8-4・本番は「あやかしの葉公園」の野外ステージ
「レイチェルも音楽祭に出る……んですよね?」と、思わず敬語になってしまう。
「ん? あたしは出ないよ。合唱部でも軽音楽部でもないからね。部活はリンドケルト部だし」
また謎の部活が出てきたな。
「こう、みんなでケルト編みをしながら、ヒトの噂話するんだよ、ねえちょっと聞いた、◯◯さんの件、またアマング・ラバーなんだって、みたいな」
among loverというのは「恋人と恋人の間状態」、つまり「恋人募集中」という意味である。
「要するにリンドってのは……隣人?」
確かにレイチェルと言えばレイチェル・リンド夫人で、『赤毛のアン』でもとりわけ噂話が好きなキャラクターだ。
ちなみに夫の存在はほぼ知られてないけど、ちゃんと「トマス」って名前を持っている。
「じゃあ、撮影用に小さい妖精を120匹、照明にその半分ぐらい用意しようかな」と、レイチェルは言ったので、おれは疑問に思った。
「妖精って、「匹」で数える……んですか?」
「だって、こんくらいの大きさだよ」と、レイチェルは親指と小指で、大きめのハチぐらいのサイズを示した。
……なんだろうな、冒涜的な気もするけど、ヒトじゃないんだから「何人」って言いかたは変だし、何体? 何柱? 何頭?
「撮影カメラ・照明ライトのちっちゃいの持たせても、ほとんど邪魔にならないからねー、ぶんぶんうるさいドローンと違って。実働するのは常に用意した数の半分、あんたの仕事は妖精の飲食のためのハチミツを切らさないこと」
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そして当日の朝になった。
会場は「県立あやかしの葉公園」という、いかにもあやかしげなところで、野球場や陸上競技場、それにサッカーの練習場やスワンボートのある池も付属している、季節の花や樹木が美しいところで、野外音楽堂も当然ある。
おれたち、というより新一年生の女子3人の出番は最後から2番め、つまり特別ゲストを除くと一番最後で、現場での最終リハーサルは早朝、つまり本番とは逆の順番で行われるから、一番最初ということになる。
特別ゲストは本番にしか来ないことになってるから、と、照明と音響のテストはミロクとミナセにまずやってもらった。
げっそりやせた、じゃなくて、いささかふっくらしたミロクのドラムのまわりを、薄紫色のドームみたいな感じで「加速魔法」の結界を張らせると、だいたい3倍速ぐらいでもヒトに聞かせる程度の腕にはなったのだ、と、ワタルは説明した。
素人にはものすごくうまいように思えるんだけど、いやー、まだまだなのね、とミドリは言って、7弦ギターというヘビメタバンドが愛用していたギターをアンプにつなぐと、ぎゅんぎゅん音を鳴らす。
夜明け前のトワイライト・タイムなので、聴衆は近くの森に巣を作っているカラスしかいない。
その日、ワタルは農作業用の軽トラックをヤマダに運転させて「土」を運んでいたけど……あやしい。
ミドリは、インスタントコーヒーの空き瓶ふたつほどに入った黄色い粉を持ってきたけど……あやしい。
歌とダンスのグループ名は「キャリーズ」って……ますますあやしい。
本番ではゾンビメイクをするのです、とクルミは、ゾンビが着ているようなボロボロでキューティな衣装を用意してて、演目はマイケル・ジャクソンの例のやつ。
……嫌な予感しかしないけど、もはやたぶん手遅れなのである。
ミドリがステージの広さを確認して、庵のそばの池で練習したダンスを微調整して、いちおう60匹ほどの妖精カメラにもリハーサルの最中から撮影してもらうことにしたため、いろいろ、主にハチミツの準備が大変だった。
音響には妖精を使わないのは、ぶんぶん、ぐるぐる音が回ってたらおかしいだろ、とレイチェルが言うとおりなので、ミナセもそっち方面の特訓を、体感時間として100時間ほどはやったらしい。
おれたちいつも日の出前になんかしてるよねー、そうだよねー、と言いながら、町内会のみなさんに挨拶をしたあと、仮設テントで仮眠を取ったら、もう音楽フェスティバル本番の時間が近くなっていた。
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最初はまず、ネコの女子中学生二人組による「ねこのコロブチカ」。
ふだんは都内のあやかし喫茶でメイドをしているけど、女子中学生のときもあるらしい。
次は、近所のおばさん、たぶんオークじゃないほうのヒトによる演歌「銀河兄弟船」。
あんまりこういうのには馴染がないけど、コブシがんがん聞かせて、日頃鍛えているらしい。
さらに、近所の小学生が女子高生メッセンジャーズのインプロビゼーション多めな演奏に合わせて歌う「きらきら星」。
途中にインターミッションとして、耳が不自由なヒトでも楽しめる手話劇や手品などもはさんで、きょうだい校の合同偽校歌合唱「秩父の山麓にこだまする/ああわれらの◯◯高校」、いとこ校有志による四季の歌「春になれば/思い出す/誰かさんが/通り過ぎてゆく」、きょうだい町内会の関係で都内の神社から来てもらった7人組ダンスユニット「ヒュドラズ」の「恋は無門関」、「電子にかえって仏性ありや/無」などと続く。
春の長い夕暮れも、ようやく沈んできたので、ステージは盛り上がってるけど、両親と一緒に来ていない小学生は引き上げて、おとなの観客が多くなってきている。
なお「リンド部」は『アン・シャーリー』の二次創作で出るし、「ネコの女子中学生二人組」は、作者と登場人物が密談してる場所で働いてるし、「いとこ校有志」や「ヒュドラズ」も別の話に出てます。当然エタってるけどな! ……がんばって続き書きます……。




