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未来への道

 

「ベスキュビアにしろ貴女にしろ、頭が痛いです」


 廃墟と化した街中を歩く二人の魔族。 一人は言わずと知れた三美凶の三女であるプラムベティ。 そして、一見すると何処かの王女にも見える者。 しかしながら、その優雅さとは裏腹に、空気から並の魔族では無い事が伺える。


「あら? 私はベスキュビアみたいに馬鹿ではありません。 ウィンクドレス様を殺すなんて、ふふふっ。 本当に笑わせてもらいました」


「貴女達二人だけでまだ良かったです。 “三人目”まで出されたら此方も本気にならざるを得ませんから」


「ふふふっ。 それよりもプラムベティ様。 私は部下が欲しいのですが。 忠実な私だけのお人形が欲しいです」


「貴女の眼鏡に叶うかは分かりませんが、手配しましょう」


「有難うございます」


「さて、此処まで来れば後の道は分かりますね? 御母様に挨拶をなさった後、私の所まで来てください。 それまでにお人形とやらの件を片付けておきます」


「はい」


 プラムベティが振り向き、魔族に背中を見せた。 そんな背中を見て魔族は口元を歪め、プラムベティへと近づいて行く。 その手には金色に光る何かが握られていた。


「それで、どうするおつもりですか?」


「あら? バレてましたか」


 プラムベティは振り返りもせず、言葉だけを発した。 そんなプラムベティに魔族は舌を出しながら肩をすくめた。


「私を殺しますか?」


「出来ればそうしたいですね」


「貴女に出来ますか?」


「どうでしょう。 やってみましょうか」


 魔族の空気が変わる。 明らかな殺気を放つ魔族に対して、プラムベティはそれでも振り返る事をせず、溜息を付きながら口を開いた。


「馬鹿な事はしない様、お願いします。 私も同族は殺したくありません」


「あら。 三美凶ともあろう方がその様な事仰ってよろしいんですか? 部下に示しがつかないのでは?」


「オルベルスお姉様が示しがつく行動を取られています。 ドレスお姉様は意味合いが違いますが」


「成程? そうやって自分は部下達から信頼を得る、と。 ふふふっ。 本当、昔から貴女は私が一番嫌いなタイプです」


「誉め言葉として受け取ります。 ビクトリア」


 そこまで話すと、プラムベティは自身の影の中に消えていった。 そして、残されたビクトリアは一人手にした金色の何かを手に不気味な笑みを浮かべた。


「三美凶プラムベティ。 貴女はやっぱり大嫌いなタイプです」



挿絵(By みてみん)



 ロイヤルミュート国内。 大陸最強の傭兵国の中に、ロイヤルクラウンはある。 その中では日夜、部隊兵から宿舎兵達が錬磨に励んでいる。 日々、魔物の侵攻は続き、ロイヤルクラウンが守護する西の大陸にも少なからず魔物はやってくる。 しかし、そんな魔物達を大陸境で抑え込んでいるのはロイヤルクラウンの力が大きい。


 西の大陸にも大小様々な国はあるが、ロイヤルクラウンは傭兵国であり、それぞれの国や街に派遣され、周囲の魔物達を狩っていた。 そんな傭兵国では少しでも多くの手練れを育成する為、数多くの者達が汗を血を流しながら己の力量を上げて行っている。



「駄目だ! 相手の動きを読むのだ。 魔物ならいざ知らず、魔族となれば話は違う。 知能がある。 それを忘れるな!」


「は、はい!」


「ふい~やっぱり私ダメダメだ~」


「エマ! 泣き言は他所でやれ! ドヤ顔はリース様との旅で先を行っているぞ! 取り残されていいのか!」


「い、嫌です~!」


「ならば死ぬ気で来い! それからノーティス! 攻め所を見誤るな! 敵は悠長に待って等いないぞ!」


「はい!」


 錬磨中の部隊兵の中でもある二人には特に声が飛んでいた。 飛ばしている声の持ち主はロザリー。 二人を相手に片手で相手をしながら声を荒げている。 ノーティス、そしてエマが部隊兵になってまだ日が浅いが、ロザリーは特にこの二人へ激を飛ばしていた。


「駄目だ駄目だ! ノーティス! お前の武器は何だ! 遠距離からナイフを投げるだけか!? 接近された時の事を考えるんだ!」


「うっ・・・ぐう!!」


 素手で接近するロザリーに必死になってナイフを振るうが、ノーティスの攻撃は悉くロザリーに見切られ、躱されていく。 そして、ロザリーの膝蹴りがノーティスの鳩尾にめり込んだ。 座り込み、嘔吐するノーティスにロザリーが見下ろしながら口を開いた。


