ドヤ顔、現実を知る
それぞれシャワーを浴び、寝具に着替えた後、のんびりとしながら三人で語り合った。 私はロイヤルクラウンの事について何も知らないから色々聞いてみているところ。
「ロイヤルクラウンってどういう編成になってるの?」
「そこから教えないといけないの? 何も知らないのね」
「どうせ私は辺境の田舎者よ」
「教えてあげるよ~まずはね~」
「いいわ、エマ。 私が教えるから」
「ノーティスちゃん優しいね~」
「貴女だと明日の朝になるからよ」
「あはは~」
エマはのんびりした口調で笑っている。
よかった、元気になったみたい。 あの時は凄い落ち込んでたからどうしようかと思ったけど。
「で、どうなってるの?」
「まず、最下層が私達、宿舎兵」
「うん、それは判る」
「その上に宿舎兵長。 今はロザリー様が務められているわ」
「ロザリー様? 何処かで聞いた様な気がするわね」
「明日になれば判るよ~」
「宿舎兵を出ると、選ばれた人は各部隊に振り分けられるわ。 部隊は全部で十あるの」
「そんなに!?」
「と、言っても各部隊十人いるかどうかよ。 最高幹部部隊になると二人から三人いるかどうか。 一人だけのところもあると聞くわ」
「それ部隊って言える?」
「私に言わないでよ。 とにかく宿舎を出て選ばれた者は第五から第十のどれかの部隊に入って各国や街、大陸境に派遣されるの」
成程、ね。 つまり私の夢を叶えるにはその部隊に選ばれて派遣されればいいのね。 なんだ、簡単じゃない。 ん、気になる単語があったわね。
「さっきでた最高幹部って?」
「・・・化け物の集まり・・・らしいわ」
「らしい?」
「見た事も話した事もないもの。 噂だけは聞くけど」
「最高幹部の部隊長さん達はとんでもない人達って話だよね~噂だと一人でうちの国クラスをものの数分もかからず消滅させる事が出来るって聞くよ~」
ありえないでしょ。 数分でロイヤルミュートクラスの国を消滅させれるって。 この二人、この国がどれだけ大きい国か知らないのかしら。 そもそもそんな大きな国がいくつもあってたまるかってのよ。
「まっさかー・・・。 それはないでしょ? えっ、オリガさんそんな事出来るの?」
「オリガ様? オリガ様って門兵のオリガ様?」
「そうそう。 私の試験官だったのよ。 あの人、数分で国を亡ぼせるなんて凄いわね(まぁ、噂なんて眉唾だけどね)」
「オリガ様は最高幹部の人じゃないわよ」
「・・・へ?」
「だね~。 オリガ様は第六部隊の方だよ~。 それに部隊長でもないよ~」
「でも、最重要守衛場を守って・・・」
「城門は確かに最終防衛ラインだから大切だけど、オリガ様とイディス様は先見眼が強いから門兵をなさっているの。 たまに試験官も務めるみたいだし」
嘘・・・でしょ? あの化け物(失礼)が最高幹部じゃない? あ、でもあれね、第六ってことは真ん中辺りの強さの人って事よね。 うん。 まぁ、私もそれくらいの強さはあるしね。
「因みに、第六から第十までは強さに序列なんて無いわよ」
「第一から第五までも序列は無いみたいだよ~。 あるのは第五から第六はかなりの壁があるって話だけど~」
「・・・ほ?」
・・・ふ、ふーん。 ま、まぁ? 確かに最高戦力じゃなかったかもしれないけど私はオリガさんに一撃当てた訳だし? つまり実力では私は既に宿舎兵を軽く超えてるって訳よね。 段々と私の力が低くなってる気がするけど気のせいよね・・・?
「何よその顔。 でも、オリガ様が試験官なんて・・・こんな奇遇あるのね」
「私達もオリガ様が試験官だったんだよ~」
「え、そうなんだ。 じゃあ、一撃当てるって試験だったのね」
「いいえ、私はあらゆる状況から戦闘を有利にするシミュレーションって試験だったわ」
「私は適当な道具から武器を作ってみろって試験だったな~」
「え・・・私と違うんだ」
「あなたオリガ様に一撃当てるって試験だったの? よく合格できたわね」
「ま、まぁね。 私強いからね。 オリガさんも強さに気づいたからそういう試験だったのね。 きっとそうよ。 うん」
どういう事よ! いくら私が強いからってなんで私だけ死にかけるような試験だった訳!? 二人ともシュミレーションとか武器を作れとか直接戦闘してないじゃない!
