ドヤ顔、嫌な女と出会う
エマと共にやたら長い廊下を走り、ついた先は食堂。 ビュッフェスタイルで食事が置いてあり、食事を取ったら自分の好きなテーブルで食べれるみたい。 こういう所ってグループが出来るわよねぇ。 ほら、あそこ。 あそこの子これだけ人がいるのに一人で食事してるし。 ここは一つ私がお友達に・・・そうやってファンにしていくのよ。
「あんまりキョロキョロしてると他の人の迷惑だよ~早く選びなよ~」
「え? あ、そうね。 でも選ぶったってこんなに種類があったら何をどう選べばいいのか・・・」
「好きな物でいいんだよ~何が好き~?」
「そうねぇ、蛙蚯蚓のステーキとか? でも旅の途中で食べ過ぎて飽きたわね。 後はコカトリスの卵の目玉焼きなんか好きよ」
「・・・」
「どうしたの?」
「随分個性的だな~って。 それって魔物でしょ~?」
「ええ。 皆食べるでしょ?」
「う~ん、普通は食べないかな~。 辺境では食べるって聞いた事あるけど~」
「田舎者で悪かったわね」
「あはは~ごめんごめん~」
そんなやり取りをしながらエマと私は目についた食事を取っていく。
とりあえずパンと野菜スープ。 サラダにメインは厚切りのステーキ。 やっぱりお肉よね。 あとは飲み物は冷たいお茶でいいかしらね。
選び終わった私とエマは連れ立って一つのテーブルに向かって行った。 私が一人で食事している子の所に向かおうとすると、エマは「こっちだよ~」と私の前を歩いて行く。
あら、折角一人で食事してる子の所に行って私のファンにしようと思ったのに。 まぁ相部屋の子と仲良くなるのも大切だし、今日はエマと一緒に食べるとしましょ。
連れられた先にはこちらもまた、一人で食事する子がいた。 だけどその後ろ姿は見覚えがあった。
「お待たせ~」
「おそかっ・・・」
「あんたは・・・」
「はぁ・・・」
ノーティスは溜息をつくと、明らかに不機嫌そうにサラダにフォークを突き立てた。
「なんであなたと食事を取らなきゃいけないのよ」
「私だってあんたと食事したくないんだけど?」
「じゃあ何処か行きなさいよ」
「そうね。 私はエマに誘われて来ただけだし。 悪いわねエマ。 私別のとこで食べるわ」
「ま~ま~。 今日初めて会ったんだし~お互い同部屋なんだし仲良くしようよ~」
そう言いながらエマはさっさと席につき、パンを食べ始めていた。 バチバチと火花を散らしていた私達もエマのそのお気楽なのんびり口調にペースを乱された。
「エマに感謝しなさい」
「それ二回目だから」
「ふん」
ようやく私も席についてノーティスを睨みながらパンを齧った。
ほんと嫌な女ね。 私の方が強くて綺麗だからって嫉妬しちゃって。 あーあ、やだやだ。 女の嫉妬はしつこくて。
全く会話がないまま食事を取っていると、ざわざわと騒がしい食堂で一際大きい足音が聞こえて来る。 その足音は真っすぐこちらに向かってくると、私たちのテーブルの前に止まった。
「御覧なさいフレデリカ。 問題児のお二人にお友達が出来たみたいよ」
「ダリア様そのような事言ってはいけません」
とまった足音の正体は赤毛のロングヘアーが特徴的な高圧的な美女と、それを宥める茶髪の付き人らしき二人だった。
この赤毛の女、見ただけで分かるわ。 絶対性格悪いわね。
「黙ってなさい。 初めましてね? 私はダリア。 あなたお名前は?」
「私の事?」
「お馬鹿さんねぇ。 あなた以外にいるのかしら?」
「初対面に馬鹿って言われたの今日で二回目なんだけど」
「あらそうなの? それは御免なさいね」
「食事が悪くなるわ。 失せなさいダリア」
ノーティスが睨みつけながら発した。
ああ、ノーティスが怒る気持ちも分かるわ。 コイツ人の事をバカにした態度取ってくるタイプね。 それに同姓に嫌われるタイプ。 もう一人はコイツの付き人ね。 付き人ならこの女を止めなさいよ情けない。 それに気づいたら周りもこっちに注目しちゃってるし。
「あははは! 口だけは一丁前ね。 そもそも問題児のあなた達がどうしてロイヤルクラウンに入れたのか疑問だわ」
「試験を通ったからよ。 お嬢様はそんな事も判らないのかしら」
「それが気になったのよ。 試験官はどなた様だったのかしらね?」
「誰だっていいでしょ~もう向こう行きなよダリア~」
「あら、あらあらあら? いつもはノーティスに隠れてびくびくしている子が今日は珍しく話してきたわよ。 フレデリカ、貴重な事よ」
「ダリア様この辺りで・・・」
付き人のフレデリカがダリアを宥めながら口を挟んだが、ダリアは更に続けた。
