ドヤ顔、相部屋の二人と出会う
黄服メイドさんに連れられて私は城内を歩く。 大きな通路には赤い絨毯が敷かれ、等間隔にある大きな窓から夕陽が差し込んでいる。
「綺麗な城ですね。 私気絶してたから城内は今初めて見ました」
「ここは城内でも端の方になります。 門兵等の住居区ですので」
この広さと綺麗さで住居区? そういえばオリガさんとイディスさんの部屋も小さいけどシャンデリアがあったり、凄い綺麗だったし流石はロイヤルクラウンだわ。 あ、そうだ。 この黄服メイドさんになら何でも聞けるかも。
「そういえば今は門兵は違う人がしてるんですか?」
「はい。 門兵は二十四時間事に交代します」
「成程。 じゃあ、ロイヤルクラウンにはどれくらいの人がいるんですか?」
「宿舎兵が役三百名程。 私達メイドが二百人。 門兵、近衛兵が百名程となります」
と、なると。 六百人もいるの!? どんだけ大きい城なのよ。 そんな城今まで聞いた事がないんだけど。 世界一の傭兵国だけあって規模が凄いわね。
「試験を受けられる方は毎年数千人を超えます。 その中で選ばれた者がロイヤルクラウンに入隊する事が許されます」
「す、数千!? はー・・・凄いですね」
「あなたはその中の一人に選ばれたのです。 ロイヤルクラウンとして恥じない行動を取ってください」
「あ、はい。 わかりました」
黄服メイドさんに言われると私は身を固くした。
そうだ、私はロイヤルクラウンに入れたんだ。 まぁ、実力は問題なかったし、最高戦力のオリガさんにもなんとか一撃当てる事も出来たんだし。 よし。 とりあえずはここの六百人を私のファンにすることから始めましょう。
「それにしても宿舎って所は遠いんですね」
「城の一番端にあります。 その三つ上が先程の住居区です」
「ああ、成程。 城の一番下の一番端になるんですね」
「下はまだありますが、お近づきになりませんよう。 衛兵もいますので無いかと思いますが」
地下まであるの!? 訳わかんない大きさだわほんと。
「着きました。 ここがあなたの部屋E-五番です」
黄服メイドさんと共に豪華な階段を下がり、長く歩かされた先にあったのはいくつもの部屋の扉が乱立する所だった。 扉の上にはA-一番等と書かれたプレートがあり、私が案内されたのは一番端のE-五番と書かれた扉の前だった。
「ありがとうございます。 えっと・・・あ! 私の荷物!」
「旅の荷物の方は既に中に入れています」
「あ、そうなんですか。 何から何までありがとうございます。 なんか宿屋みたいですね」
「明日以降そのような気持ちにもなれないと思いますが」
「へ?」
「せめて今日だけでも体をお休めください。 それでは」
黄服メイドさんはそう言うと、メイド服のスカートを摘まみ上げながらお辞儀をすると、その場から消えた。
また消えた・・・。 ここのメイドさんは皆消えるのが趣味なのかしら。 相変わらず見えないけど。 は、速さだけは認めてもいいかな? まぁメイドさんだからね、いろいろ仕事もあるんだろうから急がないといけないからね。 実力は私が上だろうけど。 ふー。 よし、行きますか。
私は部屋の扉を勢いよく開いた。
なんで私は正座させられているのかしら。 というかあの黄服メイドさんも酷いよね。 相部屋だったらそう言ってくれないと判らないじゃない。
「聞いているのかしら?」
「だから聞いてるってば。 聞いてるからもういい?」
「ダメよ。 大体部屋に入るのにノックもしないなんて、あなた何処の田舎者よ」
「ダロだって言ってるでしょ。 ボルム山脈にある」
「知らないわよ。 何、足崩してるのよ。 私はまだいいと言ってないわよ」
「ノーティスちゃん、その辺にしときなよ~。 相部屋だって知らなかったんだしさ~」
「ダメよ。 エマ、あなたこの子を甘やかすつもりなの? こういう子は一度甘い顔をすると付け上がるわよ」
「そ~じゃないけどさ~。 もう食事の時間になるよ~? 君もこの子も着替えないとさ~」
「・・・仕方ないわね」
