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名前と個の存在

 

 ライさんが保護した皆の前で声を張り上げた。 戦える者達はオリガンの街で傭兵として街を守る。 そうでは無い者はそれぞれ街に合った役職を与える。 オリガンは大きな街なだけあって、人手が足りてない所もある。 皆で一から信頼を得て行く為、力を合わせていこう、と。



 流石にこの数のリーダーだけあって力強い。 この人なら任せられる。 リースさんの人を見る眼は確かだから大丈夫ね。



 ライさんの演説が終わると、私達二人は人々から感謝された。 涙を流しがら手を握って来るお婆さんから、あまり意味が分かっていないような子供まで私達に感謝を現した。



「でも、リースさん。  これからどうします?  オリガンの街の人に説明しないと」



「分かっているよ。 ライ、早速だけど仕事だよ。  街の長に話をつける。  アタシ達がついて行くからそこでキッチリ話をつけな」



「ああ。 勿論だ。  お前達、俺とロイヤルクラウンの方々で街に行ってくる。  ここの守りは任せたよ」



「頭、そうは言っても戦える者は今、怪我人ばかりですぜ」



「あっ、そうか。  すいません、私達がやりすぎたみたいで・・・」



 しまった。  私達がほとんどの人を倒してしまったから此処を守る人が少なくなってしまったのね。  でも、あれはあっちが悪いんだし、うーん、困ったわね。



「いや、貴女方が悪い訳ではありません!  どうします、頭」



「うーん。  リース、あんたと俺の二人でも大丈夫だろうか?」



「問題ないでしょ。  ここいらの魔物は大したことないし。  ドヤ顔、任せたよ」



「はい。  私が残ります。  安心して行ってきて下さい」



「悪いね。 じゃあ、リース。  行こうか」



「ん・・・」



 リースさんが私をジッと見て何か観察している。  何だろう。  もしかして私じゃ此処の守りが心配?  まだ、私を一人前と認めて貰ってないのかしら。



「ドヤ顔。  魔物は大したことないけど、魔族は別だからね。  やばそうな奴なら命を優先しな」



「は、はい。  分かりました」



 私の言葉を聞いて、リースさんはライさんと二人で街へと向かって行った。  さて、リースさんもいないし、此処の守りを任せられたのだからしっかりしなきゃね。



「皆さん! 私が皆さんをしっかり守りますから、安心してくださいね!」



 ドヤ顔で言う私の言葉に周囲が沸き立つ。  ロイヤルクラウン。  その言葉の意味が漸く私にも分かった。  所謂、一つのブランドになっている。  ロイヤルクラウンならば安心だ。  自分達が心配する事は無い。  そう言った言葉もチラホラと聞こえてくる。  私は自然と己の身体を引き締めた。



 ロイヤルクラウンの名に相応しい姿を見せないと。  出来れば余り強い魔物が来ないといいけれど。  魔族に注意、か。  何も無いといいわね。



 私のそんな気持ちは数刻後、あっけなく打ち砕かれた。






 魔女が支配する大陸。  これは、リース達がライと出会う数日前の話。



「プラムベティ様、私の可愛いお人形は見つかりましたか?」



 薄暗い研究室なような所で、プラムベティが何やら書物を読んでいた。  プラムベティに取って、唯一の楽しみな時間。  そんな貴重な時間を満喫しているプラムベティの部屋に、ビクトリアはお構いなしに入って来る。



 ビクトリアを見たプラムベティは隠す事も無く、嫌悪感を示した表情を取った。  そんなプラムベティに、ビクトリアは気づいていながらも、薄ら笑いを浮かべたまま近づいていった。



「御母様への挨拶は済んだようですね。  “壊れた”貴女に丁度いい者が見つかりました。  私の所では毛嫌いされています。  丁度良かったです。  ベルビューヌ、姿を見せなさい」



 プラムベティがそう言うと、地面に有った血溜まりが見る見るうちに人の姿を作り出した。  そして、一人の魔物が作り出されると、ビクトリアは口元を歪めながら声を発した。



「まあまあ、何と可愛らしいのかしら。  こんな素敵なお人形だとは思わなかったわ。  本当によろしいんですか?」



「好きにしてください。  部下を何人も食い荒らしました。  私の部下には要りません」



 プラムベティはそう言うと、読んでいた本を閉じ、己の影に溶け込んで行った。  残されたビクトリアとベルビューヌは互いに対峙していたが、ビクトリアが優雅に近づき、ベルビューヌを抱きしめた。



