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別れと旅路

 

 東の大陸にはかつてない程の地響きが起こっていた。 そこに蔓延る魔物や魔族達はその原因を聞かなくても本能で分かっており、委縮し、震えあがっていた。


 そんな地響きの中心地である一つの城の中では、本来ならば数千を超える魔族が勝手気ままに存在していたが、今は数人を残すのみあった。



「御母様、お気づきでしょうが、プリミアとイルミディーテが殺されました」


「相手はロイヤルクラウン第五部隊長アンナ。 そして、ブルデンバウム最高戦力ソフィアです」


 唯、そこにいるだけで悍ましい程の威圧を放つ魔女に対して、正面から対峙できる者は少ない。 唯一といっていいのが娘達である三美凶と、その側近が精々といった所だった。


「二人を殺した奴をわらわが知らぬと思うか?」


 魔女のその一言だけでそこにいる数名の者達の命をその手中にしている事が分かった。 


「オルベルスよ、ドレスは何処におる」


「目下、部下たちに探させております」



「何処におる」



「っ・・・! 御母様、どうかお怒りを治めて下さい。 部下達が怯えてしまいますわ」


 凄まじい程の威圧に、オルベルスは努めて冷静に返したが、内心では冷や汗が止まってはいなかった。 そんな、オルベルスを見かねてか、プラムベティが口を挟んだ。


「御母様、ドレスお姉様の事ならば私にお任せ下さい。 必ずや此処に連れてまいります」


「ベティ、貴女が直接出向く事?」


「オルベルスお姉様、ドレスお姉様が今回の一件に絡んでいるのは必然。 部下達では返り討ちに合うだけです。 私が直接ドレスお姉様を探しに行きますわ」


 そんな二人の会話に数歩後ろに下がって事の成り行きを見ていたガルムボーンが口を開いた。


 『ドレスサマハ クウカンヲ イドウサレルカタデス。 ドノヨウニ サガスオツモリデスカ』


「私は相手の空気を一度見れば影を使って移動する事が出来るのです。 お忘れですか?」


 『ゾンジテオリマス。 シカシ ドレスサマニモ カノウナノデスカ?』


「誰が対象でも可能です。 それでは、直ぐにドレスお姉様を・・・」



「ベティ、その必要は無い」



 魔女の言葉に、プラムベティの動きが止まると、魔女の間への扉を開く者がいた。 巨大な扉を開き、中に入って来たのは憎悪に捕らわれた和服を着た白髪の女性だった。


「その役、我が引き受ける」


「ガデルベルナ。 貴女、傷は癒えたの?」


「オルベルス、ウィンクドレスは我が連れてくる。 手出しは無用だ」


 千切れた左腕から直接生えている白蛇が威嚇するように牙を向いた。 そんな憎悪の感情を剥き出しにするガデルベルナを見て、魔女は短い言葉を発した。


「良い。 行け」


 それだけの言葉を聞くと、ガデルベルナは踵を返して魔女の間を後にした。 そんな後ろ姿を見送ったプラムベティが誰に話す訳でもなく言葉を発した。


「恐ろしい程の憎悪ですね。 空気も以前とは段違いに上がっていますし。 今となってはプリミアもイルミディーテも相手にならない程」


「彼女を突き動かすのは恨み、ね。 御母様、誰かガデルベルナに付けますか?」


「放って置くが良い。 それとは別に、オルベルスよ。 “あの二人”を地下牢獄から引きずり出すが良い」


 魔女の言葉に娘二人がハッとした。 お互いに顔を合わせると、オルベルスネーシアが魔女に向かって口を開いた。


「御母様、“あの二人”を出すという事はあまり気が乗りませんが・・・」


「お主の気等どうでも良い」


「ですが・・・」



「ですが? 何だ?」



 魔女の言葉にオルベルスネーシアの袖を引っ張ったプラムベティは、これ以上母親の機嫌を悪くさせてはならないと、顔を横に振った。 諦めたかの様に唇を噛んだオルベルスネーシアは母親に一礼すると、その場を後にした。



 (何てことに。 あんな面倒な二人が外に出たら人間共は塵一つ残らず皆殺しになるわ。 そうなったら私達も生きては行けなくなってしまう。 どうにか、策を考えなくては・・・)










「うふふふ」


「さっきから気色が悪いよ」


「だって、見て下さいよこの刀! 凄い綺麗。 それにあの切れ味! 流石は伝説の刀鍛冶の娘さんが打った刀ですよね」


「分かったから。 それ、もう何度も聞いたからさ。 いい加減仕舞いなよ」


「うふふふ」


「聞いちゃいないね。 はぁ」


 私の刀が新しく生まれ変わった。 あんな辺境の地に半年も缶詰だったのは辛かったけど、その価値はあったわ。 刀身の美しさだけではなく、鞘にも綺麗な飾りが彫ってある。 マキさん曰く、女なんだから少しは着飾らないとって事みたい。 うん、流石マキさん。 分かっているわね。