蒼髪でキツイ目をしたノーティスにようやく解放された私。 痺れた足を延ばしながら私は同部屋の二人を見る。
勢いよく部屋を開けた私の目に飛び込んだのはノーティスの下着姿だった。 暫く時が止まり、私はノーティスに襟を掴まれるとそのまま部屋に引きずり込まれ、今まで説教を受けていたのだ。
と、いうか・・・あれだけ謝ったのにいつまでもしつこいわね! 何よ下着を見られたくらいでギャーギャーと。 ああ、私の方がプロポーションがいいから嫉妬してるのね。 やれやれ、持ってる女は辛いわね。
「さっさと着替えなさい。 これから食事よ」
「着替え? どこにあるの?」
「そこのクローゼットの中にあるからそれを着てね~」
優しく教えてくれるのはエマ。 眼鏡をかけて三つ編みの可愛らしい子。 エマに教えられたクローゼットを開けると、私の旅の荷物が置かれており、木で出来たハンガーには白いシャツと黒いパンツにネクタイ。 それにコートが入っている。
こんなの着た事ないわね。 ロイヤルクラウンの制服かな? まぁ私が着たらなんでも似合うんだろうけど。
ゴソゴソと着ている物を脱いでいく。 皮の鎧、レザーパンツ、レザーブーツ、皮の小手。 全て母様の御下がりだから母様の形見でもある。 それらを大事にクローゼットの奥に直すと、用意された服を着ていく。
あ、そうだ・・・。 あれだけ私に説教してくれたんだから意趣返ししてやる。
さっきみたノーティスの身体を思い浮かべた私はニヤリと笑みを浮かべながらノーティスに振り返った。 ノーティスと目が合うと私は自分の胸を触りながら呟いた。
「ふっ・・・勝った」
「なっ・・・貴女ねぇ!」
「ま~ま~! もう行かないと遅れちゃうよ~!」
「っ!・・・エマに感謝するのね! 先に行くから!」
そう言うとノーティスは出ていきながら部屋の扉を思いっきり締めた。 残された私はどこ吹く風で制服を着ていく。
ふふん。 あの程度で怒るなんて錬磨が足りないわね。 実際私の方が胸大きいし。 女としても完璧だなんて自分が憎いわ。 ほんと罪な女よね、私って。
「ノーティスちゃんがあんなに怒るなんて珍しいな~。 君、面白いね~」
「そう? 錬磨が足りないのよ」
「ドヤ顔で言う事かな~? 私からしたらどっちも変わらないけど」
「へ?」
私は今になってエマの身体に目を向ける。
でっか!! いや・・・え・・・? でっか! 何この大きさ反則じゃない?! いやでも、大きさだけが全部じゃないよね。 形とか色とか、そういうの含めて私は完璧なプロポーションなんだし。
「あ、コートは着た方がいいよ~。 これから夜になるから冷えるよ~」
「え、今はそんな冷え込む時期じゃないでしょ」
「ん~ロイヤルクラウンの城内は夜になったら冷えるんだよ~」
「ええ? そんなことあるの? 外はそうでもないじゃない」
「城内だけだけどね~。 とにかくコート着てね~。 食堂まで一緒に行こう~」
エマにせかされコートを羽織る私。
城内だけ冷えるってどういうことかしら? こんな立派な城なんだからそういう事はない気がするんだけど。 まぁ、着ていった方がいいって言うならそうしたがいいみたいね。
準備の出来た私とエマは連れ立って廊下に出る。 窓から見える空は薄っすらと暗くなってきていた。
ん・・・。 確かにさっきより寒くなってる。 黄服メイドさんに連れられていた時はそうでもなかったのに。 不思議。 どうしてかしら?
「ありゃ~もう皆食堂に行ったみたいだね~急ごう~」
「そんなのんびりした口調じゃ急がなきゃってならないけどね」
「あはは~癖なんだ~。 とにかくこっちだよ~」
エマはそう言いながら走り出した。 私はそのエマについて行く。
なんだ、宿舎兵ってこれくらいの速さなんだ。 ま、当然ね。 最高戦力のオリガさんと渡り合った私なら余裕だわ。 これなら宿舎兵なんて直ぐに卒業して傭兵として派遣されてそこで・・・ウヘヘ。
ドヤ顔でついてくる私をチラリと見たエマは不思議そうに首を傾げた。