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ドヤ顔が得意な女剣士は勘違い病が凄まじい  作者: 凪雨
ロイヤルクラウン編
9/57

ドヤ顔、月夜の錬磨

 

 『母様。 私、母様みたいに強くなりたい』


 『私みたいに? 母さんは強くないわ』


 『強いもん! みんなしってるよ。 じけいだんの皆が母様をたよってるって。 母様が村の周りのまものを倒してるって』


 『そう・・・。 本当に強くなりたいのね?』


 『うん! 私も母様みたいに村の皆をまもるの!』


 『じゃあ、いい事を教えてあげる』


 『いい事?』


 『強くなる為に大事な事よ』


 『教えて!』


 『皆を愛して、そして沢山の人から愛されるようになりなさい。 それが貴女の力になるわ』


 『皆をあいす?』


 『そうよ。 愛し愛される。 沢山のお友達を作って沢山の人から愛されるの』


 『むずかしいよ・・・』


 『大丈夫。 貴女なら出来るわ。 そして自分の力を信じなさい。 自信を持って全ての事に向き合って。 貴女が間違えた時、愛してきた人があなたを正しい道に誘ってくれるわ』


 『う~ん、よくわからないよ。 でも、村の皆とは仲良しだよ! 友達も何人もいるよ!』


 『それでいいの。 その人達を大事にしなさい。 それが強くなるいい事よ』


 『うん! わかった!』






 また、母様の夢。 まだ母様が生きていた頃の夢。 ロイヤルクラウンに来てから二回目ね。 それまで全然見てなかったのに。 そういえば母様は昔の話はしなかったわね。 私が生まれた時にはもう村に居ついていたし、父様は私が生まれて直ぐに魔物に殺されたと聞かされていたから顔も覚えていないし。


 まだ夜は深い。 横のベッドからは静かな寝息が二つ聞こえている。 私は二人を起こさないように静かにベッドを抜け出し、カーディガンを羽織り廊下に出た。 


  「さむっ」


  エマの言う通り夜は相当冷えるわね。 外はそんな季節じゃないのになんでかしら。 息が白くなるなんて相当冷え込んでるわ。 はー、それにしても月が綺麗ねー。 旅の途中もよく見てたけど憧れの場所で見る月はまた格別ね。


 窓際で月を見ていた私は母様の事を考え出した。


 自信を持って、か。 確かに自信は持てたわ。 何より大きかったのが村からここまでの旅が大きいわね。 魔物も簡単に倒せたし、途中の街では盗賊団を倒して報酬金も貰えたし。 街の人から感謝されて嬉しかったな。 私は強いし、何も問題ないわね。 でも、皆を愛する事は出来そうにないわね。 あの嫌な女! 明日、っていうか今日コテンパンにしてやるんだから!


 でも相当強いわよね、あの女。 食堂でも残像が見えるのが精一杯だったし、先見眼が使えれば先読みも出来るらしいけど私、先見眼はからっきしだしね。 どうして母様が戦うみたいに───っ!!


 私が何かを思い出そうとした時、激しい頭痛が襲った。 しかし、数秒もするとその頭痛も収まっていく。


 またこれ? 母様の戦う姿を思い出そうとすると頭痛が出るのよね。 何なのかしら。 何かを忘れてる? ううん、そんな筈ないわ。 昔の記憶もしっかりしてるし、ほんと分からないわね。 まぁ、いいわ。 疲れてるみたいだしまた寝直そうっと。


 部屋に戻り、静かにベットに潜り込んだ私は目を瞑る。 しかし、私の目は完全に冴えていた。


 いけない、今日は模擬戦闘なのに完全に目が覚めちゃったわ。 んー、少し体を動かせば眠れるかしら。


 そう思った私は音を立てないように寝具から制服に着替え、“相棒”を手に部屋を後にした。






 ほんと広い城よね。 どこがどうなってるか全く分からないわ。 とりあえず体を動かすなら錬磨場かしらね。 でもどうやってあそこまで行けばいいのかしら。 オリガさんに気絶させられてから気づいたら城内だったから行き道が分からないわ。


 とりあえず私は宿舎を出て当てもなく歩き始めた。 思った通り外は寒くはない。 やはり城内だけあの寒さだった。 不思議に思いながらも私はこれだけ大きな城であれだけの人がいるなら夜警をしている者と出会う筈だからその時に錬磨場までの行き道を聞けばいいと考えていた。



 どれくらい歩いたか、誰とも出会わず私は歩き続ける。 その時、私の目に一つの建物が現れた。 入口に扉は無く形は錬磨場と似ているが、錬磨場より大きくはない。 私は建物の入り口に書かれている札を見た。


 『研鑽場』


 研鑽場? 錬磨場と同じ様な物よね。 ここでいっか。 お邪魔しまーす。


 私はそう心の中で言いながら中に入って行った。






 うん、いい感じじゃない。 ここならしっかり身体を動かせそうね。


 研鑽場にも天井は無く、空から月上がりが入り込み舞台を照らしている。 錬磨場と違い観客席は無く、中央には舞台。 そして石の壁が周りを囲んでいた。


 よし、やりますか! 


