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初代問題児

 

 【ぐ、ぅ!  はぁ、はぁ・・・お、のれ】



 首だけの存在になったベルビューヌは、命からがら、東の大陸にある魔女の城へと戻って来ていた。  首から下を液体化させ、ズリズリと移動するその姿は、不気味という他ない。  そんな異様な光景に、他の魔族や魔物達も誰も近寄らず、遠目に見ているだけだった。  



 ベルビューヌは、何とか自身の住処に戻ると、大きな血溜まりの池に、頭ごと入り込んだ。  流石のベルビューヌも暫くは此処で身体を休ませなければ、まともな行動が出来ないと判断していた。  そんな中、ベルビューヌは女剣士の事を思い出していた。  剣士の速さに全くついていけず、挙句に首を落とされたその恨みは凄まじいものがあった。



 【あ、の女・・・ううっ!  殺、して、やる・・・!】



「まあ。  なんて無様な姿なの?」



「ビクトリア様。  この様な場所、服が汚れてしまいます」



 怒りに震えるベルビューヌに、ビクトリアが笑みを隠すため、口元に手を当てながら近づいてきた。  傍には側近と思われる魔族の女を従え、傍から見ればどこぞの女王とも言える気品だった。



 【だ、まれ】



「あらあら。  ご主人様に対して何て口の利き方かしら。  お仕置きが必要なようね。  それに、貴女は私のお人形なのよ?  勝手に壊れて貰っては困るわね」



 【お、前の、手下、になった、つもりは、ない】



 言いながらベルビューヌは“立ち上がった”。  既に身体の再生は完成していたが、衣服をすら纏っておらず、動きもぎこちがない。  明らかに“形だけ再生した姿であった”。  睨みつけるベルビューヌだったが、突如、何かが破裂する音が響いた。  気づくと、ベルビューヌの左腕が吹き飛び、赤い液体が辺りに散乱した。



 【ぎっ・・・!  き、さま!】



「口の利き方がなってないと言った筈よ?  私、何か間違ってるかしら?」



「いいえ。  ビクトリア様に間違いはございません。  必要な事かと」



「・・・そうよね。  お仕置きが必要よね」  



 再度、破裂音がすると、今度はベルビューヌの右足が吹き飛んだ。  バランスを崩したベルビューヌが倒れ込むと、ビクトリアが金色の何かを手に、見下ろしながら口を開いた。



「ふふふっ。  ひれ伏しなさい。  貴女は私の可愛いお人形なの。  お分かりかしら?」



 【だ、まれっ!】



 ただ、見上げるだけしか出来ない姿でありながら、悍ましい殺意で睨みつけるベルビューヌに、ビクトリアは満足気に笑い声を上げた。



「ふふふっ!  御覧なさい。  これが私のお人形となり得る者よ。  ただ、はいはいと言う事を聞くだけなんてつまらないわ。  貴女にも私に対して、これくらいの強さがないとねえ?」



 言いながらビクトリアは後ろにいた魔族の女へと目を向けた。  にやけた口からは魔族特有の鋭い牙が覗いている。



「ビ、ビクトリア様・・・申し訳───」



「謝るって事は、自覚があるのかしら?  それとも、私がお人形にした事が間違っている、と?」



 詰められた魔族の女は、頭をフル回転させた。  どっちを答えればいいのか。  肯定か否定か。  間違えれば、殺される。  瞬時に察した女は、汗を流しながら震える唇を開いた。



「や、やり過ぎではないかと・・・。  可愛い人形、です、ので・・・」



 ビクトリアの目を見ながら、小さな声で答えた魔族の女に対し、ビクトリアは言葉を聞くと、ベルビューヌへと視線を戻した。



「そうよね。  やり過ぎよね。  そうよ。  私の言葉を肯定するだけじゃつまらないわ」



 ビクトリアが視線を外しながら言った言葉に安堵した魔族の女だったが、瞬間、その女の頭が吹き飛んだ。  血しぶきが辺り一面に舞い散ると、何が起きたかも分からず、暫く魔族の女の身体が動いていた。  そして、途端に糸が切れたかの様に、首の無い身体がその場に倒れた。  