「遅い! 魔族が相手なら既に首だけになっているぞ!」


「かはっ・・・!」


 ロザリーは膝をつくノーティスに声を張る。 そんなロザリーにエマが後ろから鎖鎌を放った。 しかし、ロザリーはそれを視認もせず指で挟み込み受け止めると、驚愕しているエマへと振り返った。


「エマ! 不意打ちならば確実に仕留めろ! 躱され、受けられた後も考えろ! 一秒事に戦況は変化するぞ!」


 言いながらロザリーは鎖鎌をエマへと投げした。 避けれないと悟ったエマは思わず眼を瞑ってしまう。 しかし、鎖鎌はエマに当たる直前、ノーティスの放ったナイフに弾かれ、地面に突き刺さった。 ホッとするノーティスにロザリーの蹴りがめり込んだ。 衝撃で地面を滑りながらノーティスが吹き飛んだ。


「エマ! 戦闘中に眼を瞑る奴があるか! ノーティス! 味方を助けるのはいいが自身の防御がなっていない! 油断するな!」


「うう・・・」


「ノ、ノーティスちゃん~・・・」



 《毎日毎日凄いわね。 あの二人もよくロザリーと錬磨するわ》


 《何でも自分達からロザリーに直訴したらしいわよ? ほら、何て名前だっけ、忘れたけどリース様と一緒に旅に出ている娘。 あの娘と同室だったらしいからライバル心メラメラみたい》


 《リース様と二人旅なんて羨ましいわよね》


 《ほんとよね》


「貴方達も口を動かさず手を動かして下さい!」


 ロザリーの声が他の部隊兵達へと向いた。 今日も一日、ロザリーの声が錬磨場へ響いていた。




「つぅ・・・!」


「ノーティスちゃん大丈夫~?」


 自室のベッドで横になり、苦しそうな声をノーティスが上げた。 それを見たエマが心配そうな顔で近づいてくる。


「大丈夫よ。 いつもの事でしょ」


「そうだけど~・・・最近、ロザリー様の錬磨が強くなってる気がするよ~」


「そうでしょうね。 私達を部隊兵にしたくらいだもの。 人員不足なのよ。 だから、一日でも早く強くなって欲しいからでしょ」


「分かってるけど~。 メイドの人達も随分減ったよね~」


「メイドも次々に部隊兵に上がってるみたい。 ミルノア様の部隊がどうなったか聞いているでしょ」


「うん・・・。 帰って来たのがダリアだけだもんね・・・」


 天井を見ながらノーティスは考える。 ダリアの口からミルノアの部隊が壊滅したと聞き、最初は驚いた。 ミルノアの部隊は前線で絶えず闘いに身を置いていた部隊。 所謂、精鋭とも呼ばれる部隊だった。 そこにダリアが配属されたのも、ミルノアへの絶対の信頼があっての事だ。 それが、たった一人の魔族に壊滅させられた。 噂話程度だが、アルテア総督もミルノアの死と、部隊兵達の死に涙を流したという。


「あのミルノア様の部隊がたった一人の魔族に潰された。 強くならなきゃいけないのよ、私達は」


「ドヤ顔ちゃんも頑張ってるもんね・・・」


「ええ。 旅立ってもう何ヶ月も経つけれど、あの娘に置いて行かれる訳には行かないわ」


「そうだよね・・・」


 暫く二人の間に沈黙が流れたが、ノーティスが身体に鞭を打って立ち上がった。


「うっ・・・くっ!」


「あっ! まだ立っちゃダメだよ~!」


「休んでいる暇なんて無いのよ。 時間が惜しいわ」


「ノーティスちゃん・・・」


 言いながらノーティスはフラフラの身体を引きずりながら部屋を出て行こうとしたが、エマが自身の肩にノーティスの腕を回した。


「私も行くよ~。 負けてられないもんね~」


 力強く前を向くエマに対して、ノーティスは小さく微笑んだ。 二人が部屋の扉を開けると、淡い光が二人を包み込んで行った。






 

 一日の錬磨を終え、ロザリーは自室で書類を整理していた。 机の上には束になった紙が置かれており、そこには宿舎兵から部隊兵までの一人一人の事が細かく書いてある。 それら全てに目を通し、明日以降の錬磨の内容を考えるのも宿舎兵長であるロザリーの仕事でもある。