※ザラはちゃんと“適正試験”と言っています。
「話を戻すけど、第一から第五までが最高幹部の部隊。 そして最後に総督」
「総督。 旅をしていた時に名前だけは聞いた事あるわ」
「流石に知ってるのね。 私達も一度しかお会いした事ないわ」
「そうだね~普段直接会えるのは最高幹部の方々だけって話だしね~」
「私、見た事も無いんだけど」
「あなた今日入ったばかりでしょ。 いずれ挨拶に行くことがあるわよ」
総督・・・か。 旅の途中で何回か話を聞いた事がある。 ロイヤルミュートは傭兵国だけど国王や女王はいない。 総督が全てを指揮してこの世界を平和へと導いていると。 会える時が来たら私を直ぐに部隊に入れてもらえるよう言ってみようかしら。 あ、そうだ。 あのメイドさん達は何なんだろう。
「ね、メイドさん達は?」
「ああ、メイドの方々は宿舎兵を出られたのよ。 でも、部隊に選ばれなかったの」
「中には自分から部隊に入るのを断った人もいるって話だよ~。 有名な人だと受け付けの黒服メイドのクロウさんとかそうだよ~」
「クロウ? もしかして、あの別嬪さんだけど目で人を殺せるんじゃないかって人? 自分から断るなんて変わってるのね。 私なら直ぐに部隊に入るのに」
「クロウさんは優しい方よ。 それに部隊に入るかどうかなんて人それぞれよ」
「ん・・・ちょっと待って。 じゃあ、何? メイドさん二百人くらいいるんでしょ!? 全員選ばれなかったの!?」
「だから全員じゃないわ。 そうね、九割以上は選ばれてないわね」
「嘘でしょ・・・メイド長の赤服メイドさんとか黄服メイドさんとかも?」
「赤服の方はメイドの中で一番下の方だよ~。 黄服の方が真ん中で~一番上は黒服のメイドさんだよ~。 後、紺服のメイドさんは黄服以上黒服以下かな~。 それに、黒服メイドさんは何人もいないけどね~」
なんてこと・・・。 目に見えない程で消える速さを持ってるのに部隊に選ばれていない? 赤服さんや黄服さんはメイド長でもない? ふ・・・ふふ。
面白いじゃない! 私の実力を示すのに丁度いいわ! 私だって世界の英雄になる女! これだけの実力者が揃う国なら私の強さも際立つわね! 名前も国中、いや、世界中に知れ渡ってファンが押し寄せて来るわ!
ドヤ顔になり、未来を想像する私。 そんな私を見ながら引き気味でノーティスは口を開いた。
「ちょっと、あなた大丈夫・・・?」
「ふふふ。 大丈夫大丈夫! いやーもうまいっちゃうわね!」
「何がよ」
「あはは~。 私そのドヤ顔好きだな~。 自信満々で羨ましい~」
「嬉しい事言ってくれるわね! エマ! あなたを私のファン第一号にしてあげるわよ!」
「いいの~? やった~ありがとう~」
「どうでもいいけど、説明もしたし、私もう寝るから。 明かり消してくれない?」
私達二人の会話を聞きながら呆れ顔でベッドに入るノーティス。
あら、ノーティスを二人目にしてあげようと思ったのに、照れ屋さんね。 まぁいいわ、明日の模擬戦闘であの嫌な女を倒したらファンも沢山増えるでしょうし。 その時に一緒に入れて上げればいいわね。 色紙ももっと調達しないといけないわ。
ん? というか明かりってどうやって消すのかしら。
「明かりってどうやって消すの? 蝋燭でもないし」
「ほんと何も知らないのね・・・」
「どうせ田舎者よ」
「二回目よ、それ」
「明かりはこうすればいいんだよ~」
エマが壁にあるランプに息を吹きかけると部屋全体が暗くなる。
不思議。 このランプ明るかったけど蝋燭じゃないし、それになんで天井の大きいランプまで一緒に消えるのかしら。 これもロイヤルクラウンの技術ってやつなのかしらね。
「凄いわね。 ありがとうエマ。 明日はあの嫌な女の謝り顔が見れるわよ。 じゃあ、お休み」
私はベットに潜り込むと、明日の模擬戦闘後の事を考えてにやけた顔を押さえられなかった。
残されたエマは「本当に・・・羨ましいよ・・・」と呟き、その言葉は闇に溶けていった。