 ベルビューヌはその光景を眉一つ動かさず見ているだけだった。  その眼は、ビクトリアの持つ金色の何かに注視されていた。



 (よう、やく、見え、た。  コレ、がコイ、ツの獲物、か。  魔、族が獲物、を持つ、とは)




「だけど、私の言葉に従わない馬鹿も必要ないわ」








 長い廊下を歩き、ついた先には一つの扉があった。  その扉の上の壁には、見慣れた文字。  E-五番と書かれている。  宿舎兵の中でも、最下位の部屋。  通称、問題児部屋と呼ばれているこの部屋は、私にとってもう一つの家。



 私は、軽く深呼吸すると、努めて明るい声で扉を開けた。



「ノーティス、エマ。  ただいま」



 部屋を開けると、そこには誰もいなかった。  見慣れたベットが三つ。  小さな本棚に、テーブル。  開けられた窓からは優しい風が入り込み、白いカーテンを揺らしていた。



「二人とも、いないのかしら。  そっか、この時間なら錬磨中、かな」



 誰かに言うわけでもなく、私は独り言を言いながら右端のベッドに腰かけた。  改めて部屋を見渡してみたが、何も変わっていない。  あの時のまま。  私はゆっくりとベッドに横になった。



「明日から、リースさんと錬磨、か。  それにしても、クラウディアさんの部屋のシャワーがまともで良かったわ。  ふぁ・・・なんか、眠く・・・着替えないと、ノーティスが・・・怒る・・・」



 私は、重くなる瞼に抗えず、そのまま眠りについた。 







「それで?  クラウディアの言葉に腹を立ててやけ食い?」



「ふるはいな(うるさいな)」



「クラウディアの言葉は正しいわ。  話だけ聞くと、もう人間じゃないわね。  どう思われます?  ソフィア様」



 アンナに言われ、静かに紅茶を飲んでいたソフィアがカップから口を離し、揺れる紅茶を目にしながら口を開いた。



「直接見ていない為」



「それもそうですね。  それはそうと、リース。  ソフィア様の前で失礼でしょう」



 アンナの言葉はリースに届いている筈だが、リースは意に介さず、食べるペースを落とさなかった。  ソフィアもその姿を見て、アンナに目配せを送った。  私は気にしていない、と。  



 リースが腹を立てながら、大量の食料を手にアンナの部屋にやって来ると、そこではアンナとソフィアがテーブルを挟んで何やら話し込んでいた。  二人が大陸境から戻って来たのは遂最近の事で、二人は今後の事について話し合いをしていたのだ。



 そんな真剣な話をしている中、リースがドカドカとやってきた為、二人は話を打ち切り、取り合えずお茶をする事になった。



「ぶはっ。  あー、喰った喰った」



「また、良く食べたわね。  落ち着いたかしら?」



「少しはね。  ソフィア、だっけ?  悪いね」



 ソフィアはリースの言葉に首を横に振った。  そして、ゆっくりと紅茶へと口をつけた。  そんな姿を見て、リースは口を開いた。



「ふーん。  ブルデンバウムもなかなかどうして。  これだけの強さの者がいるなんてね」



「ブルデンバウム最強の剣士よ?  知らなかったの?」



「あの国には行った事がないからさ。  アンナ、アンタより強いんじゃない?」



 リースの言葉に、アンナは笑みを零し、ソフィアは何の反応も見せなかった。  アンナもソフィアも、互いに戦闘時の強さは知っている。  お互いに勝てる等ど楽観的な言葉は口には出せなかった。  やり合えばただでは済まないのが分かっていたから。



