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追憶 形ある死者

 

 『お姉ちゃん! 早くー!』


 『リリア、早すぎるわ。 私体力無いのよ?』


 『いつも家に閉じこもってるからだよ! こんなにいい天気なのに勿体無いよ!』



 舞台は今より数十年前の小さな村。 山沿いにあるこの村は小さく、村民も少ない。 年老いた者が多く、若者と呼べる者は数人足らず。 貧しい暮らしの中、村の者達は畑仕事や牧畜に汗を流していた。 しかし、村の者達は決してそんな暮らしを捨てたりはしない。 先祖代々受け継がれてきたこの村を静かにだが守り続けている。


 『もう! お姉ちゃん遅ーい!』


 『リリアが早いのよ。 これでもリリアに一生懸命ついて来たのよ』


 村を見渡せる丘に二人の女性がいた。 一人は女性と呼ぶより、少女と呼んだ方がいい程の歳の頃で、もう一人は帽子を被り、銀髪。 その器量は女性と呼ぶに相応しい美しい女だった。 二人共良く似ている。 傍から見ても姉妹だという事が分かった。


 『うーん! 風が気持ちいいね!』


 『そうね。 偶には外に出るのもいいかもしれないわね』


 『あたしが誘わないとお姉ちゃん外に出ないんだもん。 村の皆も気にしてるんだからね』


 『ごめんなさい。 少し、気にする様にしなきゃ、ね』


 二人は適当に腰かけると、通り抜ける風を全身に浴びながら花や草の匂いを堪能していた。 そんな中、少女が指をさしながら口を開いた。


 『あ! 見て! ブルズおじさんだよ! おーい! おじさーん!!』


 少女が立ち上がりながら手を振る。 村にいた牧畜を行っている男性が声に気づいたのか、此方に向かってにこやかに手を振った。


 『腰の具合も良いみたいね』


 『お姉ちゃんの魔法が効いたんだね!』


 『魔法じゃないわ。 薬草や身体に良い物を煎じたの。 これのお蔭ね』


 帽子を被った女性はそう言いながら懐から栓をされた試験官を取り出した。 中には不気味な赤黒い液体が入っていた。 そんな女性を見て、少女は口を開いた。 先程までの穏やかな雰囲気ではなく、真剣な眼差しだった。


 『色が、前と違うよ。 お姉ちゃん、まだやってるの?』


 『これは新しいの。 ちょっとした治療なら前のでもいいのだけど、それを改良して───』


 『もう止めようよ。 そんな事してもパパもママも喜ばないよ』


 俯き気味に答える少女に、帽子を被った女性は何も答えない。 ただ、黙って液体を見ていた。 そんな女性を見て、少女は更に激しい口調を口を開いた。


 『いつもいつも夜遅くまで! お姉ちゃんの魔法の液で村の皆も助かってるんだよ!? それでいいじゃない!』


 『・・・』


 『ね? 皆心配してるんだよ?』


 『後、少しなのよ。 後少しで・・・』


 『バカ!!』


 帽子の女性の言葉に、少女は怒りながら立ち上がった。 そんな少女に目もくれず、帽子の女性は未だに平和そのものである村から眼を離さなかった。 そんな女性を見て、少女は呆れながら一人その場を後にした。


 『父さんと母さんに貴女を合わせたいのよ・・・分かって、リリア』






 夜も更けた小さな村にある小さな家。 部屋にあるランプの灯は落とされており、隣同士で並んだ木のベッドの一つには小さな寝息を立てる少女がいた。 しかし、もう一つのベッドにはシーツの乱れ一つも無く、使われた形跡が無い。


 その家には地下室があった。 その地下室には毎夜、絶えずランプの灯があった。 無数の本棚にはギッシリと書物が詰め込まれ、部屋の中央にある机にも書物が山積みにされていた。 床には手書きで書きなぐなった様な文字のある紙が散乱し、薬草や何かの骨、そして、グラスには不気味な色をした液体が入っている。


 そんな部屋の中、床に座り込み、一つの書物に取りつかれている人物がいた。 女は瞬きすら忘れ、書物を読み耽った。 その表情は最早何かの憑りつかれた様な悍ましさを感じさせた。 鬼気迫る表情で、恐ろしい程の速さでページをめくっていた指が、遂に止まった。 そして、女はたった一言、発した。


 『見つけた』





 月夜の中、女は一人山に入った。 普段なら明るい内に入るのだが、興奮が抑えられなかった。 幸い、月の明かりで道が見えた。 体力の無さは自分が一番分かっている、それでも逸る気持ちを抑えられなかった。 女は駆け足気味に山道を登った。 そして、息を切らせながら目指していた場所へついた。


 石が二つ並べられたその場所へ着くと、女は手にしていた木で出来たクワでその場所を掘り始めた。 何処からこんな力が出るのだろうか。 女は興奮したまま掘り進め、目当ての“物“へと行きついた。 大事そうにその二人分の“物”を背負って来た籠に入れると、女はゆっくり歩きながら山を降りた。





 ───これで、ようやく貴女を父さんと母さんに合わせられるわ



 女は山を降りる。



 ───あれは、何?



 女が立ち止まる。



 ───煙?



 ───村から?



