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ジュナVS禍渦

 つまらない。 今の私の率直な気持ちだ。 確かに南の大陸で氷の女王にやられた身体は治った。 当然イルミディーテの身体も治っている。 だけど、ガデルベルナの怪我はまだ完治していない。 それを見る為、イルミディーテはガデルベルナに付きっきりになっている。 プラムベティ様の命令とは言え、私一人で外に出るのは久しぶり。 だけど、やっぱり一人はつまらない。


「プッ。 不味い」


 襲った村の人間を食したが、味が悪い。 やっぱりある程度の強さを持った人間じゃないと腹が満たされない。 このまま適当にふらついていて丁度良い人間が見つかるかどうか。 ちっ、やっぱりネヴァナローナなんかに西の大陸への侵攻役をくれてやるんじゃなかった。 あの時は怪我もまだ完治していなかったから仕方が無いけど。


「うーん・・・はぁ」


 私は破壊した村を眺め、人間共の死体を見渡すと、大きく伸びをした。 一度、東の大陸に戻るか。 そう思い、私は空に浮かんだ。 軽く先見眼で辺りを見渡す。 森の中にあった小さな村以外、建物らしき物は無い。 空気も感じられない。 ハッキリ言って私の先見眼は弱い。 しかし、私にはイルミディーテ以上の力がある。 いつもならイルミディーテが次の場所へ案内してくれるが、今は一人だ。 先見眼で見えない以上、どうしようもない。


「帰ろ。 お腹空いたし」


 小さく呟き、東の大陸に向かおうとしたその時、弱い私の先見眼に何かの空気を感じた。 人間だ。 数は十数人。 その中に、美味そうな人間の空気がある。 私は舌なめずりすると、一気にその空気の場所へと飛び立った。






 (!!)


 疎開中の人々をブルデンバウムへ送り届けている最中、魔族の空気を感じると、ジュナは足を止めた。 後ろをついて来ていた人々は、足を止めたジュナを不思議そうに見ている。 そして、ジュナが急に人々に振り返ると、大声で叫んだ。


「皆さん走って!!」


「え?」


 何事かと人々が戸惑うと、ジュナはクナイと取り出し、空を見上げた。 森の中とは言え、開けた場所もある。 幸か不幸かこの場所はそんな開けた場所だった。


 (駄目だ・・・! 間に合わない!)


 ジュナは直ぐに戦闘態勢に入ると、空から突っ込んで来る魔族に自らぶつかっていった。


「人間のニオイだー!!」


「させません!!」



 一瞬の攻防の後、ジュナと魔族の女が距離を取ると、ようやく人々にも何が起こったのか理解する。 魔族だ。 魔族がやってきた。 そして、人々はパニックを起こした。 悲鳴を上げ、一斉に駆けだしたが、魔族からすればそれは歩いているのと同じ速さだ。 


「逃がさないー!」


「くっ、このっ!!」


 人々を狙う魔族の女に対し、ジュナはクナイを投げつける。 正確に、恐ろしい速さで迫るクナイだったが、魔族の女はそれらを瞬時に交わすと、子供を抱える一人の女性の目の前に現れた。


「お前は不味そうだけど、いただきまーす!」


 眼前に迫る鋭い牙に 動く事さえ出来ない女性は、死を目前とした。 しかし、魔族の女の牙は女性に届く事は無かった。


「させないと・・・言っているでしょう!」


 二本のクナイを手に、ジュナは魔族の女の牙を防いだ。 そして、後ろにいる女性に叫んだ。


「走って!! 早く!!」


 言われた女性は、震えながらも子供を抱え、走り出した。 そんな光景を見て、魔族の女は自身より小さい女を見下ろすと、小さく呟いた。 


「お前、邪魔だよ」


 魔族の女性が鋭い爪でジュナの腹部を捌いた。 しかし、ジュナも寸ででそれを交わし、木の枝に降り立った。 そして、共に改めてお互いをじっくりと視認する。 そんな中、先に口を開いたのはジュナだった。


「貴女、“禍渦(まがうず)”ですね」


「私を知ってるんだー?」


「東の大陸で最大の国を滅ぼした際、随分と暴れ回ったそうですね。 書物で見た事あります」


「へぇ、私も有名人なんだねー。 で、あんた誰?」


「プリミア、そしてイルミディーテ。 魔族の中でもそれなりに有名ですよ。 三美凶には劣るみたいですが」


「うるさいな。 三美凶の方々は私達とは生まれ持った物が違うんだよ。 だからさ、あんた誰?」


 プリミアの問いにジュナは答えない。 その代わり、クナイを構えると、戦闘態勢を取った。


「戦闘はあたしの仕事じゃないんですけどね、そうも言ってられません。 “禍渦(まがうず)のプリミア”  此処で消えて貰います」


「面白い事言うね。 やってみなー? 名も無き餌」





 四方八方に動き回り、クナイを投げ飛ばすジュナに対し、プリミアはその場を動かず、時にはクナイを交わし、時には弾き続けていた。 そんな中、プリミアは愉快そうに叫んだ。 