 私は気合を入れると錬磨を始める。 “相棒”を背中から抜き、目の前に向かって連撃を放つ。 私の目には今日の模擬戦闘の相手、あのダリアが映っている。


 明日はエマの為にも絶対に勝つ! 私なら出来るわ!








 side???


 私は時間が出来た為、研鑽場に向かっていた。 しかし、研鑽場に近づくにつれて妙な空気を感じる。 誰かいる。 今までに感じた事ない空気だ。


 誰? こんな空気感じた事ないけれど。 誰にせよ今日は諦めるしかないか。 いつも誰かいるから今日は久々に一人で研鑽出来ると思っていたのだけど。 仕方ない。


 私は踵を返して引き返そうとしたが、どうにもその空気が気になった。 どうしても気になった私は少し考えた後、研鑽場に足を踏み入れた。



 月明かりの元、剣を振るう人物を見やる。 知らない剣士の子だ。 部隊兵や当然最高幹部部隊では見た事ない。 間違いなく宿舎兵だろう。 宿舎兵なら宿舎兵専用の錬磨場がある筈だけど。 


 ああ、ロザリーが言っていた新しく入隊した子。 成程、かなり空気を出している私に気づいてもいないし、先見眼はまるで無いって話は本当だったみたい。 それに確かに面白い空気をしている。


 私は一人で錬磨する子を見ていると、その子は汗だくになり息を切らせながら空を見上げた。


 休憩か。 あの程度の動きであの汗、それに息を切らすなんてまるでなっていない。 この子は宿舎兵の中でもかなり下のレベルみたい。


 だがこの子の纏う空気は面白い。 初めて見る空気だ。 クロウが受付を通しオリガが入隊を認めたのも分かる。 少し構ってみようか。


「もう休憩?」


「はへぇ!?」


「驚かせてごめんなさい。 そういうつもりはなかったのだけど」


「あ、いえ。 すいません」


 ほんとに私に気づいてない驚き様ね。 あれだけ空気を出していたのに。


「それで? もう休憩?」


「え、ああ。 結構前からやってたので疲れちゃって」


「あなたの動きには無駄が多いわ。 だから直ぐに息切れするの」


「そうですか? 結構いい動きが出来てたと思うんですけど」


「少し見てあげる。 錬磨してみなさい」


「は、はぁ」


 剣士は私に疑惑の目を向けながら錬磨をやり始める。 私が誰かも分からないから勘ぐるのは当然だけど、それにしても自分より弱いとでも思うのだろうか。 それとも相当な自信家か。


 私は錬磨する剣士の子を見ながら思う。 問題はあの長い刀か。 自分ではしっかり振れていると思っているようだけど───。


「あなたその刀いつから使っているの?」


「十年くらい前からですかね。 母様の形見なので」


「形見、ね。 刀に振られているわ。 貸してみなさい」


 私は剣士の子から刀を受け取るとその重さを感じる。


 重い。 いや、私からしたら全然大した事ない重さだけどこの子からした相当な重さを感じている筈。 両手持ちとはいえあそこまで振り回せるならある意味凄い。


「成程。 離れて見てなさい」


「?」


 剣士の子が離れたのを見た私は片手でその長刀を振り、無数の斬撃を繰り出す。 周囲に突風が巻き起こっていった。 それを見た剣士の子はポカンと口を開けたまま固まっていた。 そして、急に目を見開きながら驚いた。


「え、ええっ!?」


「どうかしら?」


「す、凄いです! 全然見えませんでした!」


「今のが無駄を無くした動きよ。 片手だけどあなたと振る速度は変わらないわ」


「無駄を無くすだけでそんなに違うなんて知りませんでした!」


「あなた師匠はいないの?」


「はい。 独学で錬磨してきました。 実戦が多かったですけど」


 そういう事。 どこか不器用な動きだと思っていたけど我流ね。 しかし、いくら形見だからといってこんな不釣り合いな長刀を独学でやろうとするかしら。 まぁ獲物に文句をつけるなんて野暮な真似しないけど。


