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罰と想い

 

 私とリースさんがライさんに案内されて着いた場所は、大きな岩をくり抜いて出来た洞窟だった。 洞窟の前には門番の様に二人の男性が槍を手に立っていたが、ライさんが先頭に立って私達を中へと迎え入れてくれた。


 洞窟の中は広かった。 広い空間の中に無数の人、人、人。 あちらこちらで人々が動き回っている。 そして、そんな洞窟内には無数の暗闇の道があり、それぞれの住居だったり、何かの倉庫の役目をしている様だった。


「お前達、客人だよ。 丁重に迎えな」


 近くを通った男性にライさんが声を掛けた。 男性は此方を見るなり目を丸くして驚いていた。


「か、頭ぁ! そいつ等は俺達の敵ですよ!?」


「敵じゃねぇ。 ロイヤルクラウンの方々だ。 ったく、美人だからって相手も確認せず早とちりしやがって」


「ろ、ろろろロイヤルクラウン!?」


 男性の大声に周囲の人々が一斉に此方を見た。 先程までのざわざわした活気は無く、洞窟の中がシンッと静まり返ってしまった。 そんな静寂の中、ライさんが男性を一括した。


「驚いてないでさっさと茶の一つでも持って来な! ほら! お前等も手を動かす! 見世物じゃないよ!」


「無理してる、ね」


「えっ?」


「悪いな、気が利かない奴等ばっかりで」


 リースさんの呟きは私にはよく聞こえなかった。 そんな中、苦笑いしながら此方に振り向いたライさんと、言われて直ぐに走り出した男性を見比べながら私は思わず声を出して笑ってしまった。


「あははっ。 ライさん、恰好いいですね」


「そうかい? まぁ、こいつ等の面倒見てるとどうしてもな」


「これ全部アンタが拾ったの?」


「ま、そういう事になるかな。 魔物や魔族に村ごと滅ぼされて命からがら逃げのびた者。 己の国を守り切れず途方に暮れていた騎士に傭兵。 そんな男達は勿論、女も子供も年寄も全部俺が集めた」


 興味津々で此方を見る人々を意に介さず、ライさんは先に歩き始めた。 私は周囲を見渡しながらライさんについて行く。 リースさんは懐から出した果物を齧りながら横を歩いていた。


 警戒する必要は無い、か。 リースさんがこういう風に食べながら歩いたりしてる時は周囲に危険は無いという事。 リースさんとの旅で分かった事の一つね。


 よく見ると、此処が一つの社会を形成しているのが分かる。 向こうにいる初老の男性は子供達を前に何か教えているみたい。 あっちの女性は大鍋を掻きまわして何か料理でもしているのかしら。 


 あっ、あっちじゃ男の人達が獣を吊るして肉を切ってる。 こっちじゃお婆さん達皆で編み物? 成程、鎧の代わりを作っているのね。 


「取り合えず私の寝床に案内するよ。 此処じゃ落ち着かないしな」


 ライさんはそう言うと、一つの暗闇に溶け込んで行った。 私とリースさんもそれに続いていくと、何やら少し広い空間へと出た。 暗闇で良く見えないけれど、何となく空気で分かる。


「ちょっと待ってな。 よっと」


 ライさんが言いながらゴソゴソと動くと、松明に灯りを付け壁に差し込んだ。 部屋が明るくなると、そこは簡素だった。 人が一人寝れる程の毛皮が敷いてあり、岩で出来た壁には槍や鎧、兜等が無造作に置かれていた。


「此処が俺の寝床だ。 何もないけど、適当に座ってくれ」


「失礼します」


「本当に何も無いね」


「あんまり物を置くのは好きじゃねぇんだ。 で、聞きたいことはあるかい?」


「はい。 此処って、一つの街みたいですよね」


「街、か。 そうかもしれないね。 皆それぞれに役割があるのさ。 若い男達は基本的に狩りをして食料を調達、他には元々騎士や傭兵だった奴等は近づいてきた魔物や魔族と戦う。 若い女達はそんな男達の怪我の具合を見たり、飯を作ってる」