「コソコソ隠れて陰湿な奴ー! 私が怖いのかってーの!」


「戦術、と言って欲しいですね」


 凄まじい数のクナイを捌き続けていたプリミアだったが、そんなプリミアの前に、遂に森の中からジュナが歩いてやってくる。


「ようやく弾切れ? あんな物じゃ私に傷一つ付けれないよー?」


「そうですね。 ですが、動きを止める事は出来ます」


「なん・・・!」


 その時、プリミアの動きが止まる。 ぷるぷると身体を震わせ、自身が動けなくなっている事に気づいたプリミアは、何が起こったのかその時、初めて理解した。


「これが狙い、か」



「影縫い・地縛の章」



 プリミアは自身の足元に無数のクナイが刺さっているのを目にすると、歯軋りを起こした。


「森の中ですから、影が薄いです。 それに、貴女自身の強さも相まって、かなりの数を使いました。 ですが、これで終わりです」


 クナイを構えるジュナに対し、プリミアは動けない身体で喉奥を鳴らし始めた。


「くっ、くくっ・・・」


「何が可笑しいんですか」


「小娘が! この私をこんな物で抑えたと思っているのか!」


 瞬間、プリミアが力を込めると、爆発的な妖力を引き起こした。 衝撃で足元のクナイが一斉に吹き飛んび、近づいていたジュナも吹き飛ばされてしまう。


「くあっ・・・そんな!!」


 (あたしの影縫いを無理やり引き抜いた!?)


「マヌケが!!」


「あぐっ!」


 ジュナの顔を鷲掴みにしたプリミアは、そのまま木々を破壊しながら突き進んで行く。 顔を掴まれている痛みと、木々にぶつけられる衝撃でジュナの意識が飛びかけてしまう。 しかし、今意識を刈り取られる訳にはいかない。 それは即ち死に繋がる。 ジュナは朦朧とする中、プリミアの手を掴み、引き剥がしに掛かった。


 (なんて悍ましい空気! 降り解けない!)


「マヌケめマヌケめマヌケめ! お前如きが私と対峙するなど千年早いわ!」


 プリミアは勢いをつけたまま、更に地面に叩きつけ、ジュナの顔を押しつぶしていく。 余りの衝撃にクレーターが出来上がり、ベキベキと鈍い音が響いて行った。


「あぎっ・・・いぎぃ!!」


 (ダメだ・・・コイツ、化け物だ・・・! あたしなんかが相手出来る相手じゃなかった!)


 自身の力の無さを恨みながら、ジュナの意識が薄れていく。 このまま死ぬのか。 ダメ。 あたしが此処で死んでしまったらコイツはきっとさっきの人達を襲う。 それだけはさせない。 ブルデンバウム最高戦力であるソフィア様の御付きである以上、そんな醜態は見せられない。


「このまま潰れ死ね!」


「いぎぃ・・・! くああっ!!」


 (これだけ、これだけ接近してるならあたし自身も危ないけど・・・今はそうも言ってられない!)


「さあ! 死ね死ね死・・・?」


 プリミアに感じた違和感。 それは、自身の身体に纏わりつく細い糸だった。 糸に油の様な何かが纏わりついているのか、ネバネバとしたそれに気づいた時、プリミアは次に自身に起こる事を瞬時に把握した。


「きさっ・・・!」



殺糸(さっし)・炎舞の章!!」



 ジュナが手元に持つ糸に火種を付けると、プリミアは爆音と炎に包まれた。 



「かはっ・・・はぁはぁ」


 ジュナは一瞬、炎に包まれたプリミアから一瞬だけ、自身を抑えていた手から力が弱まったのを見逃さず、その場から離れ、炎から免れた。 しかし、ジュナへのダメージは大きく、ジュナは立ち上がる事も出来ず、倒れたまま炎に包まれるプリミアを見つめていた。


「はぁはぁ、くあっ・・・うう!」


 全身が悲鳴を上げている、あんな化け物相手によく死ななかったものだ。 ソフィア様も褒めて下さるだろうか。 しかし、これではまともに動く事させ出来ない。 今、雑魚の魔物が現れても戦う力もないあたしじゃ、簡単に殺されてしまう。 やっぱり、ここまでなのか。 もう、意識も・・・


「ソフィ・・・ア様」






「マヌケ。 あんな物で私を殺せると思った?」


挿絵(By みてみん)


 飛びかけた意識の中、ジュナは聞き覚えのある声に薄っすらと目を開けた。 そこには“禍渦(まがうず)”と呼ばれる姿になっていたプリミアが立っていた。 その姿を見た時、ジュナは絶望を感じた。 本気じゃなかった。 今までの戦闘ではコイツは唯遊んでいただけだった。


 (そ、そんな・・・)


「中々面白い技だ。 目に見えない程細い糸。 最初にクナイを飛ばしてきた時に既に仕込んでいたのか」


「ううっ」


「終わりだ。 マヌケ」


 プリミアが大きく足を上げ、ジュナの頭を踏みつぶそうとした、正にその瞬間だった。


「っ!!」


 悪寒が走る程、凄まじい殺意を背後に感じたプリミアが振り返ると、そこにはジュナが最も敬愛する人物が立っていた。


「ソフィア・・・様」


 歴戦の魔族でさえ怯む視線、そして、凄まじい殺意を放つソフィアに対し、プリミアの全神経が警告を鳴らした。 コイツはヤバイ。 今のままでは確実に殺される。 直ぐにでも本気を出せ。 出なければ死ぬぞ、と。


「がああっ!!」


 自身を中心に爆発的妖力を解放し、“禍渦”と呼ばれる姿に変貌したプリミアに対し、ソフィアは眉一つ動かさず手に持つ剣に力を込めた。


「逝ね」


 ソフィアから繰り出される見えない剣が、無慈悲にもプリミアに襲い掛かった。

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