 半年。 この半年の間に私の身体にも色々な変化があった。 悪魔の力を使いこなす為にリースさんとヴラナさんの二人で私の事を見てくれた。 まだ、コントロールは難しいけど、前みたいに身体が動けなくなるなんて事は無くなったけど、それでも、リースさんとヴラナさんはこの力を使う事をあまり良しとは思っていない。


 聞けば、使い過ぎるといずれ暴走する可能性も高いという事だった。 それに、私自身、悪魔の力を使う事に抵抗はある。 私は剣士であって、悪魔の力を使うダブルとは違う、そう考えているから。 それでも、悪魔の力を使った時は、身体能力が飛躍的に向上するのが分かる。 力もスピードも、以前の私とは比べ物にならない程の力になっている。


 髪を操る事も出来るけど、此方の方はまだ上手くいかない。 意識してやってみても、ガデルベルナと戦った時みたいな硬質化された髪の毛を作り出す事は難しい。 此方も、リースさん曰く、修行不足という事みたい。



「いいから、仕舞いな。 こんな所で刀なんて出してると変な奴に見られるよ」


「あ、そうですね」


 私はいそいそと刀を鞘に仕舞うと、辺りを見渡した。 ガヤガヤと五月蠅い此処は、西の大陸の外れにある街の酒場。 西の大陸はロイヤルクラウンが魔物の侵攻を抑え込んでいる為、比較的に穏やかな土地でもある。 その大陸の中でも外れにあるこの街は、一際大きく、多くの人々が住んでいた。


「西の大陸にもこんな大きな街があるって知りませんでした」


「アンタこっちの大陸出身でしょ? 旅してた時は来なかったの?」


「うーん、来た事はないですね。 なんか噂は聞いてましたけど」


「噂?」


「ああ、大した事はないですよ。 大きな街があるってくらいしか」


「ふーん。 オヤジ、これ、後二つ持ってきて」


 【あいよ】


 カウンター席で食事をする私達二人だけど、リースさんの前には凄い数の皿が積まれていた。 しかし、どれだけ食べるのかしらね。 それなのにこの体系って反則よね。


「そう言えば、フラウノアさんってあれだけの強さがあるのにどうしてあそこから離れないんですかね」


「離れないんじゃなくて、離れられないんだよ。 あの人の強さはあの土地だから在るんであって、あそこを離れたら半減しちまうよ」


「そうなんですか?」


「人間でもなく、魔族でもない。 要は自然の生き物だからね。 おっ、きたきた」


 出された肉料理に齧り付くリースさんを横目に、私はヴラナさんとマキさんと分かれた時を思い出した。




 『ドヤ顔、リース。 半年という短い間だったが、久しぶりに楽しかったぞ』


 『私もヴラナさんと錬磨出来て嬉しかったです。 ありがとうございました』


 『ヴラナ、何かあったらロイヤルクラウンへ知らせに来な。 アタシが直ぐに駆けつけるよ』


 『心配はいらん。 お前達こそ道中気をつけろ。 次はオラールの森に行くのだろう? あそこの魔物は中々に手強い。 ドヤ顔の良い経験になるだろう』


 『大丈夫です。 マキさんのこの刀でばっさばっさと倒しますよ!』


 『刀身の長さはあんたに合わせといた。 あの長刀だと使いづらいだろうからね。 母親の背中を追いかけるのもいいが、あんたにはあんたの道がある。 それを忘れないようにな』


 『少し残念でもありますけど、ありがとうございます』


 『よし、行こうか。 じゃあ、ヴラナ、女王・・・じゃない、マキ。 世話になったね』


 『リース』


 『ん?』


 『私一人では本気のガデルベルナには勝てなかっただろう。 この地を代表して、感謝する。 私の力が必要になる時、“私達”は必ずお前達の力となるであろう。 また会おう、友よ』