「年寄はガキ共に読み書きの座学、ね」


「ああ。 学があった爺さん達に任せてる。 婆さん達は継ぎ接ぎだが鎧やブーツ、小手なんかを作ってくれてる」


「凄い。 皆で助け合って生きているんですね」


 私の言葉にライさんが女性でありながらも精悍な顔立ちで口を開いた。


「皆、故郷を無くした。 愛する人も亡くした。 全て失くした。 そんな奴等がさ、死にそうな顔でフラフラしてやがるんだ。 何とかしてやりてぇって思うのは当然だろ」


「王にでもなりたいの?」


 リースさんの言葉にライさんがピクリと反応した。 先程までの意気揚々とした空気は無かった。 だが、殺気も無い。 ライさんはジッとリースさんを見つめると、俯きながら答えた。


「別に。 そんなもん興味ねぇ。 唯の善意さ。 悪いか」


「そんな事───」


「別に? いいんじゃないの。 ふーん。 街の真似事、ね。」


 リースさんの言葉に私は思わずリースさんへと顔を向けた。 リースさんは先程まで齧っていた果物を手に、ライさんを見つめていた。 リースさんにしては珍しい。 一口齧っただけでそこから口を付けていない。


「何が、言いたい」


「近くにデカイ街があるっていうのにこんな穴倉で街の真似事してるなんてね」


「ちょっと、リースさん」


「何?」


「そんな言い方ないじゃないですか。 ライさん言ってたじゃないですか。 魔物や魔族にやられない様に保護してるって」


 私の言葉にリースさんは深い溜息を付いた。 えっ、何。 私何かおかしな事言った? 


「アンタさ、この状況が変だと思わない?」


「何処がですか?」


「言ったでしょ。 デカイ街が近くにあるんだよ。 わざわざこんな穴倉にいる意味は?」


「意味・・・?」


 私がそう呟くと、リースさんはまた深い溜息を付いた。 流石にちょっと私も頭にくる。 リースさんのこういう態度、本当に良くないわ。 


「何ですか。 私が馬鹿なのは認めます。 でも、ライさんが、ここにいる皆さんが助け合って生きている事の何が悪いんですか」


「誰も悪いなんて言ってないでしょ。 変だって言ってるんだよ。 ライ、アンタ正直に話してないね。 アタシを舐めてる?」


 ムッカ。 今の一言は完全に私を怒らせた。 リースさんに歯向かって勝てる訳なんかないけど、それでも今の一言は許せないわ。


「何が気に喰わないんですか! 此処にいる人達は何も悪くない! 変なのはリースさんじゃないですか!!」


 私の大声はきっと広間まで通っていたと思う。 証拠に先程までざわざわと聞こえていた声が聞こえなくなった。 私がリースさんを睨みつけ、リースさんはそんな私の視線を受け流していた。 そんな私達に、ライさんが言葉を掛けた。


「止めな。 リース、だっけ。 あんたが言いたい事は分かるよ」


「言いたい事って───」


「此処にいる連中は騎士だった奴や傭兵だった奴等以外だけど、皆自分から街を出たんだ」


「えっ───」


 ライさんの呟きは部屋内に響いた。 小さな言葉だったけど、それは確かに私とリースさんの耳に届いていた。


「いや、わりぃ。 正確に言うと・・・」


「金を払えないから、自分から出て行ったんでしょ」


「お金? どうしてお金が関係するんですか?」


「それ、は・・・」


「アンタね、街の自警団や傭兵には誰が金を払うのさ。 その街を治めている国が払うんだよ? じゃあその金は何処から来ると思う? まさか金が沸いて出るなんて思ってない?」


 リースさんの言葉にライさんは何も答えなかった。 唯、俯いて拳を震わせた。 自分でも制御出来無い程の力なのか、血が落ちている。


「人々の税・・・ですね」


「うちのロイヤルクラウンも慈善団体じゃない。 傭兵国だよ? 人々の税を給金として変わりに魔物や魔族から守る。 この時代そうやって何処の国も成り立ってるんだよ」


「ここにいる連中は何もかも無くした奴等だ。 金なんて持ってる筈がねぇ。 でも、だからって見捨てる訳にもいかねぇだろ!」


「そりゃ、ね。 でも、だから盗賊行為をしますって言うのは違うでしょ。 それによって街の人達にどれだけ被害が出てると思う?」


 ライさんの言葉にリースさんが続く。 それに対してライさんは否定も何もしない。 リースさんはライさんの言葉を分かっていた。


「ああ。 俺達がやってる事は間違ってる。 悪かった」


「謝る相手が違うでしょ。 殺しはしてないからって許される行為じゃない」


「・・・」


「ロイヤルクラウン。 この名が意味する事を知ってるね?」


「ああ」


「此処は西の大陸。 大小様々な国があって、領土もある。 この辺はロイヤルクラウンの領土じゃないけど、それでも西の大陸で最大の権力、力を持った傭兵国の部隊長として審判を下す」