「いいじゃない。 ね、エマ? 私前から気になっていたの。 才能も無い貴女が何故ロイヤルクラウンに入れたのかしら」
「・・・」
「答えられないの?」
「・・・」
「頭の整理がつかないみたいね。 そうだわ!」
ダリアは思いついた様にパンと手を叩くと、エマのコップを手に取り、それを座っているエマの頭に掛けていった。
「っ!!」
「エマ!」
「ダリア様!」
「こうすれば少しはサッパリして考えられるんじゃない? あなた頭はいいんだから」
「あんた・・・!!」
我慢の限界だった。 ノーティスはエマの髪をハンカチで拭いているし、ならばと私が立ち上がりダリアに食って掛かる瞬間、いつの間にかダリアが私の後ろに回り込んでいた。
速い! 残像は追えたけどなんて速さ。 コイツ・・・嫌な女だけど実力はある。 私程じゃないにせよ流石にロイヤルクラウンの宿舎兵ならこれくらいはやれるみたいね・・・。
「なぁに? 貴女には関係ないでしょう?」
「エマは私と同部屋なのよ。 関係ない訳ないでしょ」
「あら。 貴女も問題児部屋なのね。 あははは。 いいわ。 明日模擬戦闘するからあなた私とやりなさい」
「いいわよ。 その代わり私が勝ったらエマに謝ってもらうから」
「えぇ、構わないわよ? じゃあ私が勝ったらあなた私の付き人になりなさい」
「付き人だろうがなんだろうがなってあげるわよ」
「あはは。 その言葉、忘れたなんて言わないで頂戴ね」
私は笑いながら去っていくダリアを睨み続けた。 残ったフレデリカはエマにハンカチを渡すと、小さな声で「ごめんなさい」と言い、ダリアの後を追っていった。
先程の件があってから周りからも私達を見ながらひそひそと声が漏れている。
何よあの女! ちょっと実力があるからって!! 決めた! あいつは私のファンにはしてあげないわ! あんなのがファンにいたら他のファンに失礼だわ!
「エマ、一度着替えに戻りましょう」
「・・・」
「エマ?」
「うん・・・」
小さく呟いたエマはゆっくりと立ち上がり、トボトボと歩いて行く。 私とノーティスも食べかけの食事を置いたまま共に食堂を後にした。
「無謀な事をしたわね」
「何がよ」
「明日の事よ。 ダリアと模擬戦闘だなんて、無謀だわ」
「そんなに強いの?」
「・・・気に入らないけどね」
「確かにスピードはあったけど、まぁ実力は私の方が上だし。 どうとでもなるわよ」
「あなた強いの?」
「まぁ、ね。 宿舎兵でもかなり上の方じゃないかな(と、いうかロイヤルクラウンの最高戦力と渡り合ったんだから宿舎兵どころじゃないでしょうけど)」
「そうは見えないけど」
部屋に戻り、エマがシャワーを浴びている間に私とノーティスは話をしていた。 私はベットに横になりながら、ノーティスはベッドサイドに腰かけている。 最初のバチバチした空気はなく、普通に会話が出来ている。 お互い、エマを馬鹿にされたという事で怒りの矛先が一緒になったから。
ノーティス。 態度とかで勘違いされやすいけど悪い子じゃないよね。 私はダリアに突っかかっていったけど、エマをいの一番に心配して髪を拭いてあげてたし。 怒りより先に仲間の心配をするタイプね。
「それにしても嫌な女ね、あいつ」
「前からああなのよ。 フレデリカはいい子だけど」
「フレデリカって・・・ああ、あの付き人さん。 なんであんな嫌な女に付いてるのかわからないわね」
「昔馴染みらしいわ」
「ふーん。 まぁ、あんな嫌な女とその付き人なんて私のファンにはしてあげないからどうでもいいけど」
「ファン?」
「そ、ファン」
「ファンって?」
私は上半身を起こすとノーティスを見ながら口を開いた。
「世界中の人々を私のファンにするのが夢なの。 魔物をばっさばっさ倒して、困っている人々を助ける。 そして英雄としていつまでも語り継がれるのよ」
「・・・」
「何よ」
「子供の夢ね」
「それも今日二回目だわ」
そんな話をしていると、シャワールームのドアが開く。 髪を拭きながらエマが出て来ると、急に私たちに頭を下げた。
「二人共ごめんね~。 私のせいで食事摂れなかったよね~」
「気にしないでいいわ。 それよりしっかり暖まった?」
「うん~先にシャワー使わせてもらってありがとう~」
「いいよいいよ。 私なんかもう三日は入ってないし」
私がそう言うとノーティスは鬼の形相になり、私の首根っこを掴むと引きずりだした。
「ちょ・・・何よ!」
「三日もシャワーを浴びてないですって!? 信じられないわ! さっさと垢を落としてきなさい!」
そう言われると私はシャワールームに放りこまれた。
部屋から元気になったエマの笑い声が聞こえていた。