 『ったく、最後まで武人だね。 また会おう友よ、ってね』


 私はガッチリと握った二人の手に、氷の結晶が舞い降りてきたのを目にした。 そして、それを見てマキさんが微笑んでいたのを覚えている。


 ヴラナさん達に手を振って離れる私に、ヴラナさんが雄叫びを上げた。 そして、それに呼応するかの様に、目に見えない様々な所から白狼達の雄叫びが響き渡った。



 私が思い出に浸っている中、リースさんは肉を頬張っている。 はぁ、ヴラナさんの恰好良さが少しでもリースさんにあればな・・・。 


 先程よりハイペースに食べ続けるリースさんを見て、私は何気なしに口を開いた。


「ところで、そんなに食べてお金はあるんでんすか?」


「ふえ? はいけろ(ないけど)?」


「えっ?」


「ん。 ぷはっ。 無いけど? アンタ出しといてよ」


「はっ!? お金がない!?」


 リースさんの言葉に私は立ち上がりながら叫んだ。 そんな私を見て、前に立つ店主の男性が怪しげな目を向けてくる。 私はそれを作り笑いで交わすと、コソコソした声でリースさんに口を開いた。


「どういう事ですか、お金が無いって」


「だって、アタシお金ってそんなに持たないし」


「いや、そうじゃなくて、お金が無いのにこんなに飲み食いしたんですか?」


「大体は大食いチャレンジでタダになるし。 此処は無いみたいだけど。 だから、アンタ出しといてよ」


「いや、私もそんなに持ってませんよ! 魔族の子達にお金を渡したの見てたじゃないですか!」


 うわっ、何このコイツ使えねーって顔。 いや、おかしいでしょ。 大体、自分が滅茶苦茶食べまくってるのに私が出すっていうのはおかしいわ。


「じゃあ、どうすんのさ。 無銭飲食でもする?」


「駄目ですよ!」


「五月蠅いな。 よし、こういう時のやり方を教えて上げるよ」


「やり方?」


 そう言うと、リースさんは目の前の店主へとにこやかに口を開いた。


「オヤジ、何か困りごとは無い?」


 【困りごと?】


「そっ。 アタシ達、金が無いんだけどさ、困りごとがあるなら引き受けるよ。 それで此処の勘定をタダにしてほしいんだけど」


 リースさんの言葉に店主は腕を組んで頭を捻った。 そんな中、リースさんは私の方を見てニコッと笑った。 こういう笑顔をするという事はそういう事、ね。 その困りごと、つまりは面倒事を私に解決させるって訳ね。 やっぱりこの人性格悪いわっ!


 【ああ、一つあるな】


「おっ、何?」


 【実はここ最近、この辺りで盗賊が出てよ。 これがまたタチが悪くてな。 殺しまではしないが、行商人の荷物から旅の者まで襲われててよ。 特に女には目がないらしくてな。 何人か攫われた者もいるみたいだ】


「へえ? このご時世に人間同士でそんな事やってるんだ?」


 【まあ、どの時代にもそういう輩ってのはいるもんだ。 それでな、そこそこ腕の立つ者達が討伐に向かったんだか、返り討ちにあっちまってよ。 どうしたもんかと街の者は悩まさせているらしいぜ】


「よしっ、じゃあアタシ達がソイツ等を締めてきてやるよ。 それでタダにしてくれる?」


 【まあ、そいつ等のせいでここらの景気も悪くはなってきているからやってくれるんならタダにしてもいいが、逃げやしないだろうな?】


 当然の疑いの目を向ける店主に、リースさんは懐から出した黒いカードを渡した。 それを見た店主は目を丸くし、カードを私達を何度も見返した。 ロイヤルクラウンのカード、か。 それをカタにするなんてアルテアさんが聞いたら怒りそうね。


「これを預けとくよ。 それでどう?」


 【あ、ああ。 これならいい。 大事に保管させてもらうぜ。 嬢ちゃん達は別嬪だからな、ニ、三日外を歩いていれば向こうから来るだろう】


「よしっ。 腹ごなしに行くとしようか。 ほら、さっさとしな。 アンタが餌になるんだから」


「私がですか!? リースさんの方が綺麗じゃないですか」


「そういうのはアンタの役目でしょ。 行くよ」


「あっ、もう! 待ってくださいよ!」


 私は店を出るリースさんを慌てて追いかけた。 とんだ事になっちゃったわ。 でも、街の人々を困らせる盗賊団か。 うん、そいつ等を倒せば私のファンもグンッと増えるわね。 それに、困っている人達を放って置く訳にもいかないしね。












「ヴラナ、何だ? それは」


「女王。 これか? これは色紙という物らしい」


「色紙? 何に使う?」


「なんでもサインという物を書く為にあるらしい」


「サイン? 印みたいな物か」


「そうみたいだ」


「それが、あの娘の名前か」


「ああ。 面白い名前だ」


「エスターが付けたのか、変わらずアイツの名づけは最悪だな。 確か己の名前をかけてエスターと戦った奴がいたな。 それで敢無く惨敗。 何と言ったかな」


「昔の話だ」


「ああ、思い出したぞ。 ポチ」


「私はヴラナブランだ」

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