「リースさん───」





「ロイヤルクラウン第四部隊・部隊長として命ずる。 盗賊行為の罰として、盗賊団はオリガンの街にて無期限の出向をする事。 尚、派遣元はロイヤルクラウンとする」





「なっ・・・」


「えっ」


 リースさんの言葉は私にもライさんにとっても予想だにしていない言葉だった。 リースさんはライさんを含む此処の人達をロイヤルクラウンの者として、付近にあるオリガンと呼ばれる街に出向を命じた。 それはつまり───


「お、俺達・・・ロイヤルクラウンの傭兵になれるのか?」


「まだ、仮の話だよ。 正式な書類が無い限りアタシの権限で一時的にそうする」


「い、いいのかよ?」


「じゃあ、何? こんな穴倉でまだ盗賊行為を続けるつもり? だとしたら、アタシは此処でアンタ達を全員捕らえる。 それがアタシの仕事でもあるからね」


「し、しねぇよ! もうそんな事しねぇ!!」


 ライさんは食い気味に身を乗り出しリースさんに迫った。 そんなライさんを真っすぐに見つめたリースさんは持っていた果物を齧ると、ニカッと笑った。


「アンタの強さを盗賊にしとくのは勿体無いしね。 しっかり働きな」


「あの、それって給金も出るんですか?」


「当然。 ま、これだけの人数をいきなり街に住まわすのも大変だろうし、少し時間がかかるだろうけどね。 乗り掛かった舟だし、国と街にはロイヤルクラウンが交渉する。 その後はアンタ等の働きに掛かってるよ」


「良かったですね、ライさん!」


 言いながら私が振り向くと、ライさんは地面に頭と手を付き、震える声を絞り出した。


「すまねぇ。 返しきれねぇ恩だ。 すまねぇ!」


「返すのはアタシじゃない。 迷惑を掛けてきた街の人達だよ。 大変な事だよ。 アンタ達の信頼は無い。 むしろマイナスからのスタートだ。 一つ一つ、信頼を積み重ねていくしかない。 ライ、アンタを信じるからね」


「ああ! ああ!! 任せてくれ!!」


 真剣な、それでいて精悍な顔でライさんは此方に眼を向けた。 何かを決心した、そんな表情だった。 


 私は改めてリースさんという人の底知れなさを知った。 普段は大食らいで物事を適当に考えている事が多いけれど、ここぞという時は客観的な視野と、自分の想いを上手く釣り合わせた考えを持っている。 ロイヤルクラウンでの立場として自由気儘な振る舞いが出来るにも拘わらず、だ。



 やっぱり、リースさんは凄い。 私なんか単純にしか見れてなかったわ。 いつか、いつか私もこの人みたいになれるのかしら───。 リースさん、私、貴女について行って良かったです。 


「ところで、ライ。 アンタも魔族にやられた?」


 でた、リースさんの空気を読めない言葉。 本当さっきまでの恰好良さは何処にいったのかしら。 いや、待って? もしかしてこれもリースさんなりの考えがあっての事かも。


 私は注意深くリースさんの言葉とライさんの言葉に耳を傾けた。


「ああ。 俺にも弟がいた。 傭兵として俺がちょっと他所の国に行ってた時だった。 魔族を狩って、金を貰って、これで少しは家族にも楽をさせられるって、意気揚々と帰ってきたら、だ。 俺がいた街は誰一人生きてる奴なんていなかった」