「私の可愛いお人形。  これからは私が貴女のご主人様よ」



 【・・・】



 瞬間、ビクトリアの身体が無数の赤い棘に貫かれた。  が、ビクトリアは血の一滴も流さず、ベルビューヌを抱きしめ続けた。



「素敵な挨拶、ありがとう。  本当に、可愛いお人形」



 【な、ぜ?】



「ふふふっ。  何故かしらね?  此方も挨拶をしなくちゃ、ね?  ねえ、コレ、何だと思う?」



 言いながらビクトリアは、金色に光る何かを手にした。  そして、一瞬の内にベルビューヌが細切れと化した。  ボトボトと肉片が落ちる光景を見ながら、ビクトリアは小さく溜息をついた。



「この程度で壊れちゃうのかしら?  つまらな・・・」



 細切れと化したベルビューヌの肉片が赤い液体に変わると、液体は又、元のベルビューヌの身体へと作り変えられた。



「あら?  貴女も面白い身体してるのね」



 【魔女の、力】



「そうだったのね。  ふふふっ。  さて、お互いに挨拶は済んだ事だし、ベルビューヌ。  私はお腹が空いたわ。  私の為に餌を取って来なさい」



 【な、ぜ?】



「私が貴女のご主人様だからよ。  そうね、差し当たって、貴女と同じ匂いの所に行ってみたらどうかしら?  面白い物が見れるかもしれないわ」



 【・・・】



 一向に動かないベルビューヌに対して、ビクトリアは痺れも切らさず、ベルビューヌの動きを待った。  どれくらい経ったか、ベルビューヌは自然と血溜まりに変化していき、姿を消した。  そして、ベルビューヌが完全に消え失せた事を確認したビクトリアは小さく舌打ちしながら愚痴た。



「ちっ、プラムベティの奴。  体よく面倒な奴を押し付けてくれるわね。  まあ、取り合えずは魔女のお気に入りとかいう奴の所へ行ってくれればいい」



 ビクトリアは言いながら突き刺さった棘を抜いていく。  血こそ出ていながら、痛みはあるのか、引き抜く際に苦痛で顔が歪んでいた。



「ベスキュビアの馬鹿はウィンクドレスに殺されるでしょうし。  此方の“手駒”は多い方がいい。  プラムベティは三人の中で一番頭が回る。  あいつに気取られない様にしないと・・・。  三美凶、目にもの見せてくれるわ」








「ロイヤルクラウン様、お茶が入りました」



「ありがとうございます。  あの、私の名前はですね───」



「ロイヤルクラウン様、此方をお食べ下さい。  丹精込めて作った作物を───」



「あ、ありがとうございます。  あのですね、私は───」



 ライさんが保護してくれた人達が私に尽くしてくれている。  ううん、確かに私に尽くしてくれているのだけど、この人達は私を見ていない。  その先、ロイヤルクラウンを見ている。  悔しいとは思わない。  私はリースさんの様に強くもないし、名も売れていない。  ただ、ロイヤルクラウンというブランドの一人に過ぎない。



 分かってはいた。  ロイヤルクラウンに入るという事は、それだけの物を背負う。  私を見ながらも、その先を見ている人達を見て、少し、ほんの少しだけ寂しさを覚えた。



 私は自分とリースさんが痛めつけた元傭兵だった人達のお見舞いを済ませた。  意外にも、誰一人、文句を言う人は居なかった。  そればかりか、ロイヤルクラウンに入れる喜びと、憧れだった者と手合わせ出来た事が誇りになったと言う者もいた。



 私は出されたお茶を飲みながら外を眺めていた。  広間で人々と話ながら談笑する気にはなれなかった。  私は何だろう。  私に個の存在は必要無いのだろうか。  これが“人間”か。  自分でも違和感を覚える、そんな事を考えていた矢先だった。



「魔物だ!!」



 傍にいた見張りの男性の一人が声を上げた。  私はゆっくりと魔物へと眼を移した。  大丈夫。  肌に感じる空気は全く無い。  所謂、雑魚の群れというやつだ。  それでも私は立ち上がり、ゆっくりと銀雪花に手を掛けた。



