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面接

 驚いた表情をしたのも束の間、すぐに元通りの表情に戻った。


「すまない。勘違いしてしまったようだ……しかしここまでの獣化は中々……」

「ニャー」

 褒められたのかよく分からず。また出てしまった。


「えっと君……あー、まだ名乗ってなかったな。私はここの領主を務めている。ダガー・シュリントだ。よろしく」

 そう言ってダガーは手を差し出す。私は慌てて手を握り挨拶を返した。

「ニャー……私はソフィアです。ソフィア・クリストファー。よろしくお願いします」


 挨拶が終わるとダガーはソファーに腰をかけた。そして手の平を表にし対面の椅子に座るように促した。

 私は促されるまま対面に座る。

「さて、獣王についてだったかな」

「あっ、はい」

「三大氏族については知っているか?」

「ニャー?」

私は首をかしげる。


「そもそも氏族については?」

「えーっと」

私はそっと目を逸らした。

そんな私の仕草を見るなり、ダガーは扉の向こうに大声で呼びかけた。

「ジーノ!!」


——コンコン


「入れ」

私の時と同じように低い声でダガーがノックに返事する。


——ギィィ


 鈍い音をたて扉が開く。

 その音と一緒に入ってきたのは、私をここまで連れてきた紳士であった。

「どうかなされましたか?」

「獣王について説明してやってくれ」

 どうやら説明するのが面倒になり全部丸投げしたようだ。


 年は五十代くらいだろうか。彫りの深い顔には年相応の皺が刻み込まれている。白髪の髪は綺麗に撫でつけられオールバックとなっている。背は高く、背筋を伸ばし姿勢が良いため若々しい感じもする。

 彼の名前はジーノ・オルガー。領主の秘書をしており、この領地の執務の実質的なトップとなっている。


 そんな彼は困惑した表情でダガーとソフィアの顔を交互に見た。

 指示を出したダガーはこれ以上何も言うつもりがなさそうだ。ソフィアの方はどうして良いか分からないような表情をしている。


 ジーノは短いため息を吐きソフィアに向け質問をする。

「経緯を伺っても?」

「ニャー……あっ、えーっと。私の姿を見てダガーさn……様が獣王とかなんとか言ったので……何かなと……」

 まさか自分が説明することになるとは思わず、しどろもどろになってしまった。


「なるほど……左様ですか……」

 ジーノは右手の人差し指で顎を撫で少し考える。

「氏族も知らないそうだぞ」

 ダガーが皮肉めいた口調で補足をする。私は肩身が狭くなり縮こまってしまう。


「まぁ、その氏族という名称も田舎の方だと用いることも少ないかと。

 うーん、そうですね。我々魔族が多種多様な見た目や能力……それこそあなたのような獣の特徴があったりします。

 これは子どもが生まれる時にかける魔法によるものだと言うことはご存知ですか?」

「はい、ママが教えてくれました」

「はい、そうですね。そうやって代々魔法のかけ方を継承しながら肉体を変化させていくのです。

 おそらくお母様もソフィアさんと同じように獣化している方ではないですか?」

「はい。ママだけじゃなくみんな同じ感じです」

「ほう。でしたらその村全体で一つの氏族なのかもしれませんね。

 なるほど、ソフィアさんの獣化が見事なのはそのためかもしれませんね」

「私ってそんなに……なんと言うか……凄いんですか?」

褒められても実感が持てなくて、思わず聞き返してしまった。


「ええ。凄いですよ。

 魔法で肉体を変化させるといっても、急激に変化させようとすると無理が生じるものです。お腹の中にいる子に魔法をかけるのですから、成長と共にその変化が無くなったり、その変化が成長の妨げになったりと……

 なので子、孫、ひ孫と年月をかけ徐々に体を変化させていく訳です。

 まぁ、体を変化させるというよりかは体を作る設計図を徐々に書き換えて行くイメージに近いですかね。それを進化という人もいます。

 なので、ソフィアさんほど獣の特徴を取り入れている状態は非常に長い年月をかけて体を作り替えて進化していると言えます」

「ニャー」

 そんなに言われると少し照れてしまう。


「体を作り替えるのには長い年月が必要なのは理解してもらえたかと思います。

 一代で出来ないことなので家族の繋がり、家同士の繋がりが重要になってきます。

 家同士が繋がる時にどちらかのうじを名乗ることになるので、家の集まりが氏族と呼ばれるようになったのです」

「ニャー」

 最初はこの癖で相槌を打つのも失礼だと思えたが、もう慣れた。


「氏族は一つの進化の到達点を目指す集まりと言えば分かりやすいですかね」

「あぁ、なるほど」

 その表現は分かりやすい。なんとなくわかった気になれた。


「それで獣王についてなのですが、獣化に特化した氏族のサウザンド家がそう呼ばれていたのです」

「…………ニャー?」

私とジーノは顔を見合わせた。

「それだけですか?」

こんだけ前置きがあったのだ、他にも何かあるだろう。長い話を聞いていく中で、そういった期待が私の中に出来上がっていたのだ。


「説明しようと思えばサウザンド家についてや、衰退して行った理由などありますが……長くなりますよ?」

「もう十分だ」

 ダガーがストップをかける。


「本題に入ろう。面接なんだろう。

 ジーノ。なんの応募だ?」

「あなたの付き人です。それにもう合格ですよ」

「はっ?」

ダガーが驚いた表情を見せる。


「あなたが追い出さなかった時点で合格です。

 それに関係ない質問にまで答えようとしていたことを考えれば花丸ですね」

「おいおいおい!!そんなの聞いてないぞ!!」

「まぁ、言ってないですからね。ダガー様は気に入らない者はすぐ追い出すじゃないですか」

 そのことが本当なのかダガーが言い返せずにいる。


「明日からよろしくお願いします。今日はお疲れでしょうからもうお休みになられて大丈夫ですよ。従業員用の部屋に案内いたしましょう」

 ジーノは扉を開け、退出を促した。

 私はペコリと頭だけを下げ扉から出る。その際にダガー顔を一瞥いちべつすると苦々しい表情をしていた。

 明日からこの人の付き人となることを考えると何か言っておいた方が良いのかもしれない……そんな思いを行動に移す前に扉が閉められてしまった。

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