 書類を整理していると、来客を知らせるノックが二度鳴った。 ロザリーが答える前に顔を上げると、中に入って来たのはオリガだった。


「どう? あの二人」


「オリガ、か。 まだまだ話にもならない。 やはりメイドを飛び越え部隊兵に上げるのは早すぎたんだろうか」


「決めたのはロザリー。 第十部隊部隊長となった今では泣き言」


「そういうオリガもミルノア様の後をついで第九部隊の部隊長だろう? こんな所にいていいのか?」


「イディス」


「また副部隊長の妹に任せているのか。 いい加減しっかりしてほしいものだ」


 ロザリーの言葉にオリガは何も答えない。 代わりに水差しからコップに二人分の水を注ぐと、一つをロザリーに手渡した。


「ああ、すまない。 あの二人、本来ならまだ赤服メイドレベルなんだが・・・。 ドヤ顔はリース様と二人旅だ。 恐らく、かなりのレベルアップを図っているだろう。 二人がな、離されたくないと言って来たんだ」


 オリガは答えない。 ただ黙って水を飲むと、壁に寄りかかってロザリーの言葉を待った。


「嬉しかったさ。 問題児部屋の三人だったが、一人はリース様に見出され共に旅に出た。 まあ、トレブルという特殊な奴だったからっていうのもあるが。 そんな中、残った二人は離されまいと必死になって錬磨を行っている」


「それで?」


「随分成長した。 此処に来た時とは比べ物にならない程、だ。 だが・・・」


 差し出されたコップの水に自身の顔を映したロザリーは次の言葉が出てこない。 それを酌んでか、オリガが口を開いた。


「ブルデンバウムから来た、ジュナ様? ミルノア様?」


「どちらも、だ」


 先日、イリーナとブルデンバウムからやって来たジュナがロイヤルクラウンへと帰還した。 ジュナは傷だらけだったが、命に別状は無かった。 傷が回復した現在はソフィアを待つ為にロイヤルクラウンで特別講師を行っている。


「ミルノア様の部隊が一人の魔族に壊滅。 生き残ったのはダリアだけだ。 信じられなかったよ」


「ミルノア様は強かった。 錬磨は地獄。 その後の食事会は最高」


「ははは。 ああ、確かに錬磨は地獄だったな。 お互い血反吐をよく吐いたものだ。 食事会もな。 あれだけ宿舎兵の話を聞いてくれる人もいなかった。 強く、優しいお方だった。 惜しい人を亡くした。 分かるか、オリガ。 そんな魔族が何処にいるかも分からないんだ。 これ程に恐ろしい事はない」


 ロザリーの言葉にオリガは水を飲む事で返した。 ロザリーもオリガも宿舎兵時代にミルノアから錬磨を受けている。 あれ程の人が戦死してしまう等、考えられなかった。


「ブルデンバウムから来たジュナ様はあれだけの若さでいながら実力は私達より上だ。 イリーナ様と同レベルと言ってもいい。 驚いたよ。 そして、私の甘さを知った」


「彼女は生まれながら持った」


「分かっている。 生まれながら持っている物が違う。 それに加え、ブルデンバウムでも相当な錬磨、研鑽をしてきたんだろう。 聞けば、あのソフィア様の御付きと言うではないか」


 オリガが一口水を含んだ。 ロザリーはまだ口は付けない。


「そんなジュナ様やイリーナ様でさえ闘う事さえ出来ない相手。 そんな魔族がどれだけいるのか分からない。 分からないが、このままではあの娘達は直ぐに戦死してしまう。 それだけは、避けたい」


「一歩、一歩」


「少しずつだが成長はしている。 リース様にも焦るなと言われている。 なあ、オリガ。 私達はあの娘達にやれるだけの事はやっているだろうか? あの娘達は国の、延いては世界の未来だ」


 オリガは答えない。 オリガ自身、アルテアからの命で宿舎兵やメイド達の錬磨を指導しているが、著しく成長する者もいれば、そうでない者もいる。 そんな現状に溜息を付く時もあった。


「魔族達の力は日に日に大きくなっているだろう。 それに対して、うちの者達はどうか。 このままでは何れ・・・」


 ロザリーは敢えて言葉を切った。 これ以上言ってしまえば自分がやって来た事を否定してしまう事になる。 そんなロザリーを見て、オリガが口を開いた。


「不安に思うなら練度を上げるしかない」


「そう、だが。 今でさえ死にそうな毎日を送っている。 これ以上練度を上げれば逆効果だ」


「甘え」


「はは。 ミルノア様ならそう言うだろうな。 やはり、私は甘いか」


 ロザリーは自嘲気味に笑うと手にしていた水を飲み干した。 乾いている筈の喉に通った冷たい水は、ロザリーに確かな潤いを与えた。


 (あの娘達は未来だ。 私はその未来へ少しでも力になれればいい。 そうですよね、ミルノア様)


挿絵(By みてみん)

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