「下がってください」



「お願いします!  ロイヤルクラウン様!」



 見張りの男性の一声が私の心を苛立たせた。  この人達に悪気は無い。  悪いのは自分だ。  私が、私という一人の剣士が名を上げれば、此処にいる人達も“私”を見てくれる。  



 “人間”もワタシをミトメテくれる。



 私は目の前にいる雑魚を相手に“全力”で向かった。






 



「流石はロイヤルクラウン様だ!!」



 私は意識せず唇を噛みしめていた。  私は何をやっているのだろう。  あんな雑魚に全力を出す必要が有ったのか?  ううん、間違ってはいない。  相手がどんな雑魚であっても全力で戦う。  今までだってそうしてきた。  それが、自分の為だと思って来た。  それなのに───心のざわつきが大きくなった。



「ロイヤルクラウン様!  お疲れになったでしょう?  皆が感謝を述べたいと言っています。  此方へ!」



 見張りの男性が手を招いた。  そんな男性を見て、唇を噛みしめていた私の苛立ちが頂点に達した。



「私は───!!」



 瞬間、私の肌に悪寒が通った。  今まで何度か経験したこの感じ、分かる!  ヤバイ奴が近くにいる!!



「中に居て下さい!!」



「えっ?」



「ちっ!!  これだから“人間”は───!」



 私は自分が言った言葉に違和感を覚えた。  私は今、何を言った?  だが、そんな事を考えている暇も無く、私に向かって無数の赤い棘が迫った。



「くっ!  このっ!!」



 全部は躱せない!  致命傷になる場所以外を叩き落とす!!  私は瞬時にそう判断し、銀雪花を振るった。  赤い棘を叩き落とした時、私の身体は数か所の裂傷を負っていた。



 ちっ、やっぱり全部捌ききれなかった。



「出て来なさい!!」



「ろ、ロイヤルクラウン様・・・」



「中に居ろ!!  邪魔だ!!」



 私の怒気を含めた言葉に男性が呆気に取られた。  それもそうだろう。  先程までの私ではない。  自分でも分かっている。  こんなの、私らしくない。  それでも、今は、今だけはそう言わずにいられなかった。



 【同じ、匂い。  見つけた】



 何処からかそんな声が聞こえると、叩き落とした赤い棘が集まり出し、一人の魔族の形を作り出した。  そんな魔族を見て、見張りの男性は震える声を上げながら洞窟の奥に入って言った。



「ま、まま、魔族だー!!」



 男性の言葉が洞窟内へと響いて言った。  男性の言葉に洞窟内はパニックになるだろう。  リーダーであるライさんもいない、そんな時に魔族がやって来たのだ。  だけど、そんな事、どうでも良い。  今の私の苛立ちをこの魔族にぶつける。  そうしたら、少しは気が晴れるかもしれない。



「悪いけれど、今、凄いイラついてるのよ。  お前がヤバイ奴だってのは分かるけど、引くことは出来ないわ」



 【同じ、匂い】



「お前、名前は?」



 【名、前?】



「そう、名前。  名前ってさ、凄い大事なのよ。  人間だって魔族だって、その人がそこに在るって証明してくれる大切な物。  前にね、名前も聞いていない魔族を倒したんだけどね。  カリテスって奴。  今になって思うわ。  しっかり聞いておけば良かった、ってね。  だから、お前の名前を聞いておきたいの。  名前は?」



 【・・・ベル、ビューヌ】



「ベルビューヌ。  いい名前ね」



 私はベルビューヌに対してそう言うと、思わず笑ってしまった。  魔族であっても名がある。  個を示している。  それに対して私はどうだ。  少なくても此処にいる人達にとってはロイヤルクラウンの一人という認識でしかない。   そう思うと、苛立ちが大きくなった。



 【名、前は?】



「御免なさい。  今の私は名前が無いの。  お前が教えてくれる?」



 【分から、ない】



「そうよね。  御免なさい。  話過ぎたわね。  お前に恨みは無いけれど、私の名前探しに付き合って貰うわ」



 【・・・】 



 私は自分の心の苛立ちと、虚無感を感じながらベルビューヌへと刃を向けた。


挿絵(By みてみん)

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