前編
「騎士としての務め上、王命には逆らえぬ
でも、だからこそ、騎士としての責務を終えた後は
私個人として、君を本当の妻として生きていきたい」
そう言って、己を抱きしめる男を愛おしそうに抱きしめ
女は幸せそうに微笑む
「何時いつまでも、あなたとどこまでも共に……」
それはまるで一対の絵のように、美しい愛に満ちた光景
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この世界が瘴気に満ちて
辺境の山々から魔獣が山から下りてくるようになったとき
瘴気に耐性を持つ陽の気が強い魔力持ちの男が魔獣を狩り、国を守った
そして、瘴気を浄化できる陰の気を持つ魔力持ちの女が
魔獣を狩ることで男に溜まる瘴気を時に宥め、時に己の身に飲み込んで
男たちの身心を守り、支えた
それがこの国の騎士であり、貴族であった
結果、騎士とその妻となるべき者というのは
性格の相性や己の心など全て無視され
それこそ、家畜の交配のように番うことを望まれた
それでも、互いが互いの責務を理解していた頃は
問題はなかった
だが、日々、戦いに身を置き、命の保証のない日常を送る騎士たちは
段々とすべてを宛がわれる人生に疑問を持ち
理不尽を呪うようになるのも当然といえば当然だった
だから、彼らは辺境の手前、衛星都市と呼ばれる
魔獣から採れる物資の手配などで潤う商業都市にある娼館に
己の唯一を作り、愛した
それは国のために生きる騎士たちにとって
唯一の生きがいであり、当然の権利と考えられた
衛星都市にはそんな風に
責務を終えた元騎士とその最愛たちが自然と集まり
「真の心臓」と呼ばれ、栄えた
先の誓いを立てた男、アレンはそんな極ありふれた騎士の一人で
誓いを受けた女、メアリーもまた、衛星都市によくいる娼婦の一人だった。