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8-3・ウルフとミナセだけにしかできない仕事

 クルミたちに使える加速魔法にはふたつの欠点があるらしい。


 ひとつは、加速すると年を取るというので、これは10倍速なら普通のヒトの10倍の早さで生きることになるから仕方がない。


 ただし、エタり人というか異世界人? 物語の中の登場人物の実年齢は「物語が作られ始めてから」ということになっていて、クルミによると回想とか過去の出来事に関する話は「嘘っこ」、つまり模造記憶なので、本当は何歳なのかと聞かれたら曖昧な答にしかならないのだ。


 もうひとつは、単純にお腹が減る、要するにカロリーを大量に必要とする、これはクルミたちも同じらしい。


 したがって、おれとミナセを除いた残りの部員は、加速魔法をおぎなうための「マジック・ビーンズ」、要するに魔豆を使うことになる。


 それはひと粒で1000キロカロリーあって、ヒトに対しては10時間の時間経過回復力を持ち、大きさは1センチほどで、ミロクの話によると「とてもまずい。砂みたいな味」だそうである。


 おいしすぎると食べすぎちゃうから、そうなっているのよね、とミドリは説明した。


 つまり、ミロクはマジック・ビーンズを食べながら、音楽祭までに楽器がそれなりにできるよう特訓しているのだった。


 とりあえず手はじめに1時間やってもらったけど、センスあるよ先輩は、とミドリは言った。


 ちなみに練習している楽器はドラムなんだけど、加速魔法は対人だから、エリア魔法で補佐してやんないと楽器壊れちゃうのよね、とのことである。


 しかし確かに体感時間で10時間も練習すればヘトヘトになるだろう。


「この調子で1000時間も叩けば、ドラム選手権高校生部門の県大会出場ぐらいのレベルにはなるのだ」と、ワタルも保証した。


 えーと、実時間で100時間、ミロクの体感時間だと40日ぶんぐらい。


 そんなハードな練習すると、ふとっ……ふっくらした体型になったりしないの、と、おれは小声でワタルに聞いたら、ドラマーはどのバンドでもいちばんふっくらしたヒトがやることになっているではないか、と言われた。


 確かにそうなんだけど、ドラムが原因なのかは不明なんだよなー。


「ただ、私たちのバンドはゲスト出演なので、正式参加じゃないんだ。だから部としての活動実績にはならない。そこで別枠で申し込んでみたんだけど」と、ミロクは生徒会委員のアヤコのほうを見た。


「えーと、みなさんはあやかしではないんですね? わたしのあやかしアンテナがときどきビクッと反応するんです」と、アヤコは髪の毛の寝グセにも見える部分を撫でながら言った。


 違います、とクルミは言い切った。


 たしかに、あやかし系ではないね、それに後宮の女官系でもないけど、ヒト枠として参加してもいいんだろうか。


「魔法使用は問題ありませんか?」


「えーと、生徒会長と町内会長に確認してみます」


 30秒ほどして返ってきた通知は「祭りを盛り上げるためなら何やってもオーケー。違法でない限りなら」とのことだった。


 魔法は違法には含まれないらしい。


「じゃあ、演目を決めないとな。何やろうか」


 剣舞、というワタルの意見は、単に聖剣の使いごこちをあやかしで試したいだけだろうから却下するにして。


「わたしたち3人の歌と踊りですね。ミナセは音響、ウルフは照明と舞台設営と撮影その他の雑用」


「えー? おれだって歌と踊りできるよ?」


 ミドリはおれの肩を、ぽんぽん、と叩いた。


「これはウルフにしかできない仕事なんよ。まかせるよ」


 そうかー、まかされちゃったかー、って、そんなのにだまされるわけないだろ。


「大丈夫、強力な助っ人を頼むから」


 なお、当日はうちの学校の合唱バドミントン部も参加する予定なんだけど、河原のゴミ拾いで助っ人になってくれた、アルトの声の美少女であるコミーは、ごめん、当日は負けられないバドの試合があるんで、合唱練習に参加・当日出場は無理なんだ、客席で応援するよ、という話である。


     *


 その日の放課後に来たのは、うちの学校のきょうだい校である制服を着た女子高生で、おれもその制服を脱いだ女子高生たちに限定しては見覚えがあった。


 先日、逆さまの図書館から望遠鏡で覗き見ができた学校だ。


 レイチェル、というスクールネームを持つその子はレッド・ツェッペリンのドラマーであるジョン・ボーナムなみに立派な体格と太い足を持っていて、相撲部のかたですか、と思わず聞いてしまった。


「あたしは妖精つまりピクシーのボス、親方だよ、何言ってんだよ」と、レイチェル様は言った。


 スクールネームは原則として先輩・後輩関係なく「さん」「くん」といったものはつけないんだけど、なんか「様」をつけたくなる雰囲気なのである。

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