「そんな事はいいの。  それより、今回の旅には何か収穫があった?」



「それなりに、ね。  ひと段落したら、オラールの森に行くつもり」



 リースの言葉に、ソフィアが反応した。  黙ってリースの顔を見つめた。  リースもまた、そんなソフィアの視線を受け止めた。  



「オラールの森。  お一人で?」



「いや、あの娘も連れて行く。  良い錬磨になると思うしね」



 珍しく真剣な表情で話すリースのその言葉に、ソフィアは手に持っていたカップを置くと、真剣な眼差しで口を開いた。



「止めるべき。  危険」



「だろうね。  でも、連れて行くよ。  アタシにはあの娘の全てを受け止めてやらなきゃいけない」



 何かを決意したリースの目を見て、ソフィアはそれ以上何も言わなかった。  しかし、アンナは横から口を挟んだ。



「正気なの?  あの森は大変な規模よ?  案内人がいなければ踏破は難しいわ」



「誰に言ってるのさ」



「貴女なら大丈夫かもしれないけど、あの娘も連れて行くとなると、そうはいかないでしょう?」



「まあ、ね。  でも、行くよ。  あの娘の錬磨にもなるしね。  それに、あの娘にとって、あまり時間がないかもしれない」



「時間、ね。  大体、何のために行くの?」



 アンナの言葉に、リースは意地の悪い笑顔を作りながら答えた。



「同族に会いに、ね。  それよりさ、あの娘の同部屋の二人はどうなってる?」



「ああ、あの二人。  二人とも部隊兵になったわ。  ロザリーの扱きにも合格して、一人は各部隊への武器調達及び作成で城と周辺の街の往復よ。  もう一人は、今は部隊兵として遠征中。  オリガとイディスの部隊が交代要員としてさっき派遣されたわ」



「ふうん。  二人とも順調のようだね。  遠征に行った方はなんて娘?」



「ノーティス」



「ああ、あの髪が綺麗な娘。  誰が部隊長?」



「それが・・・」



 淀みなく続けられていた会話に、初めてアンナが口を濁した。  ソフィアは二人の会話に興味なさそうにカップに口を付けていた。



「何?  なんか面倒な奴いたっけ?」



「最近、部隊長になったんだけど」



「ん。  誰?」



「レディよ」



 アンナの言葉に、リースは目を大きく見開いた。  挙句、口をパクパクさせ、正に驚愕している、といった様子だった。



「レ、レディ!?  レディって、レディ・シルバリオ!?」



「そう、そのレディ。  驚くわよね。  私も最初聞いた時はびっくりしたわ」



「いや、誰が部隊長なんかに上げたのさ。  アイツは───」



「クイーンよ。  まあ、今は一人でも多くの手練れが上がるのは分かるけれど、ね。  でも、ねぇ?」



 リースはソファーに思いっきり体重を預ける様に座り直した。  溜息を付きながら天井を見上げると、何かを思い出しながら口を開いた。



「アイツは、連携だとか、指示を出すとか、そういうの出来ないでしょ。  完全なロンリーウルフ。  味方でさえ邪魔者としか思っていない。  戦闘スタイルから、広範囲を吹っ飛ばす技が多いから仕方ないかもしれないけど。  まあ、でも実力は認める。  だけど、アイツに部隊長は無理だ。  そもそも、アイツと意思疎通が図れた奴がいる?」



「いないわねえ」



 苦笑いしながら答えるアンナに、紅茶を飲み終えたソフィアが横から口を挟んだ。



「何者?」



「レディ・シルバリオ。  初代ロイヤルクラウンの問題児だよ。  実力はかなり高いけど、問題はその性格さ。  誰とも意思疎通を取ろうとしないし、遠征にやれば一人で全部片づけて、連携もクソもない。  ただ───」



「命令には忠実なのよね。  そもそも、今回の件もクイーンが決めた事だし、レディとノーティスの二人だけの部隊みたいね」



「ノーティスって娘は、あの娘の友達だからね、何とか生きて帰ってきてほしいけど」



「レディ次第、でしょうね」



「難儀」



「ほんとにね。  難儀な事だ」



 空になったソフィアのカップに紅茶を注ぎながら、アンナは軽く溜息を付く事しか出来なかった。


挿絵(By みてみん)

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