 女は背負ってきた荷物をその場に置き、村へと駆けた。





 『ちっ! しけてやがる!! 爺に婆しかいやしねぇ! 殺しても何も面白くもねぇ! オイ! 金目の物はあったか!?』


 『駄目でさぁ。 小さな村ですからねぇ』


 『頭領! ガキがいましたぜ! おら来い!!』


 『痛い!! 離して!!』


 『ほほう。 こりゃなかなかのタマだな。 ガキとは言え売ればいい金になるぜ』


 『ケダモノ!! 死んじゃえ!!』


 『強気なガキだ。 どれ、売る前にちっと遊んでやるか』





 女が村に着いた時、そこは今朝までの平和な村ではなかった。 辺りには血を流し倒れている村人が多数おり、家には火が回り、夜だというのにその村だけがまるで昼間の様に明るかった。


 女が震えながら村に足を踏み入れると、一人の男性がまだ微かに動いているのが目に入った。 女は慌てて近づいていった。


 『ブルズおじさん!』


 『うう・・・リリアが・・・』


 『おじさんしっかりして!!』


 『リリ・・・ア。 すま・・・ヴァレ・・・』


 『おじさん! おじさん!!』


 男性はそれだけ言うと、動かなくなってしまった。 女は事切れた男性に必死に呼びかけたが、反応は無かった。 そして、女は村の奥へと眼向けた。 男性の言葉が頭の中で木霊した。 



 リリア───



 『どれ、もっと顔を見せてみろ』


 頭領と呼ばれた大男がリリアの顔に手を近づけた。 その時、リリアは頭領の男の手に自らの歯を武器に、噛みついた。


 『いてえ!! このガキィ!!』


 『あぐっ!!』


 頭領の大男が咄嗟に殴りつけ、リリアが地面に倒された。 どんなに気が強くとも、相手は大男。 小さな少女では相手になる筈も無かった。 それに、周りには数十人はいるケダモノの群れ。 どうする事も出来なかった。


 『頭領! 顔に傷はつけないでくだせぇ! 高く売れなくなっちまう!』


 『うるせえ! こんなガキもう知るか!!』


 『また始まったよ。 ああなっちまったら止まらねえ。 折角の儲け者なんだけどな』


 頭領の大男が手に居していた槍を持ち上げた。 そして、頭領の大男の槍が振り下ろされる瞬間と、最愛の妹を探して女がその場にやって来たのは同時だった。




 深々と突き刺さった槍は、リリアを中心に、一瞬にしてその場に血溜まりを作り上げた。 リリアは死の真際、最愛の姉を目にし、手を伸ばしながら口を開いた。


 『お・・・ねぇ・・・ちゃ』






 

 『あああっ───!!!』





 悲鳴とも取れる絶望の声がその場に響いた。 その声に、その場にいた頭領含め、ケダモノの群れが気づかない訳は無かった。


 『んんっ!? まだ生き残りがいやがったか』


 『おほっ! こいつは上玉だぁ!!』


 『おお! ありゃあいい! オイ! さっさと捕まえてこい!!』


 頭領の大男の一声で、その場にいたケダモノの群れが女へと向かった。 女は俯き、何かブツブツと呟いている。


 『おうおう。 こっちに来い』


 『───さい』


 ケダモノの群れの一人が女へと手を伸ばした。 女は抵抗もせず、変わらず何かをブツブツと呟いていた。 ケダモノの一人は何を言っているのかと首を傾げながらも女は簡単に捕らえられ、頭領の男の前に連れていかれた。


 『こいつはいい! これは高く売れるぜぇ!』


 『───なさい』


 『んん? さっきから何をブツブツ言ってやがる。 気でもやったか?』


 『ごめんなさい───』


 『あ?』


 女は最後にハッキリそう言うと、懐から栓のついた試験官を取り出した。 そして、不気味な赤黒い液体を自身の口から、体内に取り込んで“しまった”。


 『オイ! 今何を飲んだ!! まさか死ぬ気じゃ───!』


 『ぐっ・・・がっ・・・!!』


 女がその場に蹲り、激しい痙攣を起こした。 周りにいたゲタモノ達はそんな女を見て何事かと近づいたが、頭領の大男の目には死より悍ましいものが見えてしまった。


 『近づくんじゃねぇ!! 引き上げだ! さっさとしろぉ!!』


 頭領の大男が言いながら一人走り出すと、痙攣を起こしていた女の身体中が溶け始めて行った。 身体だけではなく、身に着けていた衣服から帽子まで全てが液体状に溶け始めた。


 『あがぁああ!!』


 女が血を吐きながら叫び声を上げると、その光景と頭領の言葉に従い、ケダモノ達は村から一斉に引き上げて行った。



 火が家を包む音だけが残る村の中、一人の女の“断末魔”が響き渡った。


 




 ケダモノ達とアジトの中で酒を飲みながら、頭領の大男は震えが、汗が止まらなかった。


 (俺の眼がおかしくなったとしか思えねえ! “アレ”は人間じゃねえ! 死者。 そうだ、死者だ! あの女は生きながらに死者になりやがった!!)









 長雨のせいか、家に回った火が消え失せ、辺りには死臭と焦げた匂いが充満していた。 生命が感じられない状況の中、もぞもぞと動いている物体があった。 液体の様な物は徐々に激しく蠢くと、一つの形に落ち着いた。


 形ある者は辺りをゆっくり見渡すと、血溜まりの中に眠る少女へと歩みを進めた。 そして、少女を抱き抱えると声を発した。



 『ごめんなさい』





 数日後、盗賊団のアジトと見られる場所で、目をくり抜かれた死体が数十人分発見された。 中でも、大男の死体は凄惨の一言であり、眼だけではなく、舌すらも抜き取られていたという。 


 誰がやったのか、今でも分かってはいない。


 挿絵(By みてみん)

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