「そんな・・・」


 やっぱり、ライさんも大切な人を失っていたのね。 私が魔族の力を使った時のあの殺気。 あれは本気で私を殺しにきた殺気だった。 魔族を、心から恨んでいる。


 ライさんの言葉に私は言葉が出ない。 リースさんはライさんの言葉を聞きながらゆっくりと眼を閉じた。 心の中の声にまで耳を傾けるかの様に。


「探したんだ! アデルも! 親父もお袋も! 勿論探した! でも、何処にもいなかった!」


 あれ程の強さを持った人、そして、そんな人が完全に心を折られた姿を初めて見た。 徐々に感情的になりながら、震えながらライさんは顔を覆った。


「今でも夢に見るんだよ。 あの時の楽しかった光景がさ。 そして、目が覚めるとそこには何も無かった。 誰もいない中、目が覚めるんだ」


「それで、そういった連中で此処で暮らしてるって訳、ね」


 リースさんの言葉にライさんは自身を抱きしめると、震えながら答えた。


 あんなに、あんなに強い人が此処まで震えるなんて───。


「忘れられないんだよ。 あの時の恐怖も絶望も。 あの時の幸せも、忘れられねぇ・・・」


 ガチガチと震えるライさんを見て、私はどうする事も出来なかった。 どれ程の恐怖と絶望を経験すればこうなるのか。 私には想像出来なかった。 ううん。 正確には思い出す事が出来なかった、と思う。


 そんなライさんにリースさんは私が思ってもいない行動を取った。


 リースさんはライさんを抱きしめると、ゆっくりと、優しい口調で口を開いた。


「忘れなくていい。 アンタ達はこうやって此処で生きている。 生きているんだよ。 生きてさえいれば、それでいい」


 生きてさえいればいい。 私がヴァレリアーナに瀕死の重傷を負わされた時、リースさん、そしてロザリーさんが言ってくれた言葉。 


「辛い事も、苦しい事も、楽しい事も、全部忘れる必要は無いよ。 大事なのはその経験を生かす事。 アンタは十分良くやってる。 アンタがいなけりゃここにいる奴等は皆今頃あの世だよ。 アンタが生かした。 アンタが此処にいる命を救ったんだ」


「うっ・・・ぐぅ!」


「頑張ったね。 ずっと気を張り詰めてたんだね。 自分だって相当苦しんだ筈だよ。 だけど、リーダーってのはそれを表に出せない。 大丈夫。 アンタは良くやってる。 あっちの世界でアンタの父親も母親も、勿論アデルもアンタの事自慢してるよ」


 リースさんのその言葉に、ライさんは張り詰めていた物が溢れ出た。 子供の様に泣きじゃくるライさんをリースさんは唯黙って抱きしめていた。


 やっぱり、リースさんはライさんの全てを受け止めた。 そうか、リースさんはこうやって色々な人の想いを受け止めてきたのね。 でも、じゃあリースさんはどうなんだろう。 リースさんの想いを、知りたい。


 そんな風に考えながら二人を見つめていると、ライさんの寝床へと男性が飲み物をお盆に乗せてやって来た。


「頭、倉庫から良いお茶が・・・あっ」


「「「あっ」」」


「し、ししし失礼しやした!!」


 ライさんの寝床にやって来た男性は、抱き合うリースさんとライさんを見て慌てて踵を返した。 無理もないわよね。 ライさんは女性だけど、精悍な顔つきをしてるから美青年って言われても疑わないし。 そんな人が美人なリースさんと抱き合ってたら変な勘違いもするわよね。 大食らいだけど。


「嫌な所見られちまったな」


「別に? アタシは気にしないけど。 アンタ女だし」


「そういう意味じゃねぇ。 俺は一応、此処の頭なんだ。 かっこ悪い所見せちまった」


「リーダーがそういう弱ってる所を見せない様にする。 それは大事かもしれないけどね、アンタも人間なんだ。 弱い所が在って当然だよ。 周りの連中に言えないならアタシがいつでも受け止めて上げるよ」


 言いながら見つめるリースさんを見て、ライさんの顔が赤くなる。 あっ、これは・・・そういう事かもしれないわね。


「あ、ああ。 そうかもしれないな! それにしても茶が来ねぇな!!」


「あっ、さっき来た人が持ってましたけど」


「何っ! 何してやがんだ!! ちょっと行ってくる!」


 ライさんは早口ながら大声でそう言うと、慌てて男性の後を追った。 恥ずかしがってるわね、アレ。 


 そんなライさんを見送ったリースさんは頭に?を受かべていた。 こっちはこっちで分かってないわね、コレ。 はぁ、稀少なダブルで強くて美人で大食らい。 その上ジゴロとか・・・。


「リースさん、属性多すぎません?」


「はぁ?」



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