く、ところどころは赤黒くなって痛そうな感じなので、たぶん嘘は言っていないだろう。
「きみがモリワキだったのか」と、ミナセは聞いた。
ははは、と会長は笑って、だったらどんなに簡単なんだろう、と答えた。
*
校長室の中央に置かれた金庫はふたつあった。
銀と黒の、外形の色以外には違いはほぼないように思われた。
「踊る黄金像は、あまり知られていないけれど、校長室と生徒会室のふたつの金庫に、それぞれひとつずつあるんでね。安全のためにひとつの場所に置いておくことにしたんだ、大変だったけど」
確かに、生徒会室の金庫を運んだと思われるカートが、部屋の隅に畳んでおかれていた。
校長室は2階で、生徒会室は3階だから、バリアフリー&業務用のエレベーターを使って持ちこんだんだろう。