「今の動きを再現してみなさい」


「いきなりですか? 無理ですよ」


「何事も挑戦よ。 いいから、やってみなさい」


「は、はい」


 剣士の子に刀を返すとその子を見やる。 錬磨するその姿を見ながら私は口を出す。


「まだ振られているわ。 刀を己の身体の一部と思いなさい」


「はぁはぁ・・・身体の一部、ですか」


「刀を振るのではなく自分の腕を振っている感覚になりなさい。 そうすれば無駄は減っていくわ」


 言われて錬磨を続ける剣士の子。 いいわ。 大分マシな動きになってきた。 まだまだ無駄は多いけど飲み込みは早いわね。


「いい感覚よ。 そのまま続けて」


「はぁはぁ、明日、っていうか今日模擬戦闘があるんです」


「そう。 誰とやるかは決めているの?」


「ダリアって嫌な女です!」


 聞いたことはある。 宿舎兵に良い動きをする者がいると。 ただ性格に難があるらしくなかなか部隊兵に上がる事は無いらしい。 メイドになっていないって事は本人もメイドをしながら錬磨する気も無いみたいだ。


「今のあなたでは勝てないわね」


「えっ、私相当自信あるんですけど」


「自信があるのは結構。 あなたダリアの動きは見たの?」


「一度食堂で。 残像くらいしか見えませんでしたけど。 大した事ないですよ。 私の実力なら勝てます」


「ドヤ顔で言う事じゃないわ。 それにあなた先見眼がまるで無いでしょう? 初めて見たわ」


「あはは。 小さい頃は有ったんですけどね? 気づいたら無くなってました」


「何ですって?」


「どうかしました?」


 先見眼は生まれ持った素質が大きい。 強い者もいれば弱い者もいる。 しかし、錬磨すればある程度の眼を持つことが出来る。 そして重要な事だけど“先見眼は身体の成長途中で無くなるなんて事は絶対にありえない”。 


「あなたは生まれた時から無かったと思うけれど。 それも聞いた事は無いけれど」


「本当に有ったんですよ。 でもどうして無くなったんですかね」


 嘘を言っている様には見えない。 だとすれば外部から無理やり先見眼を引き抜かれる事しかない。 昔そんな話を聞いた事があるが、噂の域を出ていなかった。 興味深い話ね。


「その話は今度じっくりしましょう。 今はそのダリアに勝つ為にはどうすればいいか、ね」


「勝てますよ。 こんなに“相棒”を振るのも早くなりましたし」


「あなた本当にそれだけで勝てると思っているの? 模擬戦闘とはいえ下手したら死ぬ可能性もあるのよ?」


 私は少し強い口調で剣士の子を諭す。 剣士の子は少しムッとした後、口を開いた。


「どうすればいいですか?」


 切り替えが早いわね。 素質はあるわ。


「他人の意見を聞く、大事な事よ。 そうね、先見眼が使えないとなると速い相手の場合動きを封じる事でこちらの攻撃が当てやすくはなるわね」


「つまり動かせるなって事ですか?」


「そう。 後は自分で考えてみなさい」


「うーん、やってみます」


 錬磨を続ける剣士の子を見ながら私は気になっていた空気を改めて見る。 


 この子、本当に不思議な空気をしている。 それに相当な自信家でもありながら他人の意見を取り入れる柔軟性もある。 実力は宿舎兵の中でも下の方だけど、化ける可能性はあるわね。


 剣士の子は暫く考えた後、ある動きを始める。 ひたすらにその動きを行った後、ドヤ顔で私に振り返った。


「まぁ、宿舎兵クラスなら誤魔化せるでしょう。 後は上手くやりなさい」


「分かりました! ありがとうございます」


「適当な時に寝なさい。 今日の模擬戦闘に響くわ」


「はい!」


 私は剣士の子に告げると研鑽場を後にした。 自分の研鑽は出来なかったがそれ以上に面白い体験があった。 


 あの子、またここに来るかしらね? 基礎訓練は宿舎で錬磨すればいいし、次は何を教えてあげようか。 


 気づくと私はまた剣士の子に会えるのを楽しみにしていた。





 ※ハーメルン様でUA1000突破記念イラストです。

 クロウさんの休日

挿絵(By みてみん)


 エルダさんの休日

挿絵(By みてみん)


 ザラさんの休日

挿絵(By みてみん)

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